このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

山谷剛史の「アジアIT小話」 第157回

日本のホテルの無料レンタルスマホは中国人観光客には使いにくい

2018年08月23日 12時00分更新

文● 山谷剛史

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

Googleアカウントなしでも
よく使われるアプリは導入できる

東京の旅行情報が見られる「Tokyo Tourist Information」

東京の旅行情報が見られる「Tokyo Tourist Information」

 「観光コンテンツ」については、「Tokyo Tourist Information」や「MATCHA」「LUXOS」といったインバウンド向けメディアの記事が見られるようだ。

 ただ、中国語簡体字を言語として設定しておきながら、Handy上では英語でしか表示されなかった。

 中国語コンテンツがあるのに中国語対応していない点には詰めの甘さを感じたが、中国人向け以外ならアリだろう。

 おそらくはだいたいの海外旅行客はTripAdvisorなどから情報を得るのが一般的だろうが、TripAdvisor以外の両サイトから情報を得られるという意味でもこのスマートフォンの存在は有用であろう。

 「アプリインストール可」は、その文字の通りであり、Google Playから必要なアプリがインストールできるし、あらかじめ「Facebook」「twitter」「Instagram」「Google翻訳」「TripAdvisor」「Skype」「Pintarest」「WeChat」「QQ」などをインストールするためのアイコンが用意されている。

ワンタップでダウンロード&セットアップが可能なアプリ

ワンタップでダウンロード&セットアップが可能なアプリ

 Google Playを使う場合はGoogleアカウントの登録が必要となり、手間と時間がかかる。インストールアイコンがあることで、その回避策も用意されているわけだ。

 今回の記事執筆にあたり、AnTuTuをインストールし実行したが、旅先のホテルでインストール作業なんて旅の同行人がいれば、普通は許してくれそうにない。

 Google Playからのアプリインストールはできるが、あくまで「できること」程度にとらえるほうがよさそうだ。

そもそもGoogleアプリに慣れていない中国人には使いにくい

「Handyランチャー」によるメニュー画面

「Handyランチャー」によるメニュー画面

 デフォルトの「Handy(専用)ランチャー」上には、「IP電話」「観光情報」「YouTube」「Google Map」「Google Chrome」「Google Playストア」のアプリが登録されている。

 電話をかけて、見どころや評判のレストランへのナビゲーションができて、観光情報が見られるわけだ(欲を言えばGoogle翻訳もデフォルトで使えてもいいと思った)。

 スペック相応に動きはもっさりするし、テザリングはできないというマイナス面はあるが、電話やちょっとした観光情報確認など、用途を限定すればよさそうに感じた。

 一方、中国人視点で考えてみると実に使いづらく、そして中国人向けに使いやすくするのは大変難しいとも思った。

 中国ではTwitterやFacebookやYoutubeなどをシャットアウトしているのは知られているが、Googleもまたシャットアウトしているため、Google MapもGoogle Playも中国のスマートフォンに入っていない。

 Googleのサービスをほぼ使った経験がない中国人に、いきなりホテルで異なるアプリばかりの世界標準のスマートフォンを借りて外で使いこなそうというのは、ギーク以外難しい話である。

 そもそもGoogle Playにはアップされておらず、中国独自のアプリストアにしかない中国のアプリも普通にある。

 だからそもそも「日本にようこそ」という外国人向けの広告で、「Google Playからダウンロードしてください」系のアプローチでは中国人にまるで通じないのである。

中国人がレンタルスマホを使わないのは
電話番号とアプリと電子決済が紐づいているから

 日本に観光に来る中国人は、中国で必須のアプリが入った中華スマホをそのまま持ってきている。

 定番のアプリを考えるに、中国の検索アプリの「百度」や地図アプリは登録なしで利用できるが、海外情報にはめっきり弱い。

 だからといって中国のアプリが日本でまるで使い物にならないかというとそうでもない。

 電子決済の「支付宝(AliPay)」やSNSの「微博(Weibo)」、口コミクーポンサービスの「美団(Meituan)」など、さまざまな定番サービスが位置情報を受けて日本旅行情報に切り替わる。

 「Ctrip」「飛猪」などの人気旅行サイトを見ると、日本や外資の旅行サイトよりも安くホテルが予約でき、支付宝や微信支付といった電子決済でチケットが安く買えるので利用勝手がいい。中国人は外国旅行に行く際も中国のアプリがマストになるわけだ。

 しかも中国では、実名登録で得た電話番号で各アプリを登録する仕組みとなっており、中国国外の電話番号があったところで登録できない。

 さまざまな使えるアプリが絡みあい、電子決済と紐づいて初めて真価を発揮するわけだ。

 仮に数日利用可能なレンタルスマートフォンがあって、上記の人気アプリがインストールされていたとしても、それぞれのアプリでログイン作業を改めてするのは面倒だ。

 中国人観光客は無視できないほどやってきているが、だからといって彼らに喜ばれるデバイスを貸すことは難しい。せいぜい中文での観光情報を提供するくらいしかないようにも思える。

 改めて中国人が日常的に使うアプリは、1つのスマートフォンに密接に関わっていて、それ以外のスマホを使わせるのは難しいと感じた。

ナビができるデバイスは多くあるほうが心強い

ナビができるデバイスは多くあるほうが心強い


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)、「日本人が知らない中国インターネット市場」「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」(インプレスR&D)を執筆。最新著作は「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立 」(星海社新書)。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン