学生起業家がつくるスポーツビジネスの未来
「UNISPO NIGHT ― 学生起業家が考える大学スポーツビジネスの最前線」レポート
2018年3月28日に東京都内で開催された「UNISPO NIGHT ― 学生起業家が考える大学スポーツビジネスの最前線」。“学生が主体となって大学スポーツを盛り上げるには何をしたらよいのか”、“今後の大学スポーツやスポーツビジネスはどうなるのか”といったテーマのもとで行なわれたイベントの模様をレポートする。
このイベントは、大学サッカーの人気と競技レベルの向上を学生が主体となって達成することを目指す一般社団法人ユニサカと、スポーツエンターテイメントアプリ『Player!』を開発、提供する株式会社ookamiによるイベントだ。会場には約40名の学生参加者が集まり、前半はユニサカとookamiによるプレゼンテーション、後半はトークセッションという構成で行なわれた。
大学スポーツを盛り上げるアンバサダープログラム
最初にプレゼンしたookamiの尾形太陽代表取締役は、まずは自社の事業の概要を紹介。試合の得点速報などのリアルタイム情報を受け取れる『Player!』では、野球やサッカーなどのメジャースポーツだけでなく、マイナースポーツや学生スポーツもカバーしているのが特徴となっている。尾形氏の口からは、Player!は新しいスポーツ観戦体験の提供を目指しており、2014年創業のookamiが挑戦を続けていることが語られた。
その上で、2018年1月に発表した“College Sports Ambassador”プログラムについても説明。このプログラムでは、大学スポーツ11競技のそれぞれに1名のAmbassadorを置き、彼らがPlayer!や各種ソーシャルメディアなどを駆使して発信することで、競技を盛り上げることを目指している。尾形氏は「マーケティングやスポーツビジネスに興味がある人には、良い実践の場となるはず。大学スポーツを変えたいという情熱を持つ人は、ぜひ一緒に挑戦しましょう」と会場にいる学生たちに参加を呼びかけた。
尾形氏のプレゼンでは、日本の大学スポーツは“日本版NCAA”の創設に向けた議論を契機として、大きな転換期を迎えているという現状も提示された。NCAAとは、全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association)の略称で、米国において大学横断的かつ競技横断的に大学スポーツを統括している組織のこと。このNCAAをモデルとし、スポーツ庁が中心となって2018年度中の創設に向けて議論が進んでいるのが日本版NCAAとなる。
日本版NCAAが実現すれば、アスリートの安全対策や競技場の整備など、競技環境の改善が進み、競技力や「観るスポーツ」としての魅力も向上。これにより、スポンサー収入や放映権料などの増加が見込まれ、大学スポーツの産業化に弾みがつく。現状はスポーツビジネスの小規模なマーケットでしかない大学スポーツが、プロスポーツにも引けを取らないマーケットへと化ける可能性が生まれるわけだ。
スポーツのつくり手を増やしていく
尾形氏に続いてプレゼンを行なったのは、ユニサカの須原健太氏だ。須原氏は、日本のスポーツビジネスの最大の問題点は閉鎖的であることと指摘し、ユニサカはこれをオープンにすることを目指していると説明。早稲田大学と慶應大学のサッカー部員が中心になって立ち上げ、周囲の人たちを巻き込むことで「試合の作り手」を増やし、そこから発展してきたユニサカの歴史を紹介した。
その上で、今後は、ユニサカが培ってきたスキームの精度を高め、それをクラブチームなどにコンサルティングする新規事業を開始すると発表した。オンラインサロン的な位置付けの“ユニスポ研究所”を設置し、チームとファン、企業などをまとめてコミュニティー化。スポーツイベントの企画や集客、運営に共同で取り組むことで、イベントを成功に導くことを目指すという。
熱狂をつくり、熱狂が生むスポーツビジネス
続いて行なわれたトークセッションでは、3度のオリンピックに出場した元アスリートで、現在はDeportare Partnersの代表を務める為末大氏がモデレーターとして登場。為末氏が司会を務め、ユニサカの原田圭代表理事、株式会社WaterFowlの池田吉来代表取締役CEO、株式会社ventusの梅澤優太取締役COOに質問を投げかける形式でトークが繰り広げられた。
最初に自己紹介を行なった原田氏に対して、為末氏は「大学スポーツが盛り上がらないのはなぜだろう?」と問いかけた。それに対して、原田氏は「競技場や人材といったインフラの不足が大きい。また、競技団体の数が多すぎて、権利関係の整理が難しく、物事がなかなか前に進まなない傾向にある」と返答。スポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員も務めるだけに、そのあたりの問題意識が強いようだ。
池田氏が代表取締役を務めるWaterFowlは、テニスや卓球、バドミントン向けのスポーツ分析システム『Spolyzer』を開発中だ。為末氏が開発の動機や狙いを尋ねると、池田氏は高校時代から本格的にバドミントンに打ち込んでおり、アスリートに対して畏敬の念を持っているとした上で、「ビジネス的な狙いももちろんある。マイナースポーツはまだ誰も手を付けていないという意味で、有利だと思っている」と答えた。
ookamiにインターンとして在籍した経験があり、現在は為末氏のオフィスを間借りしている梅澤氏は、ventusを2017年11月に設立したばかり。ブロックチェーン技術を利用して、スポーツチームやアスリートがファンから資金調達する仕組みを開発している。為末氏が「学生スポーツには、お金を稼ぐべきでないというマインドがあるが、それについてはどう思う?」と質問すると、「自分自身が営業活動した感触では、そのマインドはあまり感じなかった。営業での苦労はあまりない」と返答した。
今回のイベントの参加者は少なからずスポーツビジネスに興味がある人たちということもあり、為末氏は「他業界と比べて、スポーツビジネスの強みは?」という質問も3名に投げかけた。これに対して、梅澤氏は「熱中とか熱狂の要素があるところ」と返答。原田氏も「スポーツには勝敗があるので、応援の気持ちや思い入れ、熱狂が生まれる」と答えた。また、池田氏は「現状は、競合企業が少ないので、目立ちやすく、勝ちやすい環境にあると思う。また、体育会系の縦社会では、若者は気に入られやすいというメリットもある」と強調した。
トークセッションの締めとして、為末氏はイベント参加者に向けて「今回のトークセッションは、ビジネスの話を深く突っ込むのではなく、『スポーツビジネスはなんだか面白そうだな』とみなさんに感じてもらえるような内容を心がけましたが、どうでしたか?」と発言。参加者は学生のみで、中にはこの春から大学生という人もいたが、休憩時間には参加者同士の交流も盛んに行なわれるなど、全員が積極的に参加して得るものも多かったようだ。