中型の市場範囲は広い
有機ELは、スマホなどに使用される10型以下の小型パネルでは、サムスンが圧倒的なシェアを持っている。同社ではFMM-RGB蒸着法を採用。高精細のメタルマスクをRGB各色ごとに、真空環境で1色ずつ成膜し、形成。それぞれの画素からRGB単色で発行することができる。だが、大型化すると均一な膜の形成が難しく、歩留まりの問題が発生。技術的に困難といった課題がある。
対して、55型以上の大型パネルで威力を発揮しているのが白色EL蒸着法であり、ここではLG電子が先行している。5月に入って、ソニー、パナソニックが相次いで、有機ELテレビを発表したが、これらのパネルはすべてLGディスプレイから供給を受けたものである。
白色EL蒸着法は、EL層を重ねて生まれる白色光を、カラーフィルターを通してRGBに単色化するという仕組みを採用。ボトムエミッションとなることから、開口率に制限があったり、省電力化にも課題があったりしたほか、小型化した際に性能を維持することが難しいという課題があった。
JOLEDが採用しているRGB印刷方式は、大型化に対するプロセス上の、省電力化でも性能上の、高精細化でも構造上の技術的制約がないことが特徴で、10~32型の中型パネルの生産には適している。
東入来 信博社長兼CEOは、「中型パネルの市場はサムスンともLG電子ともぶつからない市場であり、この分野から事業参入を図る。中型パネル市場では、医療用モニターやゲーミング用途、大画面タブレット、デジタルサイネージのほか、クルマや航空機、電車などの車載用途があり、市場の範囲は広い。だが、現時点での生産能力は月2300枚。20~32型モニターでは、液晶で年間1億台の需要がある。1%でも100万台。液晶の市場を取っていくということではなく、まずは、液晶がカバーできないような超ハイエンドの領域で、画質や薄さ、軽さなどの付加価値をベースに提案していくことになる」とする。
だが一方で「昨年の段階では多くの人が、スマホにここまで有機ELが採用されるとは思っていなかったのではないか。テレビでも同じような転換期がくる。小型(10型)から大型(100型)までをカバーできる印刷方式は、将来のデファクトになると考えている」とする。
大型パネルへの展開は、すでに55型のパネルを開発するなど、技術面では進展しているが生産設備に対する大型投資が必要になることから、アライアンス戦略を検討。一方、10型以下の小型パネルについては「現時点では材料の問題などもあり、小型化には課題が多いが、さらなる高精細化技術の開発に取り組んでおり、400ppiの実現に向けて、材料、装置の開発などにも着手している。課題が解決されれば、小型パネルの市場でも、印刷方式は戦っていける」とする。
小型パネル市場はサムスンだけでなく、ジャパンディスプレイも液晶パネルや蒸着式有機ELパネルで展開している市場。「このタイミングで印刷方式の有機ELパネルが小型化できているのであれば、印刷方式でいきたい。だが、それは不可能である。その観点からジャパンディスプレイは、小型パネルは蒸着でやり抜くことを決めた」などと説明。印刷方式の今後の技術開発の進展次第では、将来は印刷方式によってJOLEDがこの市場に参入する可能性も示唆してみせた。
有機ELは各画素に形成した素子自身が発光する自発光デバイスであり、高い表示品質を実現。薄型軽量、高速応答、コントラスト比が高い、といった特徴がある。
いよいよ「日の丸有機EL」が本格的にスタートする。この市場においてJOLEDはどれだけの存在感を発揮できるのだろうか。
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