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最新パーツ性能チェック 第227回

“Pinnacle Ridge”こと第2世代Ryzenで、CPUパワー競争はさらに過熱する

2018年04月19日 22時00分更新

文● 加藤勝明 編集●ジサトラショータ

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消費電力はそれなりに大きい

 CPUの処理性能と消費電力はほぼ連動する。14nmから12nmLPプロセスに移行したことで消費電力の低減が期待できるが、第2世代Ryzenはそのぶん生まれたマージンをクロック上昇に割り当てているため、トータルではどうなるかが気になるところだ。そこで消費電力を比較してみよう。

 ここではシステム起動10分後の安定値を“アイドル時”、「OCCT Perestroika v4.5.1」の“CPU Limpack(64bit、AVXあり、全論理コア使用)”を10分動かした際の安定値を“高負荷時”として測定した。

↑システム全体の消費電力

 アイドルが全般的に高めなのはRyzen系共通の特性だが、高負荷時になるとRyzen 7 2700XおよびRyzen 5 2600XのX付きモデルの消費電力が突出している。特にRyzen 7 2700Xと同じ8コア16スレッドでも2700無印から100W近く増えてしまった。Precision Boost 2に加えXFR2でクロックを限界近くまで引き上げているのだから当然なのかもしれないが、高負荷時250W台は、筆者の経験ではインテルのエンスージアスト向けCPU「Core i9-7900X」にほぼ匹敵するものだ。コストパフォーマンスは非常に良い第2世代Ryzenだが、ワットパフォーマンスという点ではまだインテル製CPUに及ばない。ワットパフォーマンスを重視するのであれば、Ryzen 7 2700のようなXなしモデルを選ぶべきだろう。

 さて、これだけ突出した消費電力を叩き出したRyzen 7 2700Xは、果たして同梱されるWraith Prismクーラーで運用できるのだろうか? その疑問を検証するため、ストレステストでおなじみのベンチマークソフト「OCCT」のCPU Linpackを約20分実行、その後アイドル状態で約10分放置した時のCPU温度等のデータを「HWiNFO64」で追跡してみた。Ryzen系CPUの一部のモデルには、BIOSで読み取れる温度(tCTL)はオフセット値が加算されるため、実際のダイ温度(tDIE)よりも高く計測される。Ryzen 7 1800Xでは20℃のオフセット値だが、Ryzen 7 2700Xは10℃のオフセット値になっている。ちなみに、第2世代RyzenではRyzen 7 2700Xのみがオフセット値を利用する。

↑OCCTのCPU Limpackを実行した時の温度の推移

 このグラフからも分かる通り、tCTLの値は常にtDIEより10℃、オフセット値の分だけ高く出ている。ゆえにBIOSの温度情報だけを見ると高負荷時は90℃台中盤まで到達するが、ダイの温度は80℃台にとどまっている。決して低い値とはいえないが、付属のクーラーでここまで運用できれば十分といえるのではなかろうか。

X370とX470で性能の差はある?

 第2世代RyzenはBIOSを更新しさえすれば、既存のX370やB350等のAM4用マザーでも運用できることは既に示した。では今X370マザーを使っているユーザーがX470マザーに乗り換えるメリットはあるのだろうか? そこで、今回は同じASUSTeKの「ROG STRIX X370−F GAMING」も準備し、同じCPUで同じ処理をさせた時の性能差をチェックしてみた。

 テストは「CINEBENCH」「TMPGEnc Video Mastering Works 6」「Lightroom Classic CC」「Assassin's Creed: Origins」でそれぞれ実施した。テスト条件等は基本的に前掲のテストと同じだが、残り時間の関係で省略したものもある。ゲームはCPUパワーの影響の強いフルHD設定のみ計測した。

↑「CINEBENCH R15」のスコアー

↑「TMPGEnc Video Mastering Works 6」を利用した動画エンコード時間

↑「Lightroom Classic CC」で200枚のRAW画像を処理した際の時間

 一部例外はあるものの、第2世代Ryzenはほんの僅かだがX470マザーで良い結果が出ているが、誤差といっても良い範囲で、今後X370マザー側のBIOS更新で追いつける可能性も十分にある。だが現在開発中のPrecision Boost Overdriveや、まだ詳細が不明な「StoreMI」など、X470マザーの方が将来的な伸びしろは大きい。今すぐ買い換えずとも、良い製品が出たら乗り換える心づもりをしておいた方がよいだろう。

 さらに、以下の表はOCCTのCPU Linpackを実行するコア数を1基ずつ増やしていき、その際のCPU倍率(CPU-Z読み)を追跡していったものだ。負荷をかけて2分過ぎから3分までの間に表示された倍率を読み取るが、この数値は状況により目まぐるしく変動する。そこでその時の一番低い値をカッコの外に、比較的頻出した値のうちで最も高いものをカッコの中に記した。ただ目測であることと、XFR2やPrecision Boost 2の仕様上温度等の条件も影響するので、絶対この値が出るとは断言できないし、今後のBIOSで改善される可能性も十分ある。あくまでレビュー時はこういう傾向にあった、という点だけ見て頂きたい。

↑X470マザーに各CPUを装着してOCCTで負荷をかけた時のCPU倍率

↑X370マザーに各CPUを装着してOCCTで負荷をかけた時のCPU倍率

 今回テストした環境では、X370の方が低い倍率で動作することが多いように見受けられる。クロックが変動する分のロスが、X370マザーがX470マザーにわずかに負ける原因になっているのだろう。

まとめ:弱点を確実に潰し、コスパを強烈に向上させたCPUだ

 筆者は初代Ryzenも実際に運用しているが、シングルスレッド性能の低さから、Core i7のマシンに比べるとややキレが悪い印象があった。最初期から触っているせいでメモリーにも苦しめられたため、正直Ryzen 1000シリーズに関しては高い評価をしていない(むしろThreadripperの方がキャラが立っていて素晴らしい)。

 ところが今回の第2世代Ryzen、特に最上位のRyzen 7 2700Xは、これまでRyzen 1000シリーズにあった“物足らない感”を一気に解消してくれた。Core i7−8700Kとほぼ同じ値段で8コア16スレッド、マルチスレッド処理の重要な処理では実に良く回る。ゲーム系が弱いのが残念だが、シングルスレッド性能をHaswell程度まで引き上げた点は大いに評価したい。去年この性能で出せていればと悔しくなるほどの出来だ。

 ゲームの快適さが全てという筆者のような人はともかく、普通の自作erにとっては、もうRyzenはCoreプロセッサーと同レベルで選んでよいCPUに進化したと言っていい。Precision Boost Overdriveのように工事中の機能があるのは残念だが、これが開放された時に、またどこまでインテル製CPUに迫れるのか、今から楽しみでならない。

●関連サイト

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