ローエンドとハイエンドで180倍以上の性能差がある
System/360
当初発表されたのはSystem/360のModel 30/40/50/60-62/70/90/92である。ただしそのまま登場したのはModel 30/40/50のみで、Model 60-62は翌年発表のModel 65で、Model 70はやはり翌年発表のModel 75でそれぞれ置き換えられることになった。
画像の出典は、IBM Archives
Model 90/92は結局1966年発表のModel 91で代替されることになっている。ちなみに発表こそ1964年4月だったが、出荷開始は1965年の4月以降というわけで、入手にはやや時間がかかっている。またスペックを比較すると以下の数字が残されている。
System/360のスペック比較表 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
科学技術計算性能 | 商用計算性能 | メモリー容量 | メモリー帯域 | |||
Model 30 | 10.2KIPS | 29KIPS | 8~64KB | 0.7MB/sec | ||
Model 40 | 40KIPS | 75KIPS | 16~256KB | 0.8MB/sec | ||
Model 50 | 133KIPS | 169KIPS | 64~512KB | 2.0MB/sec | ||
Model 65 | 563KIPS | 567KIPS | 128~1024KB | 21MB/sec | ||
Model 75 | 940KIPS | 670KIPS | 256~1024KB | 43MB/sec | ||
Model 91 | 1900KIPS | 1800KIPS | 1024~4096KB | 164MB/sec |
ローエンドのModel 30とハイエンドのModel 91では科学技術計算性能で180倍以上、メモリー帯域では230倍以上の性能差がある。今で言えばCeleronのローエンド(例えばCeleron G1610)とCore i9のハイエンド(例えばCore i9-7980XE)で10倍以上の性能差(と40倍以上の価格差)があるが、これをさらに拡大したような感じだろう。
とはいえCeleron/Core i9と同様に、同じOSやアプリケーションがそのまま動作するため、例えば初期投資は低く抑えて小さめのシステムからスタートし、稼働状況が高止まりするようになったら追加投資で上位機種にアップグレードする、という導入の仕方も可能になったし、IBM自身もこれを積極的に推奨するようになった。
少し後の話になるが、ある機種を導入する際に初めからプロセッサーとメモリーはフル構成にして設置し、ユーザーからはフルに使えないように制限しておくという導入の仕方も行なわれるようになっている。後になってユーザーからリクエストが出たら、その制限を取り外すことでメモリーとプロセッサーをフルに使えるようになるわけだ。
最近でこそ、それこそWindowsのライセンスのように「同じハードウェア/ソフトウェアながら、ライセンス料に応じて機能を制限する」ということに抵抗はなくなったが、当時この話が露呈すると「それは汚い(Dirty Business)」と話題になったりもした。
System/360によって再び
コンピューター業界のトップの座に就く
もう1つ、この当時から話題になっていたのはVaporware商売である。Vaporwareという言葉はもっと後年になって出てきたので、この当時はまだVaporwareとは呼ばれていないが、要するに「正式出荷になるずっと前に発表し、顧客をつなぎとめる」というやり方である。
CEOであるWatson Jr.氏自身がこのやり方のベテランであり、それもあってSystem/360でもハイエンドのModel 90は、2年後にやっとModel 92として顧客の元に配送が始まるといった具合であった。これは1968年になってCDCにより訴訟のネタになる。CDCはIBMが「幻(Phantom)のコンピューターシステム」を販売し、これによりCDCの潜在的な顧客を奪ったとしたのだ。
これに他のコンピューターメーカーも続き、合計で22件の訴訟が起こされることになる。米国政府も1969年に同様の訴訟を起こし、こちらはロナルド・レーガン政権で判決が出る直前に訴訟が取り下げられるまで、実に13年も続くことになった。
ただこうした問題は全体としてみれば小さいものであり、顧客はSystem/360を喜んで導入することになる。この後IBMはローエンドにModel 22を、ハイエンドにはModel 195を追加しつつ、さまざまな周辺機器を追加してラインナップを厚くしている。そしてこの直前から圧倒的な強さを誇っていたIBMは、System/360によって押しも押されもせぬコンピューター業界のトップの座に就くことになる。
System/360の時代は1971年まで続くことになる。ただこの前にSystem/360の開発の総責任者だったWatson Jr. CEOは1970年に心臓発作に見舞われて体力的な限界を感じ、1971年にCEOの座を退く。またSystem/360のチーフアーキテクトだったGene Amdahl博士は1968年にIBMを辞してAmdahl Corporationを創業したという話は連載439回に書いた。こうして新しいCEOの下、次なるシステムの開発に向けてIBMは邁進していくことになる。
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