マイクロソフトが開発を進めてきた“オンプレミス版Azure”「Azure Stack」が今夏、ついにGA(一般提供)になった。7月10日(米国時間)に、マイクロソフトのパートナー向けグローバルイベント「Microsoft Inspire 2017」の基調講演で受注開始がアナウンスされており、9月末に出荷が始まる。
9月末に出荷が開始されるのは、Dell EMC、HPE、Lenovoのハードウェア上にAzure Stackのシステムを構築したアプライアンス。日本を含む46カ国に提供される。この3社のほかに、シスコシステムズとHuaweiもAzure Stackをバンドルしたハードウェアを提供する計画を発表しているが、シスコのアプライアンスのオーダーはまだ開始されていない(シスコは2017年中、Huaweiは2018年第1四半期に提供開始予定)。
GAしたAzure Stackの機能と用途、料金体系について、日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズ ビジネス本部 クラウドプラットフォーム製品マーケティング部 エグゼクティブプロダクトマネ-ジャ-の伊賀絵理子氏と冨永晶子氏に、一問一答形式で教えてもらった。
Azure Stackで提供する機能は?
Azure Stackは、パブリッククラウドのAzureのIaaS、PaaSの機能をオンプレミス環境で利用可能にするものです。
IaaSとして、(1)仮想マシン(VM、VM Scale Sets)、(2)Dockerコンテナー(Linux/Windowsコンテナー)、(3)ネットワーク(仮想ネットワーク、ロードバランサー、VPNゲートウェイ)、(4)ストレージ(Blob、テーブル、キュー)、(5)アプリケーションのキー管理サービス「Azure Key Vault」を、出荷時から組み込んで提供します。
PaaSの機能は、ユーザーが必要なものを選択してIaaS上に実装できる仕様になっています。PaaSとして、(1)アプリケーション開発環境「Azure App Service」、(2)サーバーレスコンピューティング基盤「Azure Functions」、(3)マイクロサービス基盤「Azure Service Fabric」、(4)コンテナー管理基盤「Azure Container Service」、(5)オープンソースのPaaS基盤「Cloud Foundry」を提供します。
Azure StackとAzureの関係は?
Azure Stackは、パブリッククラウドのAzureの“拡張機能”と位置付けられています。Azureと組み合わせたハイブリッドクラウドで利用することを前提に設計されており、インフラ管理はARM(Azure Resource Manager)で、ID管理はAAD(Azure Active Directory)で共通化されます。
Azure StackとAzureのハイブリッドクラウド環境では、アプリ開発の一貫性が完全に保たれており、オンプレミスとクラウドのどちらで実行するかに関係なく同じ方法でアプリを構築してデプロイできます。また、ハイブリッドクラウド環境全体で共通のDevOpsのアプローチを実装可能です。
Azure Stackは、ユーザー専用の1つのAzureリージョンと捉えることもできます。GA時点では、1つのAzure Stackリージョンに1つのスケールユニット(1つのスケールユニットは最小4ノード、最大12ノードで構成)が配置可能になっています。2017年中にスケールユニットが最大16ノード構成に拡張され、1リージョンに複数のスケールユニットを配置可能になります。また2018年中には、リージョンをまたがる地理的冗長性やスケールに対応する予定です。
Azure Stackの用途は?
3つのユースケースを想定しています。Inspire 2017では、この3つのユースケースについてそれぞれAzure Stackの先行事例が発表されました。
まず1つ目は、クラウドに常時接続できない環境での利用。米国のクルーズ会社Carnival Cruise Linesは、客船にAzure Stackを乗せ、ネットワークに接続できない海洋航行中はAzure Stackからアプリケーションを利用しています。アプリケーションの開発はAzure側で行い、船が港に着いたときだけAzure Stackをネットワークにつなげてアプリケーションんをアップデートします。
2つ目は、データをクラウドに置けないけどアプリケーション開発はクラウド型でやりたいというケース。デンマークの投資銀行Saxo Bankは、政府の規制により金融データをクラウドに置けないため、データはAzure Stackのオンプレミス環境で保持してアプリケーション開発はAzure側で行っています。
3つ目は、多角経営をするグループ企業や、法規制の異なる地域にまたがって展開するグローバル企業での利用。アプリケーションをクラウド側でアジャイルに開発して常に最新の状態にしておき、ローカルへの配信は、各業界や各地域のレギュレーションに合わせて行うといったケースです。三井物産グループの情報子会社である三井情報(MKI)は、製造、金融など様々な事業会社をグローバル展開するグループ各社にアプリケーションを配信するために、アプリケーション開発はAzureで、アプリケーションの実行環境はAzure Stackのローカル環境に置くという運用を行っています。
各社のアプライアンスの違いは?
GA時点で、Dell EMC、HPE、Lenovoの3社から、Azure Stackを構築済みのアプライアンスが発売されています。Azure Stackの稼働要件があるので3社ともサーバーのスペックは同じ。違いは、ネットワーク環境や運用サービスにあります。
Dell EMCから発売する「Dell EMC Cloud for Microsoft Azure Stack」の仕様とハードウェアの価格は次のとおりです。
HPEから発売する「HPE ProLiant for Microsoft Azure Stack」の仕様とハードウェアの価格は次のとおりです。
Lenovoから発売する「Lenovo ThinkAgile SX for Microsoft Azure Stack」の仕様とハードウェアの価格は次のとおりです。
Azure Stackの料金体系は?
Azure Stackを利用する場合は、前述のハードウェアの価格のほかに、Azure Stackのソフトウェアの利用料金が発生します。ソフトウェアの利用料金プランには、使用した分だけ支払う「従量課金モデル」と、固定料金での年間サブスクリプション「容量モデル」の2種類を用意しています。容量モデルは、例えば利用状況がリアルタイムに把握できないネットワーク非接続環境に適用できます。
ハードウェアの料金はハードウェアベンダー、ソフトウェアの料金はマイクロソフトに支払われますが、サポート窓口は両社にあって連携しています。Azure Stackのシステムのサポートはハードウェアベンダーから提供されます。