モデムチップメーカーのRockwellと独占契約
格安モデムが秋葉原でも大量に売られる
このあたりから、モデムがどんな通信規格に対応しているかが次第に重要になってくる。このモデムの通信規格そのものはITU-T(国際電信電話諮問委員会)が標準化作業を行なっているが、標準化されても実際には使われなかった規格もわりと多い。
広く一般的に使われたという意味では、300~56000といったボーレートになるが、それぞれ以下のような関係になる。
モデムの速度と通信規格の関係 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
スピード(baud) | 規格(勧告案) | |||||
300 | V.21 | |||||
1200 | V.22 | |||||
2400 | V.22bis | |||||
9600 | V.32 | |||||
14400 | V.32bis/V.33 | |||||
28800 | V.34 | |||||
33600 | V.34bis(後にV.34として統合) | |||||
56000 | V.90/V.92/(X2) |
これらの規格は、どちらかというと先行して技術開発したメーカーがその技術を標準化案として提案し、ついでに先行発売して既成事実を作り、先行者利益を獲得するので、その意味ではそうした新技術の開発ができる体力を持ったメーカーが有利となりやすい。
Supraはこの点でやや競合メーカーに遅れを取っていたのはやむをえないところだ。ところがSupra Corporationにとって幸いだったことに、この急速に進化するモデムの市場を狙っていたのはモデムメーカーだけではなかったことだ。
Rockwell Internationalの半導体部門(現在はその一部がConexantとして残っている)もこのモデムチップの市場に目をつけており、自社でモデムチップを開発していた。
SupraはこのRockwellと独占契約を結び、RockwellのV.32及びV.32bisのチップを利用したSupra FAXModem V.32とSupra FAXModem 14400をそれぞれ299ドル、399ドルで1991年に発売する。
画像の出典は、“Wikipedia”
秋葉原などに入ってきたのは、Supra FAXModem V.32のほうで、当時5万円を切った価格だったと記憶している。この当時の為替レートは1ドルが101~126円と変動があった年だが、ショップによる並行輸入だった(Supraはついに日本に代理店を置かなかった)ため、この程度のマージンが載るのは妥当な範囲だろう。
ちなみに1993年当時の製品を調べてみると、インテグランのポケット型9600baudモデムである「通信ポコ9600」が6万8000円となっていた。AIWAのPV-A96V5などの据え置き型モデムはもう少し高価だったと記憶しており、Supra FAXModemの価格の安さが際立っていた。
もっともまだPSEマークもなければ、技適マークの取得にもうるさくない時代だったためできた技でもあるが、付属していたACアダプターがUSのものそのままで、「長時間使ってるとまずACアダプターが壊れる」と言われており、事実筆者が所有していたものも壊れた。確か本体にAC9Vを入れる不思議な仕様だった記憶がある。
V.34対応モデムの開発が遅れ
価格競争に敗れる
話を戻すと、これによりSupraは高速モデムの市場でもUSRなどと互角に争えるポジションを固めることができた。ただ不幸なことに、この後が続かなかった。
Rockwell Internationalは、V.34のチップの開発に乗り出すが、これが予想外に時間を要し、その一方でUSRを含む他のメーカーはV.34対応のモデムを1993年中から投入し始める。
ちなみに1993年はまだV.34そのものの策定が終わってなかったので、例えばUSRのCourier V.Everythingは登場時に“Courier V.34 Ready”というロゴを付けて売っていた。
Courierの場合はDSPベースのモデムだったので、ファームウェアのアップデートで仕様の差を吸収できる構造だった。したがって見切り発車で製品をリリース、あとからアップデートで正式対応という、この業界でよく聞くパターンが行なわれたわけだ。
それでもSupraもなんとか1994年中にSupra FaxModem 28800をリリース、さらに同年にはSupra Voice Modemも出荷する。これは要するに電話を使った自動音声応答システムなどに使われるもので、「XXXにありがとうございます。○○に御用の方は1を、△△に御用の方は2を押してください」といったシステムを作る際に使われるものだ。
ただなにぶん出遅れたうえ、28800baud以降では業界全体の価格競争が激しくなった。なんのことはない、Supraが構築した「半導体メーカーの作るモデムチップをそのまま使うことで、安くモデムを提供する」というビジネスモデルを他社も真似ただけの話であるが、この結果としてSupraの売れ行きは急速に悪化した。
結局同社は1995年、Diamond Multimediaに買収され、既存の製品ラインはDiamond Supraとしてそのまま継続販売されるに至る。
幸いというかどうかわからないが、現在もこのモデム製品のラインナップはDiamond SupraMAXとして残っており、ブランドだけは維持された格好であるが、果たして現在の顧客の何%くらいがそもそものSupraというメーカーを記憶しているか、はなはだ疑問である。
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