3月13日、かもめやは陸・海・空のハイブリッド無人物流プラットフォームの実証実験を瀬戸内の離島で行なうことを発表した。基地局と無線機の通信や遠隔制御にさくらのIoT Platformを採用し、2017年5月から11月の間で物流や遠隔医療を含めた実験を進めていく。
空だけではダメ?ハイブリッド物流に至った日本ならではの事情とは
かもめやは無人物流プラットフォームの開発を目的に2016年4月に香川県の高松で設立されたスタートアップ。2015年1月に日本初となる8kmもの海上貨物の輸送実証実験に成功。また、2015年の9月には物資輸送・医薬品輸送・危機管理の3分野の複合実証実験にも参加し、会場物資輸送の国内最長記録(片道10km、往復20km)を達成している。
かもめやCEOの小野正人氏は、僻地・離島巡りが講じて「瀬戸内国際芸術祭」を手伝い、そのきっかけから男木島に移住してかもめやを創業したという。そんな小野氏が指摘したのは、世界有数の離島大国である日本の課題だ。
日本には全部で6852の離島があり、そのうち418島が有人島。瀬戸内には156もの有人島があり、14万人以上の人口を抱える淡路島から、2人しか住んでいない豊島など、生活や産業などさまざまなバリエーションがあるという。こうした離島は高齢者が多く、買い物が困難で、医療サービスの利用も難しい。しかも、採算がとれないため、物流サービスも縮小傾向で、離島の生活を支えている定期航路もどんどん減っているという現状だ。「過疎の離島で起こっていることは、数年先に日本全国で起こること」と小野氏は語る。
かもめやは、こうした課題を解決するための物流プラットフォームを開発している。ユニークなのは陸・海・空のすべてをカバーするハイブリッド物流であるという点。これまでのようにドローンのみでは日本の離島の物流課題を解決できないというのが、小野氏の自論だ。
現在、ドローンを使った物流はAmazonやDHLなど米国企業を中心に活用が進んでいるが、ドローンを離着陸させるための滑走路や広い庭が必要。国土の狭い日本ではこうした敷地が確保できず、新航空法への対応が難しい。「せっかくドローンを飛ばしても、着地できるような広い庭がない」(小野氏)。これに対してかもめやは最適な機材や手段を組み合わせた島国モデルを提唱しており、無人航空機や無人輸送船を用いて物資を輸送し、配達先までのラストワンマイルは無人輸送車を地上走行させるという方式をとる。
100kmの飛行距離を持つ新型無線飛行機を投入
無人物流プラットフォームで採用する各機体は、現時点で仕様を満たす機体が存在しないため、かもめやがパートナーとともに独自開発している。
航空輸送を行なう「KamomeAir」で用いられる無人航空機(UAS)は、複数のプロペラを持つマルチローターと、固定翼型のハイブリッドであるVTOL(垂直離着陸固定翼機)。このオリジナルのVTOLはスロベニアの無人航空機メーカーであるairnamicと共同開発中で、今年の6月には完成する見込み。
UASは3kgの貨物を搭載し、100kmの飛行が可能。固定翼型を採用し、マルチローターの5倍の飛行距離を実現したことで、瀬戸内海の往復は容易に行なえることになり、香川県沖の全離島をサービスエリアにできるという。また、海上輸送用の無人輸送船(UMV)である「Donburako(ドンブラコ)」は東京計器と共同開発。さらに、港から配達先までの地上輸送には、荷物運搬用のカートを自動化した無人輸送車(UGV)「Smart ONBA」を用いるという。
こうした物資輸送用のスマートマシンから上がってきたテレメトリデータと、気象観測用の基地局からのデータは、基地局を介して、移動体・物流の管理統合管理システム「KAZAMIDORI Integrated UTM」に集められる。今回はさくらインターネットのIoT Platformの採用が発表され、IoT通信モジュールを搭載した機体に対してLPWAを用いた遠隔制御が可能になるほか、基地局の通信もIoT通信モジュールが用いられるという。小野氏は、「さくらのIoT Platformはセキュリティも配慮されているので便利」と語り、システム開発の短期化に大きく寄与したことがアピールされた。
遠隔医療や基地局の応用、グローバル展開も見据える
今回発表された瀬戸内エリアの実証実験は2017年5月から11月まで行ない、無人の航空機、輸送機、そして輸送車のハイブリッド物流の有効性を検証する。実験に際しては、関係省庁との調整も行ない、電波法、航空法、海上交通安全法などの法令・規制面での対応はクリアしているという。また、離島に住む患者の遠隔医療サービスの実験も行なう予定。「KamomeMedical」と呼ばれるこのサービスでは、タブレットによる遠隔診療に加え、医薬品を無人機で定期配送するという。さらに実験に際しては、「かもめーず」と呼ばれるサポート制度が用意され、会場設営や交通整理、運用補助などの人的サポートを募るという。
基地局は無線機の航行以外にも応用が検討されており、現在はレガシーな通信施設を用いている海上タクシーのUber化や次世代漁業への応用、さらには離島でも大きな問題となっている獣害への対応などが想定されている。こうした基地局の利用方法に関しては、島民や移住者を交えたハッカソン、アイデアソンなどを行なっていく予定。
実用化は2020年4月を予定。瀬戸内エリアでの実績を踏まえつつ、沖縄や長崎などの離島エリア、山間部にもモデルを拡大。将来的には多くの離島を抱えるインドネシアやフィリピンなどへの展開も予定しており、島国を前提としたハイブリッド物流のプラットフォームをグローバルにも拡げていくという。