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やっぱりスマホ新製品に注目! MWC 2017レポート 第34回

MWCに登場のNetflix CEO、あくまで重要なのはコンテンツ、200kbpsでも映像を楽しめる技術を開発する

2017年03月06日 10時00分更新

文● 末岡洋子 編集● ASCII編集部

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 MWC 2017では、NetflixのCEO、Reed Hastings氏が夕方の基調講演に登場した。モバイル端末で動画を視聴する人が増加している中で、バッファーやデータ料金などのモバイルの課題やコンテンツ戦略などさまざまなトピックについて語った。そして「バッファーはいつか過去のものになる」と予言した。

Netflixの共同創業者でCEOのリード・ヘイスティングス氏。

モバイル事業者にとっては複雑な関係のNetflix
そういった人物を基調講演に呼ぶのもMWCの1つの見所

 MWC会期中に開催される夕方の基調講演は毎年、コンテンツやサービスなど“ネットワークを利用する側”の人が登場する。過去には、Google会長だったEric Schmidt氏(現Alphabet経営執行役会長)、FacebookのCEO、Mark Zuckerberg氏が登場した枠であり、MWCに来場する通信事業者にとっては複雑な関係の人物であることが多い。

 スマートフォンなどモバイル端末上でのTVと動画の視聴は増えており、Ericssonでは2022年まで年50%のペースで増加すると予想している。そして2022年のモバイルのトラフィックに占める動画の比率は75%程度になるという。まだまだYouTubeが強いこの分野だが、Netflixが米国外への拡大を進める中、市場によっては動画トラフィックの10~20%をNetflixが占めるところもある。つまり、通信事業者にとってNetflixはデータ利用が増えるという都合が良い存在であり、同時にネットワークへの投資を余儀なくされるという存在でもある。

 この日、NetflixのCEOは対談形式で、モバイルと動画、自社の事業、コンテンツ、AIなどについて話をした。

20年以上前から動画のネット配信は可能と予想
その時代の準備にオンラインDVDレンタルから開始

 Netflixはご存知のように、オンラインDVDレンタル事業からスタートし、動画のストリーミング配信に拡大した。Hastings氏によると創業時からデジタル配信は考えていたという。

 大学でコンピューター科学を学んだHastings氏は、固定ネットワークの帯域を計算する授業を受けた。「実に高速で効率が良いネットワークだということがわかった」とHastings氏。そして友達とDVDについて話していたとき、未来には5GB程度のデータを安価に送ることができるようになることを予感した。

 そこでまずはDVDでNetflixを立ち上げ、「インターネットが郵便システムに追いつき追い越す」ときを待つことにした。Netflixの創業は1997年、ストリーミングの開始は2007年なので、その待つ期間は10年になったことがわかる。そしてその3年後には、ストリーミング事業の規模はDVDレンタルを上回った。

 米国の世帯の約半数がNetflixを利用しており、動画を見ることを「Netflixする」と表現するなど、同社の社名は動詞にもなっている。日本における“ググる”などと同じで、普及レベルをうかがわせる。TVや映画をまとめて長時間視聴する”binge watching”(英語版Wikipedia)という流行語も生まれた。

 Netflixは2016年1月に一気に130以上の国に拡大するなど、このところ米国外の拡大を進めている。そして2016年にはダウンロードサービスにも拡大している。現在、Netflixの加入者は世界約1億人に達しつつある。

 ダウンロードサービスについては、「ストリーミングとインターネットが基本だが、電波が届かない地下鉄、飛行機などダウンロードが便利な場面がある」と意図を語る。

 一方で、競争は激しくなっている。YouTubeは「YouTube TV」「YouTube Red」などを開始し、Amazonも「Amazon Prime Video」を持つ。「インターネットTVが流れになっている。競争はあるが、ともに市場を大きくしていくもので、素晴らしいこと」と語ったあと、「10年、20年後にはすべての動画の閲覧がインターネット経由になる。この動きの最前線にいることをうれしく思っている」と続けた。

 ケーブルTVなどとの関係はどうか? かつての対立関係から変化があるようだ。「米国では世帯の約半分がNetflixに加入しているが、ケーブルTV加入者の数は減っていない」とし、ComcastがNetflixを統合したSTBの提供を始めたことを紹介した。「Netflixは、素晴らしい体験を提供する新しいチャネルという位置付けになっている」という。

