グーグルは12月1日、同社のAR/VRへの取り組みを説明する記者発表会を開催した。米GoogleよりAR/VR部門のHead of Content Partnershipsを担当するAaron Luber氏を招いて、高品質モバイルVRプラットフォーム「DayDream」とARプラットフォーム「Tango」を解説したほか、HTC VIVE向けイラスト作成アプリ「Tilt Brush」を用意して、手塚プロのクリエイターによる鉄腕アトムのライブドローイングを披露するなど、同社の取り組みを多方面から紹介した。
Tilt Brushは、2本のコントローラーを使い、空間にイラストを描いていけるアプリだ。奥行きをつけて3次元的に描けるのが大きな特徴で、他の人の作品を読み込んで、絵の中に入って鑑賞できるというのも新しい。
その中で、筆者が一番気になったDaydreamについて、5分ほど触る機会があったのでインプレッション記事をお届けしよう。
Cardboardよりもなるべく長く楽しめるような基盤
VRをあまり知らないという方向けに説明しておくと、Googleは2015年より「Cardboard」というダンボール製のVRビューワーをリリースしている。ダンボールの前面をカパっと開いて、スマートフォンを挟み込み、VR対応のアプリを起動して楽しめるといった使い方になる。Google自体はCardboardを製造しておらず、オープンソースとして公開された設計図を元にさまざまな業者が製造して、イベントや何かのオマケとして500万台以上も配布されてきた。
一方でDayDreamは今年6月に、構想を開発者イベント「Google I/O」で発表し、11月に「DayDream View」を発売したばかりになる。スマートフォンを前面に挟み込むという点は同じだが、Cardboardよりも質の高いVR体験を実現してくれる。例えば、頭を振っても映像の乱れ(ジャダー)を少なくしたり、体験中にVRアプリにより処理能力を割り当てられるように、Android OSに手を入れたり、対応するスマートフォンを限定していたりする。
ほかにもヘッドバンド付きでハンズフリーで操作できたり、モーションコントローラーが1基付属しており、手の動きで直感的に操作できるというのも大きい。ソフトウェア方面を見ても、つけたままアプリを切り替えられるようにホーム画面を用意したりと、Cardboardよりもなるべく長く楽しめるような基盤をつくっている。
残念ながらDayDreamは日本未発売で、リリース時期も未定とのこと。今のところ対応スマートフォンは「Google Pixel」のみだが、ZTEやアルカテルなどもリリースを予告している。競合製品は、サムスン電子とOculus VRが共同開発しているGalaxy専用のVRゴーグル「Gear VR」だ(といっても、DayDream対応スマホのメーカーとしてサムスン電子も名乗りを上げているのだが)。より詳しい話は、VRおじさんの過去記事を読んでください。
フェイスパッドが洗えるのも丸
さて、前置きがめちゃくちゃ長くなったが、DayDream Viewを体験してみて感じたのはつけ心地のよさだ。
まず手に持った感じが、非常に軽くて柔らかい。Luber氏によれば、DayDream Viewの本体はシャツにも使われる素材を利用しているそうで、触り心地もとてもいい。装着面のフェイスプレートもウレタンのような柔らかい素材がベースだ。
外観デザインでいえば、他の製品はどちらかといえば「男の子」向けだが、DayDream Viewは女性にも受け入れられそうな見た目なのも特徴だ。テクノロジー主導ではなく、多くの人が受け入れられるようにハードウェアを設計していると感じた。
運用面も考えられている。スマートフォンはゴムひとつはずして挟み込むだけなので、Cardboardのベルクロよりも手軽だ。使わないときには、この前面のフタにモーションコントローラーをしまって持ち運べる。
フェイスプレートは色々なサイズを用意しており、例えばメガネの方でも装着可能にしてくれるとのこと。ガバッと取り外して洗えてしまうというのも、イベントや展示会で多くの人に体験させる用途では嬉しい。ヘッドストラップは横方向のみで、頭の上には通さないスタイルだ。ずれおちるのを心配していたが、ストラップの中央を伸縮させてキツめにしたらきちっと固定することができた。
実際にかぶってみたところ、モーションコントローラーの便利さが際立つ。レーザーポインターでスライドを指し示すように、目の前のアイコンをクリックで選んで階層を進んでいける。YouTubeアプリで動画を検索する際には、バーチャルキーボードのキーを指事してクリックで決定し、上下にスワイプしてメニューのスクロールが可能だ。
Googleストリートビューアプリでは、360度写真の中に示されている○をコントローラーで指し示して、クリックすることでそこに視点を移動できた。Cardboardのようにビューワー脇のボタンで操作するよりも、手の位置が自由かつ直感的で快適だ。
一方で気になったのはGoogle Pixelの温度で、かなりの熱さだった。これはGear VRでも起こっていた現象だが、処理負荷の高いアプリは端末が止まる可能性があるかもしれない。モーションコントローラーの位置も頻繁にずれていた。もっとも、戻るボタンの長押しで再調整できるのでそこまで不便ではないが、HTC VIVEやPlayStaiton VRのレベルまでは達していない。
とはいえ、モバイルVRでここまでの手軽さと高品位を両立させたのは素晴らしい点だ。360度動画など、出先に持ち歩いて自分のVR作品をデモする用途では十分に役立ってくれると実感したので、VR関係者はぜひ海外の展示会などで試してほしい。
広田 稔(VRおじさん)
フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。