みなさん、おはようございます。ASCII(週刊アスキー+ASCII.jp)編集部の吉田ヒロでございます。昨日公開した記事「三陸の牡蠣が春先に超美味になる理由」には実は続きがあります。
三陸で最も牡蠣がウマイとされるこの時期に出荷される「雪解け牡蠣」を提供中の四十八漁場ですが、珍しい魚の刺身が食べられることでも有名です。この居酒屋は刺身盛り合わせに使われる魚が日によって激変するんです。刺し盛りといえば、マグロや鯛、アジなどが定番ですが、四十八漁場ではその定番すら外れる日もあるとのこと。これは、四十八漁場が魚種ではなく、カレイなどの白、鯛などの赤、サバなどの青という種類で魚を仕入れているからです。
取材当日は都内2店舗の四十八漁場に行ったのですが、この2店舗ですら魚のラインアップは大きく異なっていました。九段下店の刺身盛り合わせは、カツオ、イシダイ、ボラ、生サバ、イナダ、白バイ貝、ヒメ貝から選べました。
ちなみに四十八漁場はお通しがシーズンによっていろいろ変わるのも特徴です。以前に取材したときは三陸のワカメでしたが、今回の取材では小ぶりなホタテ貝に変わっていました。このホタテ貝は養殖の過程で間引かれたもので、小さいながらもしっかりとホタテの味がしました。
一方、そのあとに訪れた溝の口店では、ニザダイ、ニシン、マトウダイ、ホウボウ、コブダイ、アオハタなどの刺身としては珍しい魚がメニューに並んでいました。
溝の口店では刺身盛り合わせのほかに「本日の鮮魚一本」として、ウマヅラハギとニシン、ナメタガレイの姿造りや焼き、煮付けなどで注文できたので、さっそくウマヅラハギの姿造りをオーダー。
メニューに「今朝獲れ」というハンコが押されている魚は文字どおり、その日の朝に獲れた魚です。溝の口店では、宮崎県島野浦(延岡市)、山口県萩市からの魚が「今朝獲れ」でした。
一方で、北海道(厚岸)や岩手(陸前高田)、沖縄(糸満)などの鮮魚は今朝獲れではありませんでした。宮崎も山口も首都圏からは遠く離れているのに、なぜこのような差が生まれるのでしょうか。
朝イチで羽田空港に空輸された魚を即配送
実は、宮崎県島野浦は宮崎空港(宮崎ブーゲンビリア空港)、山口県萩市は山口宇部空港からそれぞれクルマで1時間強しか離れていないという地の利を生かして、今朝獲れを実現しているのです。各漁港から毎朝、羽田空港行きの7時台の飛行機を使ってその日の早朝に獲れた魚を運びます。
もちろん物流の発達だけで実現できるわけではありません。四十八漁場では、取引している漁師さんに漁に出る時間を早めてもらうことで、航空便に間に合う時間に水揚げが可能になったとのこと。
こうして羽田空港に集められた今朝獲れを含む鮮魚は、羽田空港近くにある羽田鮮魚配送センター(セブンワーク)に運び込まれます。
ここで、白、赤、青で区別された魚が、四十八漁場の各店舗別に仕分けられていくわけです。前述したように、店舗からはマグロや鯛など魚種ではなく色で魚を仕入れるため、店舗側では実際に届くまでは魚種はわかりません。
四十八漁場では、市場に出ることが少ない未利用魚などを含めて、水揚げされた魚を丸ごと買い付ける手法を採っており、漁師にとっては安定した収入につながり、四十八漁場にとっては珍しい魚を新鮮な状態で提供できるというメリットがあります。
とはいえ、かなり珍しい魚は捌く技術も必要なので、その多くは都内の神楽坂にある「なきざかな」や日本橋にある「墨之栄」、新宿にある「魚米」など、熟練の職人が在籍する四十八漁場のグループ店舗に納品されるとのこと。
なぜ四十八漁場は関西に出店しないのか?
実は四十八漁場は、宮崎や鹿児島、北海道の地鶏を使った料理で有名な「塚田農場」と経営母体が同じなのですが、塚田農場とは異なり首都圏以外に店舗がまったくありません。
しかも首都圏といっても、東京と神奈川、埼玉の3都県に集中しており、つい最近の3月1日に千葉県の1号店が新浦安にオープンしたばかり。北関東にすら進出していません。
関西にも出店してほしいという要望が結構あるそうなのですが、関西には羽田空港レベルの物流拠点がないため、なかなか難しいとのこと。拠点として使うとなれば関西国際空港になると思われますが、大阪市内や神戸、京都からはちょっと遠いですしね。
さらに首都圏の四十八漁場は、前述の宮崎や山口、北海道、岩手のほか、季節によっては福井などから鮮魚を仕入れています。しかし、漁業は天候に左右されるため、時化で出港できない場合や不漁の場合に仕入れが極端に少なくなるリスクがあります。四十八漁場ではこれを回避するため、千葉・館山から魚を安定供給できるシステムも構築しています。
つまり、四十八漁場が関西に出店するには、空港から配送センター、店舗までの物流システムの整備と、魚を安定供給できる近場の漁場との関係構築など、乗り越えるハードルが高いわけです。とはいえ近い将来、難なく解決しちゃうかもですが。
物流の進化と漁師の努力によって実現した今朝獲れ。最寄りの四十八漁場で、刺身盛り合わせや姿造り、煮付けなどをぜひ堪能しましょう。
お詫びと訂正:初出時、一部の魚の名前が間違っておりました。お詫びして訂正いたします(4月11日21:00)。