あらゆる環境、ネットワークで快適に視聴できるよう
ネットワークやコーデックへの技術開発を進める

 利用が増えているモバイルについては、いくつかの取り組みを紹介した。なかでも技術的な障害となるのが、データが一定量貯まるまでしばらく待たないといけないバッファーだ。これはユーザーの動画視聴体験を損なうものだが、Hastings氏は固定網のダイアルアップに例えながら「いつか過去のものになる」とする。「Netflixはネットワークサーバー、コーデックとさまざまなレベルに投資をして、モバイル、ノートPC、TV上での体験が遅延なく、瞬間的なものになるようにしていく」とした。

 業界はまだ学習段階であり、「ストリーミングでたくさんのことを学んだ。我々だけではない。YouTubeなど他のサービスもそう。どのサービスもインターネット体験を改善しようとしている」とも言う。NetflixとLGは会期中、LGの最新のスマートフォン「LG G6」でHDR動画をサポートすることを発表している。

 ユーザーがモバイルで動画サービスを利用するにあたって最も気になるがデータの上限だ。これについては、一部の通信事業者のデータ無制限の取り組みを評価して次のようにコメントした。「(データ無制限サービスの場合)データは無制限だが速度は遅い。実際のところ、(この方式は)ネットワークにも効率の良いものだ。Netflixはコーデックやビデオのエンコード技術に投資しており、速度がたとえ0.5Mbpsでも4〜5型の画面で素晴らしい映像を楽しむことができる。300kbpsでもいい。最終的には200kbpsでも素晴らしい映像を楽しめるようにしたい」(Hastings氏)と技術革新を進める決意を語った。そして、10年もすればすべてのデバイスで素晴らしい体験になっていると予言した。

あくまで重要なのはコンテンツ
技術・ビジネスは時代に合わせて取り込んで行く

 ではNetflixが狙いものはなにか「世界で最も素晴らしいコンテンツを届けること」という。おりしもMWCの直前に米国でNetflixは初のオスカー受賞を達成した。短編ドキュメンタリー部門での「ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊」の受賞だ。

 「最高のコンテンツを、世界のオーディエンスに向けて時間差なしに提供したい」。それには画面の大きさは直接関係しない。「意味がある素晴らしいストーリーの制作を重要視している。映画館で見ることにこだわる人がいるし、若い人は移動中に閲覧できるモバイルに価値を見出している。この人たちが多くなると、次第に新しいパラダイムが一般的になるのでは」と見通した。

 世界をオーディエンスにもつ中、ローカル戦略については、「世界中でストーリーを収集し、開拓している」という。「これまでの事業展開で最も驚いたことは、人々の嗜好の幅広さ」と言うが、ノルウェーの暗い話が別の市場で受け入れられるなど、たくさんの驚きがあったという。「ずっとハリウッドのコンテンツだったが、拡大の準備が整った。トルコのTVプロデューサーと協業しているし、日本、韓国でも取り組みを進めている。地元のプロデューサーが世界に向けてコンテンツを提供できるようにしていく」とNetflixの役割を語る。

 VRなどの新しい技術についても、オープンな姿勢をとる。「我々は将来の技術を決定して、それに固執して投資することはない。走りながら学ぶ」とし、「VRが離陸すれば我々もVRを受け入れる。スマートコンタクトレンズが流行すれば、それにも対応する」とした。AIについては「20年後に大きなものになっているだろう。我々がエンターテイニングする相手がAIになっているかもしれないが」というジョークも語った。

 1時間に渡る対談中、Netflixのフォーカスはあくまでコンテンツにあり、そのための技術的、ビジネス的な側面については柔軟さが感じ取れた。「継続的にインターネット上で何がうまくいくのかを学んでいる。たとえば「Netflixは好きだけど、選択肢が多すぎる。シンプルにしてほしい」という声がある。こういう声も取り込んでいく」とする。「色々と試してみて学ばなければならない。どのようにして素晴らしいものになるのか、現時点で答えはないが、インターネットが新しい体験の創造を可能にした。これにワクワクしている」とした。

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