【前編】『この世界の片隅に』片渕須直監督インタビュー
片渕監督「この映画は、すずさんが案内人のテーマパーク」
2017年05月27日 18時00分更新
クラウドファンディングでの資金集めから
興行収入25億円超・観客動員約200万人の大ヒット作へ
映画『この世界の片隅に』の勢いが続いている。2016年11月に劇場公開して以来、約200万人がこの映画を観たことになる。口コミの評判から、第90回キネマ旬報ベスト・テン 日本映画第一位、第40回日本アカデミー賞 最優秀アニメーション作品賞など数多くの映画賞受賞にもつながった。
人々を惹きつけてやまない魅力の1つが緻密な絵作り。「すずさんが生きている世界を忠実に再現したい」と語る片渕須直監督。実際に“時代を再現する”ためには、どのような調査が必要で、それはフィルムに対していかなる効果をもたらすのだろうか? 今回は、片渕監督に設定についてのお話を詳しく伺うため、アニメ等の設定考証を務める白土晴一氏にもご同席いただいた。
片渕須直監督:プロフィール
アニメーション映画監督。1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中から宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本家として参加。『魔女の宅急便』(89/宮崎駿監督)では演出補を務めた。TVシリーズ『名犬ラッシー』(96)で監督デビュー。その後、長編『アリーテ姫』(01)を監督。TVシリーズ『BLACK LAGOON』(06)の監督・シリーズ構成・脚本。2009年には昭和30年代の山口県防府市に暮らす少女・新子の物語を描いた『マイマイ新子と千年の魔法』を監督。口コミで評判が広がり、異例のロングラン上映とアンコール上映を達成した。またNHKの復興支援ソング『花は咲く』のアニメ版(13/キャラクターデザイン:こうの史代)の監督も務めている。
昭和20年、広島・呉。
わたしは ここで 生きている。
『この世界の片隅に』 ものがたり
18歳のすずさんに、突然縁談がもちあがる。
良いも悪いも決められないまま話は進み、1944(昭和19)年2月、すずさんは呉へとお嫁にやって来る。呉はそのころ日本海軍の一大拠点で、軍港の街として栄え、世界最大の戦艦と謳われた「大和」も呉を母港としていた。
見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんの日々が始まった。
夫の両親は優しく、義姉の径子は厳しく、その娘の晴美はおっとりしてかわいらしい。隣保班の知多さん、刈谷さん、堂本さんも個性的だ。
配給物資がだんだん減っていく中でも、すずさんは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。
ある時、道に迷い遊郭に迷い込んだすずさんは、遊郭の女性のリンと出会う。
またある時は、重巡洋艦「青葉」の水兵となった小学校の同級生・水原哲が現れ、すずさんも夫の周作も複雑な想いを抱える。
1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの数の艦載機による空襲にさらされ、すずさんが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。
そして、昭和20年の夏がやってくる――。
スタッフ
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊)/音楽:コトリンゴ/監督・脚本:片渕須直/企画:丸山正雄/監督補・画面構成:浦谷千恵/キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典/美術監督:林孝輔/色彩設計:坂本いづみ/動画検査:大島明子/撮影監督:熊澤祐哉/編集:木村佳史子/音響効果:柴崎憲治/録音調整:小原吉男/プロデューサー:真木太郎/製作統括:GENCO/アニメーション制作:MAPPA/配給:東京テアトル/後援:呉市・広島市/助成:文化庁 文化庁文化芸術振興費補助金/製作:「この世界の片隅に」製作委員会
キャスト
のん 細谷佳正 稲葉菜月 尾身美詞 小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 牛山茂 新谷真弓/澁谷天外(特別出演)
ロングラン上映中!
公式サイト http://konosekai.jp/ Twitter @konosekai_movie
「設定考証を生業とする者が見ると、この作品はホラーだ」
―― 今回は、『この世界の片隅に』の絵作りに関してお話を伺いたいと思います。私だけでは心許ないので、設定考証をお仕事にされている白土晴一さんにご同席いただきました。
白土 設定考証をやっている白土と申します。『この世界の片隅に』は、初見では僕自身の仕事を抜きにして――仕事で考え出すと怖くなりそうなので――拝見させていただき、2回目以降に設定まわりがどんなふうになっているのか、を気にしながら鑑賞させていただきました。
本当に良い作品だと感じる一方、設定考証を仕事にしている人間としては『ホラーだな』と思うところが正直ありました。
―― えっ!? 白土さんは、どんな点が“ホラー”だと思われたのですか?
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