診療所に予約システムが当たり前になる時代がやってくる
クラウド型モデルも登場し、拡大を見せる電子カルテ領域。いま、医療はどこまでIT化が進んでいるのか。ASCIIによる最新情報を毎週連載でお届けします。
第9回テーマ:電子カルテ x 予約
診療所では、電子カルテ以外にも数多くのITサービスが導入されているが、そのうちの1つに予約システムがある。
予約システムを導入することにより、診療所が患者数を管理できるだけでなく、患者側がいつでもどこでも診療予約を取ることが可能となる。待ち時間の削減や業務効率化などのメリットにつながるのだ。
以上が基本的な部分だが、ここからはクラウド電子カルテに詳しいクリニカル・プラットフォーム鐘江康一郎代表取締役による解説をお届けする。なお、本連載では、第三者による医療関連情報の確認として、病院経営の経営アドバイザーとしても著名なハイズ株式会社の裵(はい)代表による監修も受けている。
予約システムが無いことがマイナスに働く時代になる
近年、予約制を導入する診療所が増えています。最大の目的は患者さんの待ち時間を減らすことによる不満の解消にありますが、待合室での患者さん同士の感染を防ぐことや、待合スペースを小さくできるなどの効果も期待されています。また、何番目と分かることで患者さんのイライラを少なくすることにも効果的と言われています。
診療所の予約には、大きく分けて3つのタイプがあります。1つ目は来院した順に整理券を配布する方式で、当日の診療にのみ適用されます。一般的には「順番予約」と呼ばれていて、診療所に発券機が設置されている場合や、インターネット上から順番に並ぶことのできるシステムを導入している場合があります。小児科などの緊急性が高い診療科、皮膚科や整形外科などの患者数が多い診療科に適している仕組みです。
2つ目は、診療所のスタッフが操作をして未来日の予約を取得するタイプです。診察の帰り際に次回の予約を取得する場合や、患者さんからの電話に対応してスタッフが空き状況を確認して予約を取る場合があります。精神科や心療内科など、あらかじめ時間を決めて診察を行なうタイプの診療科に適した仕組みです。
3つ目が、インターネット上で患者さん自身が予約を取るタイプです。診察や検査の枠を設定してインターネット上に公開する必要があるため、健診やワクチン接種など、診療時間が予測できる診療科に向いていると言えます。
複数の企業が、3つのタイプすべてに対応できる予約システムを提供しています。かつては院内のPCにインストールをするタイプがほとんどでしたが、最近ではクラウド型のサービスも続々登場し、機能も増えて便利になっています。
予約システムを導入している診療所が抱えている課題の1つが、予約システムと電子カルテのデータ連携です。電子カルテが院内設置型で、予約システムがクラウド型の場合、診療所ごとにデータ連携の「作業」を追加する必要があります。『外部サービス連携』の回でも言及しましたが、数年後には電子カルテも予約システムもクラウド型が主流になり、相互がAPIで連携されるようになっているものと考えています。
この流れは、診療所が予約システムを導入する金銭的なハードルが一気に低下することを意味します。予約システムが「あること」が差別化要因になる時代は終わり、予約システムが「ないこと」がマイナスに働く時代になると予測されます。
記事監修
裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長
1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、金沢大学をはじめ北陸3県の病院にて外科医として勤務。その後、金沢大学大学院に入学し外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、大阪の市中病院にて臨床病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)にてMBA(経営学修士)を取得。2009年に医療経営コンサルティング会社を立ち上げ、現在はハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。