今回のことば
「NECが蓄積した物流のサプライチェーンに関する知見を、パンデミックが発生した際に活用できる物流情報管理プラットフォームの構築に生かすことができる」(NEC・遠藤信博代表取締役会長)
NECは、国連の食糧支援機関であるWFP国連世界食糧計画(国連WFP)と連携し、「物流情報管理プラットフォーム」を共同で開発することを発表した。
物流情報管理プラットフォームは、地球規模で発生する感染症(パンデミック)対策のためのITプラットフォームのひとつ。防護服やワクチンなどの医療物資を、現地の空港や港から、感染地域に送るために必要とされる物流情報を可視化。レポーティング機能や既存の物流システムとのデータ連携機能、感染症発生国の倉庫在庫管理機能なども提供することになる。
具体的には、62品目にのぼる緊急人道支援物資の物流や在庫の現状を把握したり、状況を分析。同時に感染症の特定や感染症拡散モデル情報、必要物資計画、供給在庫モニター、供給計画、生産状況モニターといった、人道支援に必要となる第三者の各種情報も収集する。これらのデータをもとに、AIを活用して、緊急人道支援物資のニーズ予測や対応の最適化、緊急人道支援物資ボトルネックの予測と最適化にも取り組んでいくという。
NECでは、緊急人道支援物資在庫などの見える化を第1フェーズと位置づけ、2017年夏を目標に完成させる計画だ。また、AIやIoTを活用した予測機能などを、その後の第2フェーズで実装するという。
来日した国連WFPのアーサリン・カズン事務局長は、「地球規模の感染症が発生すると、全世界で3億6000万人が死亡すると予測されているばかりでなく、世界経済にも甚大な影響を与え、世界のGDPの10%が消滅するとの予測もある」と指摘。「世界的流行(パンデミック)を早期に封じ込める施策の確立は急務となっており、そのためには、医療品の迅速な供給が効果的。だが、現在人道支援におけるエンド・トゥ・エンドのサプライチェーンが存在していない。国連WFPでは、NECとともにこの課題を解決しようと考えている」と語る。
物流情報管理プラットフォームは、「地球規模感染症対策サプライチェーンネットワーク(Global Pandemic Supply Chain Network=PSCネットワーク)」活動の一環として構築するものになる。
PSCネットワーク唯一の情報通信企業として参加
2014年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した際、物流面で大きな課題が発生した。
国境の閉鎖にともなう感染地域へのアクセス制限などにより、物資が感染地域に迅速に届かずに、流行を封じ込める対策が遅れた。くわえて、物資の需要と供給に関する情報不足や、支援の重複や非効率性の問題、さらには物資が届いた際にも保管する倉庫の容量が不足したりといった課題が発生。
2015年の世界経済フォーラム(ダボス会議)での議論をきっかけに、世界保健機関(WHO)や世界銀行、国連児童基金(ユニセフ)などの国際機関に加え、ヘンリー・シャイン、ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー、UPS財団といった民間企業など、17の団体や組織が参加してスタートしたのが、PSCネットワークである。
世界的な感染症が発生した際に、医療や支援活動に必要となる物資の供給/輸送網を構築するのが狙いであり、このなかにアジア初の民間企業として、また唯一の情報通信企業として参加しているのがNECとなる。
NECの遠藤信博会長は「NECは、2013年から『Orchestrating a Brighter World』をスローガンに掲げて、人とのコミュニケーションにより、明るく、スマートな世界を作り上げることを目指している。今回の取り組みは、その方向感と一致するものである」と前置きし、「NECは、コンピューティングパワー、ネットワーク構築能力、ソフトウェア開発力に長けている点が特徴であり、この3つの力を持っている企業は、世界的にも少ない。これらの技術力とともに、NECが蓄積した物流サプライチェーンに関する知見を、物流情報管理プラットフォームの構築に活用することができる」とする。
世界最大規模の官民連携
NECでは、同社のAIであるNECtheWISEを活用したシステムとして、200件以上の実績を持つ。物流サプライチェーンにおいては、日配品の廃棄を40%削減したり、部品の在庫を20%削減したりといった成果をあげている。また、電力需要を高精度に予測して、電力使用量を20%削減するといった成果もある。
PSCネットワークの取り組みには、日本政府も100万ドルの資金を拠出。全体で760万ドルの予算を活用しながら、物流情報管理プラットフォームの開発を進めることになる。
NECの遠藤会長は「コミュニケーションネットワークを確立できるのか、データの収集を一元化できるのかといったことが、物流情報管理プラットフォームの構築において重要になってくる。また運用面においては、パンデミックであることをいかに判断し、それをどのタイミングで、サプライチェーンとコネクションするのかが大切である。人道支援の領域において、効果を最大化するために何度もトライアルを行ないながら、完成度を高めていくことになる」とした。
国連WFPのアーサリン・カズン事務局長は、「この取り組みは、世界最大規模の官民連携になる」と位置づける。NECの遠藤会長も「すべての国々、とくに開発途上国の国家や、世界規模での健康リスクの早期警告、リスク緩和、リスク管理のための能力を強化したい」と語る。
エボラ出血熱以外にも、国境を越えて流行する感染症が多数発生しており、供給物資のサプライチェーン構築は急務である。大規模な人道危機が発生した場合に、効果を発揮できる環境づくりが求められている。
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