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週刊キツカワ 最終回

9号「参加型メディアの未来」

20年後、人類は「ヒマ」という問題に直面することになる

2017年02月25日 12時00分更新

文● 四本淑三

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シンギュラリティー以後に生まれる「個人」

橘川 参加型メディアって、参加する人が自立していなければならないんだ。つまりイデオロギーとか、なにかに関わっている人がやると、結局その建前しか言わないようになっちゃう。

四本 最近の反なんとかやらヘイトなにやらとかとか、組織の利益とか立場とか。

橘川 そこから逃れられない以上、近代社会の中では、誰も自立できないわけです。それは24時間、すべての時間が自分のものじゃないから。学生は勉強するだろ? サラリーマンは仕事をするじゃない。それは自分の意志じゃないんだ。人に決められた時間を生きているんだ。

四本 お金もいるからね。いろんなものと競争しなけりゃならないし。

橘川 そうなんだ。だから一人ひとりが24時間、自分の時間を使って自分の表現をするようにならないと、本当の参加型にはならない。いまの参加型メディアは、むしろ参加させられている状態。裁判所の陪審員制度みたいに、誰も参加したくないのに、強制的に参加させられるようなもの。

西牧 SNSにはそういうところありますよね。昔から「SNS疲れ」とか言ったりして。

橘川 そんなのばっかりじゃないか。本当の参加型社会を実現するには、そういう組織的な自分から離れなければいけない。それがシンギュラリティーなんだよ。

四本 えーっ! またデカいのが急に来たな。

橘川 第一次産業革命で資本家が得たものはなにかというと、労働者から吸い上げた時間なんだ。その時間の中で文化が生まれたんだよ。教育もレジャーもね。だからマルクスの時代であれば、労働者の時間を奪って資本家が楽をしているのだから、それをひっくり返せば良い、という話だったわけだ。ところがだ、それはもうない。

四本 うん、ないない。

橘川 そして、ここからが大切なんだ。たとえばジョブズが巨万の富を得た。それはAppleの社員から搾取したのか? そうじゃないよな。ゲイツはマイクロソフトの社員から搾取したのか? そうじゃないんだよ。ザッカーバーグだってFacebookの社員から搾取したわけじゃないんだ。いまの超格差社会というのは、4%の人間が残りの96%から搾取してできあがったわけじゃない。彼らが作ったOSやシステムは、世界を作ったんだ。そして、その新しい世界の領主になった。iPhoneの部品は作っているのになぜ日本はiPhoneを作れなかったのかって言うけど、あれは世界を作れなかったから。でもポケモンGOが成り立つのは、世界を作ったからだろ?

西牧 あ、それはそうですね。

橘川 その世界というのは参加したい人が集まって、税金を払っているだけで、参加しても、しなくてもいい。世界を作るということが、いま一番のビジネスなんだ。俺らはいま、圧倒的に「たいくつ」な時間を売っているんだよ。そして頭脳労働がシステムに置き換えられると、産業革命で得た時間より、もっと大きな時間を得ることになる。ベーシックインカムというのはそこで起きるわけだ。

四本 あ、また大きなトピックが。でも生きるために働かなくていい時代は来てほしいですよね、心の底から。

橘川 ベーシックインカムを福祉ではなく、社会実験として始めようとしている国があるだろ? それとゲイツみたいに世界を作った人たちは、自分の利益を分配し始めている。古い搾取成金だったら資産を抱え込むわけだけど、世界を作った人たちは、また新しい世界を作るために使うんだ。そういったことが一体化して、シンギュラリティー以後に初めて「個人」というものが生まれる。組織の言葉ではなく、自分の言葉で話せる人、イデオロギーではなく、自分の実感と体験を喋れる人が。そうなってやっと初めて、本当の参加型メディアというものが生まれるんだ。

20年後に人類が直面する問題はいま、団塊世代が抱えている

四本 昔は作家志望だったらヒモにでもなるしかなかったけど、最初からヒモだったらなにをしようという話でもあるよね。

橘川 ヒモというのは、近代の中ではマイナーな許せないことだったんだけど、それが普通になるわけだよな。問題はそのときのアイデンティティーなんだ。で、そのアイディンティティーの問題に直面しているのが、団塊の世代なんだよ。いまでも年金生活者はヒマなんだ。

四本 時間なら売るほどあるのに、なにをしていいかわからないという。

橘川 定年までは社会が決めた時間を生きていればよかったけど、組織から離れて個人になってみると、やることがない。時間をどう使うか、自分で決めなければならない。いま団塊の世代が直面している問題は、20年後に人類が直面する問題なんだ。あとは仕組みの問題な。政治をどうするか、文化の問題をどうするか。というような本を書いているんだ。

四本 けっこう長い振りだったけど、それいつ出るんですか?

橘川 わからん。

四本 こんなに長く振ったのに!

橘川 で、俺さ、日本未来学会というところに所属してるんだ。一応理事なんですよ。

四本 えーと、みなさん、いきなりですがウソじゃありませんからこれ。

橘川 日本未来学会の設立時のメンバーは、梅棹 忠夫とか林 雄二郎とか小松 左京とか、その時代の超インテリが集まって、財界と一緒に作ったものなんだ。あれから50年以上経って、加藤 秀俊さん以外、俺の先生の林 雄二郎も含めて、設立時のメンバーはみんな亡くなっちゃって。俺らはそれを引き継いでいるわけだけど、いまもう一度未来を考えてみようというので「参加型メディアの未来」というテーマでシンポジウムをやろうとしているんだ。

日本未来学会は1968年7月6日発足。未来予見のための学問的可能性の探究をめざして、日本で設立された学際性を重んじる学会。現会長は公文 俊平氏(多摩大学教授)

四本 それいつやるの?

橘川 今年の4月2日。日本版TEDxを狙ってるんだ。いろんな人が出てきてメディアの最前線の話を喋るぞ。俺もこの先の話はそこで喋る。

四本 じゃ、続きはそっちでね。

橘川 よろしくな。

 日本未来学会シンポジウム「参加型メディアの未来」は、2017年4月2日(13:00~16:30)東京お台場の日本科学未来館(Miraikan)で開催予定。果たしてシンギュラリティー以後のメディアはどうなるのか。概要はこちらで。

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橘川幸夫著『ロッキング・オンの時代』
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渋谷陽一、岩谷宏、松村雄策とともに創刊メンバーだった著者が振り返る、創刊から10年の歩み。荒ぶる1970年代カウンターカルチャーと今をつなぐメディア創世記。装丁はアジール。



著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ

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