デバイス管理を可能にするSORACOM Inventryはインパクト大
いよいよSigfoxにも対応!マルチLPWAの道に進むソラコム
7月5日、IoTプラットフォームを展開するソラコムは年次のイベントである「SORACOM Conference Discovery 2017」を開催した。ソラコム 代表取締役社長の玉川憲氏が登壇した基調講演では深化するユーザー事例やSORACOMの新サービス、LPWAへの新しい取り組みなどが数多く発表され、2000人におよぶ聴衆を魅了した。
ユーザーは7000社に拡大!IoT通信の定番となったSORACOMの軌跡
開催するごとに参加数を大きく伸ばしているSORACOM Conference。2016年1月開催のConnected.は約500名だったが、昨年の7月のDiscovery 2016では約1200名まで拡大し、今回のDiscovery 2017は都内の大手ホテルを会場に、いよいよ約2000名まで参加者が膨らんだ。大手を凌駕する圧倒的なスピードで日本のIoT市場をリードするソラコムへの高い期待がうかがえる。
基調講演に登壇したソラコム 代表取締役社長の玉川憲氏は、パートナーに熱い謝辞を述べつつ、2015年9月のサービス開始から2年を待たず、利用ユーザーが7000社を突破したことを披露。「昨年のDiscoveryが3000社だったので、約2倍以上のお客様に使っていただいている」(玉川氏)とのことで、成長スピードに鈍化がないことをアピールした。また、SPSパートナーも350社以上、認定デバイスも80種類以上に上り、エコシステムも順調に拡大。昨年はグローバル展開も果たし、現時点では120を超える国と地域で利用可能になっている。
新規のユーザー事例も数多く紹介された。遠隔監視としては、ガス・電気の見える化を実現する大阪ガス、ガスタービン発電プラントの遠隔監視に採用したIHI、エレベーターの環境情報取得で利用するフジテック、ソーラー蓄電システムの監視に使う三英社などが紹介された。また、動態監視としては、物流トラックの監視に利用するローソン、無料巡回バスの位置や到着時間を配信する日の丸自動車興業などがSORACOMを導入している。
利用用途はさらに広がっている。テプコシステムズは会議室の利用状況分析、コニカミノルタは外国人の患者の診療業務をサポートするタブレットでSORACOMを採用。その他、可食プリンターの運用管理を実現したニューマインド、感熱センサーを使ったカメラで鳥獣対策を進めるハイク、コンテナ型植物工場の監視・制御に用いたファームシップ、高齢者向けに排泄のタイミングを通知してくれるトリプル・ダブリュー・ジャパンのD FreeなどにもSORACOMが用いられている。重厚長大な従来型ビジネスから、スタートアップを中心とした新産業系まで幅広く活用されているのが大きな特徴といえるだろう。
これまでソラコムは、IoTの課題を解決すべく、多くのサービスをリリースしてきた。通信サービスの「SORACOM Air」からスタートし、アルファベット順でネットワーク、セキュリティ、アプリケーションなどのサービスを提供。顧客の声を聞きつつ、開発されたサービスはこれまで14個、新機能は44におよぶ。
たとえば、クラウドサービスに対してデータを容易に流し込める「クラウドアダプター」を提供するSORACOM Funnelは、6月にはGoogle Cloud Pub/subに対応。ダイドードリンコの未来型自販機「Smile STAND」にも採用され、約15万台でSORACOM Funnelで利用されるという。また、5月にはSPSパートナーがFunnel用のクラウドアダプターを開発できる「Partner Hosted Adaptor」という仕組みを導入。発表時のアプレッソ、Kii、ウイングアーク1stに加え、今回新たにインフォテリアの「Platio」とブレインズテクノロジーの「Impulse」の2つのソリューションとの連携を開始した。
デバイス管理とセキュリティの課題を解消する2つの新サービス
今回は、SORACOM Haravestの次に当たる新サービスとして「SORACOM Inventry」と「SORACOM Junction」を発表。SORACOM Inventryに関してはプリンシパルソフトウェアエンジニアの片山暁雄氏、SORACOM Junctionに関してはCTOの安川健太氏が詳細を説明した。
SORACOM Inventryは「OMA LightweightM2M(LwM2M)」のフレームワークに基づいたデバイス管理が行なえるサービス。IoTの本格導入フェーズに当たって通信回線だけではなく、デバイスまで管理したいという顧客の声に応えたものだという。
SORACOM Inventryが採用するLwM2Mはスマートフォンなどのデバイス管理を実現するOMA(Open Mobile Alliance) DMのIoT版ともいえる軽量なプロトコルで、管理対象のオブジェクトが数多く用意されているのが特徴。SORACOM InventryではLwM2M対応のエージェントをデバイス側に導入し、SORACOM上のBootstrapのエンドポイント経由でデバイス登録と鍵交換を済ませると、デバイスからバッテリ残量や現在位置、メモリ残量などのさまざまなメトリクスを取得できるようになる。また、メトリクス取得のみならず、Webコンソールからの操作でファームウェア更新やリブートなども可能。これまで唯一カバーしていなかったデバイスの管理という課題を解消するという意味で、インパクトのあるサービスと言えるだろう。
一方、「透過型トラフィック処理サービス」を謳うSORACOM Junctionはユーザー自身がデバイスの通信を監視・制御できるという新サービス。こちらはデバイスの通信概況、異常やマルウェアの脅威などを検知したいというニーズを満たすほか、アプリケーションごとに異なる通信制御を施すことが可能になる。
SORACOM JunctionではSORACOMとユーザーシステムの間にあるVPG(Virtual Private Gateway)上に3つのトラフィック処理機能を追加しており、パケットフローを解析する「Inspection」、パケットのコピーを任意の宛先に転送する「Mirroring」、パケットを指定のゲートウェイ経由で転送する「Redirection」などを実現する。
安川氏はVPG経由でミラーされたトラフィックをトレンドマイクロのVNF(Virtual Network Function)で分析して、脅威を検出したり、アクロクエストの「TorrentioFlow」で、トラフィックのトレンドを分析するといったSORACOM Junctionの用途を披露。これにより、デバイスに物理的にアクセスして悪用したり、マルウェアを仕込まれるといったセキュリティの課題を解消できるという。また、リダイレクトの用途では、東京大学 中尾研究所が開発した機械学習によるトラフィック制御技術「FLARE」を用いてアプリケーションを特定・制御するという実験も行なわれた。
安川氏は、「ソラコムではお客様自身がオペレーターになれる。オペレーターがトラフィックを自由自在に操って、新しい世界を切り開いてほしい」と新サービスをアピールした。