音響カプラーからモデムへビジネス転換
下の画像は、1978年にByte Magazineに掲載した同社のUSR-310の広告である。
画像の出典は、“SWTPC(Southwest Technical Products Corp)の“U.S. Robotics Modem”ページ”
こうした音響カプラービジネスからモデムビジネスへの転換が起こるのは1979年である。この年FCCは、非AT&T機器を直接電話回線に接続することを許すという緩和方針を打ち出したことで、音響カプラーからモデムへの新しいビジネスが発生することになった。
読者の中で音響カプラーを使ったことがある人がどの程度いるかわからないが、使い方は非常にセンシティブであった。
というのは脇を静かに歩いただけでノイズが載ったりしたので、家庭で使う場合はカプラーに受話器をセットしたら、それを3枚重ねの座布団の上に置き、上からも座布団かぶせ、さらに全体に布団を被せるくらいのことをしないと、下手をするとキーボードの打鍵音だけで通信エラーが出て使い物にならない、なんて経験をしたことがあるのは筆者だけではないと思う。
もっともこのあたりはカプラーの性能や電話回線の性能なども関係しているようで、大学の時に研究室から学内回線経由で計算機センターにつないだときは、カプラーに受話器をセットすれば、特に問題なく使えた記憶がある。
とはいえ、わざわざ手で電話して、相手が出てからカプラーにつなぎ直すというのも面倒な話だし、直接接続できるほうがずっとスマートである。そんなわけで同社も早速モデムビジネスに参入している。
画像の出典は、“SWTPC(Southwest Technical Products Corp)の“U.S. Robotics Modem”ページ”
ちなみにUSR-320は着信のみで、発着信両対応のものはUSR-330というモデルになり、こちらは324ドルとなっていた。マイコン本体とはRS232C、もしくは20mAのカレントループでの接続、というあたりが時代を感じさせる。
さてこちらの製品はHayesの80-133Aよりはやや高価だったものの、Bell 103Aに比べれば十分に廉価であり、まもなく急速に売れ行きが高まっていく。
これを受けて同社はChicago Loop(シカゴ中心部のビジネス街)の西に製造拠点となるエリアを借りるが、1980年台に入るとここが手狭になったため、1984年にはシカゴ市郊外のスコーキーという町にあった、もともとは製薬会社のビルに移転している。
この当時、U.S.Roboticsはモデム専業メーカーになっており、この時点での主要な競合メーカーは前回紹介したHayesのほか、MotorolaのCodex and UDS divisionがいた。
この3社で市場を分けあっていた形だが、U.S.Roboticsが他の2社と異なるのは、この頃には専用のデータ通信用チップを自前で開発していたことだ。
他の2社は半導体メーカーが高速なモデム用コントローラーを開発するのを待たないといけなかったのに対し、U.S.Roboticsはこのタイムラグがなかった。この結果、1980年のV.22(1200bps)や1984年のV.22bis(2400bps)で、遅延なく製品を投入できた。
続く9600bpsでは、(これも前回紹介したように)HSTという独自プロトコルを採用した製品を投入する。ただしCCITTがV.34を標準化し、これが大勢を占めた関係で、同社もまたV.34に対応した製品を投入している。
このタイミングで、同社は製品ラインを2つに分割した。企業向けのハイエンド製品にはCourier、一般向けのバリュー製品にはSportsterというブランドを与え、Courierは利益率が高めの価格設定を、SportsterはHayesやSupraとの価格競争力のある設定をそれぞれ行なっている。
実は両製品は回路そのものは同じである。異なるのは内部のファームウェアである。この頃同社の製品はDSPベースのものになっており、このDSPに与えるファームウェアをCourierとSportsterで分けることで性能と機能の差別化が行なわれていた。
V34の世代で言えば、Sportster 9600とこの後継のSportster 14400はそれぞれV.32/V.32bisにのみ対応した製品であるが、Courier Dual StandardはV.32とHSTの両方のプロトコルをサポートした。
加えてCourierは、ファームウェアのアップデートでより高速なプロトコルに対応できることを当初からアナウンスしており、こうした機能の差でSportsterとの差別化をしている。
例えば14400bpsのV.32bisに続き、1994年には28800bpsのV.34が標準化されるが、これに先立ちU.S.RoboticsはHSTを改良して最大16800bpsまでの通信を可能にしている。当初のCourierはHSTでも最大14400bpsであったが、ここに改良版のファームウェアを適用すると16800bpsが可能になったというわけだ。
これは続くV.34に対応したCourier V.Everythingでも行なわれた。これが投入された当時はまだV.34そのものの策定が終わっていなかった。
当時は28800bpsをサポートする規格は、HayesとRockwellが共同で開発したV.FC(V.FastClass)という規格しかなく、そこでCourier V.Everythingも当初はV.FCのみをサポート。後追いでファームウェアアップデートによりV.34への対応が追加されている。
1996年にはV.34bisとして策定されてきた33600bpsの規格がV.34に統合されており、これも後追いでサポートされた。
同種の話は、この後出てくる56000bpsの時代にも再現された。56000bpsで、U.S.RoboticsはX2と呼ばれるプロトコルを提案、競合メーカーはK56flexという異なるプロトコルを提案する。最終的にはV.90という、どちらとも互換性のないプロトコルに収束した関係で、CourierはX2とV.90の両対応となる。
ちなみに旧来のCourierのユーザーの場合、さすがに無償でV.90への対応はできなかった。まずライセンス料を支払った後に、同社の指定の番号にモデムで電話をかけると、ライセンスが登録されてV.90が利用できるようになるというサービスが提供されている。
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