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確定申告スペシャルインタビュー

電子書籍で2億9000万円 漫画家・佐藤秀峰さんの収支報告

盛田 諒(Ryo Morita)

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言いなりにならないというのを貫いてみようと

── 電子書籍はまだ生まれたばかりで売上規模も小さく、本当に市場になるのか不安視されています。一方、紙の出版物は右肩下がり。そんな中、しっかり数字が積み上げられているのは、いまから漫画家になろうと考えている人たちにも励みになりそうです。

 自分が漫画家になろうと思ったときって、なんでだったかなって最近考えるんですね。

 「なんで漫画家になろうと思ったんですか」って、よく聞かれるんです。「小さいときから絵が好きで、そのまま大人になっちゃった感じですか」とか、「勉強できなかったんで、漫画を描きましたね」とか答えちゃうんですけど、ウソじゃないんですけどね、なんかちがうなあ、と思っていて。

 いま長男が思春期に入ってきて、今度中学3年生なんですけど、「勉強なんて何の意味があるんだよ、こんなことやりたくない」とか、「こんなことおぼえて何の役に立つんだよ」とか言うんです。大人としては「勉強をやっておいたほうがいいよ、社会に出てから役に立つことがあるから」と言いますよね。向こうは「何の役に立つんだ、歴史なんておぼえて何の意味があるんだ」と言うんです。面倒くせえなあと思うんですけど、でも、考えてみたらぼくもそうだったなあ、と思って。

 なんで勉強しなきゃいけないのかわからないけど、とりあえず大人から「やれ」って言われて、従わなきゃいけない状況が、イライラして嫌だったんです。でも明日から家を出て自分で働いて食っていけと言われると、まだ子供なので、それも不安でできないんです。じゃあ大人の言うことを聞かなきゃいけないのかというと、それもムカつく。

 その気持ちをどう解消していいかわからなくて、そのとき、漫画家になるって、ただ決めたんですよね。好きなことをして生きていく、とただ決めて、それを漫画に設定したんです。そこに自分の人生みたいなものを、賭けてみようかなと。そんな感じだったかなと、息子を見ていて思うんです。

 基本的に大人の言うことを聞きたくなかったので、出版社とか大きなものに巻かれて、言われたとおりにテスト勉強をするみたいな漫画の描き方は嫌だったんです。せっかく自分がやりたいように生きていくと思ったはずなのに、また受験しているのとおなじように「アンケートで何位をとる」とか「編集者に気に入られるように描こう」とか、他人が付ける点数ばかり気にしなきゃいけない。そんなことだったか、と考えるようになって。自分でできることをしなきゃ、と思って、電子書籍に行ったんですよ。

漫画を描くことは佐藤さんにとって自立そのものだった

── 自分で考えてやっていくほうが合っているだろうと。

 言いなりにならない、というのを貫いてみようと思ったんですよね。漫画家になれたら好きなことだけできて幸せ、ということではないですから。結局、漫画業界というのも社会なので。上がいて、下がいて、言うことを聞かなきゃいけないし、頭を下げなきゃいけない。好きな漫画が描けて楽しいことだけ、ということにはならない。その列車は降りられない。そう思ってたんですけど、実は降りることは簡単なんです。ただ決めればいい。自分の足で歩くのも楽しいな、という感じですかね。

── 漫画家ではなく経営者であるという意識が、自分の行動を変えたことはありますか。

 遺言書をつくりましたね。死んだあとに会社をどうしようと思って。これまでも、スタッフに給料を払わなきゃいけないということで、デビューしたてのお金のない時代から自分としてはがんばってきたんですよ。漫画家は水商売だからと、スタッフに徹夜で作業させたり、まともな給料を払わない作家が多いのも現実ですが、ぼくは労働基準法に従って賃金を払い、雇用保険とか社会保険も全部加入しています。まあ、普通のことなんですけど。で、がんばって給料を払ってきたけど、ぼくが死んだあとどうなるのかな、と考えると、このままじゃ、この会社はなくなると思ってたんです。でも、「電書バト」というサービスをはじめちゃった以上、ぼくがいなくなってもこの会社は続かなくてはいけない。じゃなきゃほかの作家さんに迷惑をかけちゃうなと。ぼくがいなくてもこの会社が動くための仕組みを作らなきゃいけないと思い、こうしようああしようというのを、公証役場に行って遺言にまとめたんです。ということでいつでも死ねますよ。

── これからはどうしていきたいですか。

 漫画をもっと描きたいですね……なんでも自分たちでできると、漫画を描く時間が奪われちゃうので、どんどんぼくがいなくてもいいようにしていって、漫画を粛々と描いていきたいです。

── 経営者であり、漫画家である生き方。

 漫画家って全員経営者なんですけど、当の作家は割とそこを気にしていない人が多いというか。本人はいいとしても、それだと付き合わされるスタッフや周りの人に迷惑をかけちゃうなって。漫画、大変ですよ。単行本を出しても、10年前の3~4割しか売れないですから。経費に追われて漫画を描いていても借金を背負ってるような感じになってしまうので。もしも漫画だけ描いてたら、単行本の数はもっと出ていたかもしれないですけど、きっと今より追いつめられてたんじゃないですかね。

── 新しい道がひらけました。いまの生き方は、面白いですか。厄介ですか。

 厄介です。まあ、面白いことというのはだいたい厄介なんでしょう。


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