9月12日(米国時)にiPhone XSが発表され、日本でもITジャーナリストやご意見番が、さまざまな意見や感想がネットや紙面にぎわしていることでしょう。しかし、そんな意見や感想のなかには、さまざまバイアスがかかっていると感じるのは、僕だけはないかもしれません。たとえば、キャリア特有の2年縛りによる「違約金を払ってでも買い換えるか?」なんてバイアスです。もし、自分が買い換えるタイミングなら、「新iPhoneは良い!」なんて思いがち…。
そんなバイアスがかかるのは筆者も同じです。ですから、ここでは「iPhoneの新商品、新機能がどれくらい市場に受け入れられるか?」の新たな分析として、スティーブ・ジョブズ シアターでの新製品発表時の観客の拍手の長さで、新機種や新機能が受け入れられるかを予測してみようと思います。
「きっと観客もサクラでしょ…」なんて、邪推する人もいるかもしれません。しかし、筆者が長年Appleの発表をみる限り、市場評価と観客のリアクション(拍手の大きさや長さや有無)は比例関係にあると判断しています。観客はアプリ製作者やベンダー、ITジャーナリストなど。おそらくAppleは、市場と観客の反応が正比例になるよう、ある程度、観客を慎重に選択しているのかもしれません。そのあたりは、1兆ドル(約111兆円)の資産価値がある企業の誠実さと自信なのでしょう。
拍手の長かったシーン、新商品/新機能のランキング
発表時の拍手の長さは、手持ちのストップウォッチで測定。小数点以下を切り捨てとし、5秒以上をピックアップしてランキングしました。筆者はアメリカや英国で仕事で舞台に立つこともありますが、観客からの5秒の拍手というのは、登壇者の発言をストップさせるので、かなり長く、「とても良い」の正直な評価といっていいでしょう。冒頭でも触れましたが、海外では「義理で拍手」というのはあまり見かけません。
新製品/ラインナップ/新機能のトップは「心電図測定」
新製品や新機能ではありませんが、1位になったCEOティムクックの登場シーンの24秒。おそらく「いままでiPhone群、Apple社への今までの成功への評価」や「今回発表される新商品/新機能への観客からの期待」ともいえる象徴的なシーンだったのでランクインにしました。
新製品/ラインナップ/新機能に限定すれば、トップになったのはリニューアルされたApple Watch 4の心電図測定機能の発表。これは、心臓のトラブルによる疾病が世界中で重く受け止められていることからのリアクションです。医療機器の認定は国や地域により事情が異なるので、日本含め各国での対応は未知数。しかし、健康管理にさらなるステップを置き、医療機器とデジタルウエアの境界線を越えるAppleを高く評価したものといえるでしょう。
3位以下を分析すると、特筆するべきは「スポーツARアプリ」や「撮影後に背景のフォーカスを調整できる新機能への評価」。観客にアプリ製作者やジャーナリストが含まれることを考えれば、iPhoneが2次元データの写真やビデオから空間を把握する機能を強化したことは大きな進歩です。それは5位になった、新iPhoneの内蔵チップ「A12 Bionic」の処理速度の飛躍的な向上があったからでしょう。
新たな環境対策、Apple GiveBackプログラム
予想外の長い拍手を獲得したのは、新しい環境対策「Apple GiveBack」です。執筆時(9/13)に日本での対応は不明ですが、これはiPhone 5s以降のiPhoneをアップルが引き取り、対価をユーザーに払い戻し、修理不可能なものはAppleが無料で引き取ってリサイクルするというプログラムです。「できるだけお手持ちの製品を長く使っていただくことが、地球環境のためになります」という、Appleの利益にならない提言は、発表を観ていてかなり驚きました。その意外性が、高く評価され、9秒という長い拍手を生みました。拍手の長さを日本語で表現するなら「すげーな、それ!」でしょうか…(笑)
そうした社会や世界におけるAppleのポジションへの評価がランキングに目立ちます。たとえば、「20億台のiOSデバイス(iPhone、iPad、Apple Watch、Apple TVなど)が販売されていること」(11位)。新しい本社の電力が建物の屋根に設置された太陽光パネルなど、100%再生エネルギーでまかなわれている(12位)ことも筆者は驚きました。iMessageやFaceTimeなど、Apple本社のデータセンター(サーバー)の利用にも再生エネルギーが使われているそう。
拍手の長さ(マーケット)の評価は最先端と会社の創造的価値
ランキング全体を見ると、スマホのゲームユーザーの広がり、ARゲームがリアルなものになったりと、最先端のテクノロジーが注目されがちかもしれません。おそらく、多くのユーザーが見るレビューやニュースも液晶画面のサイズや価格などスペックやカラーを中心に書かれていることでしょう。しかし、スティーブ・ジョブズ シアターの観客の反応をみると、多くの人々…、世界が求めているプロダクツの姿がイメージできる気がしています。
ますますリッチになるゲームやネットのコンテンツ。スマートフォンの処理速度も重要ですが、多くのユーザーが求めているのは、製品や企業の創造的価値や環境配慮と自分のライフスタイルを重ね合わせること。今回の発表と観客のリアクションを眺め、筆者はそんなことを推測しました。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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