このページの本文へ

前へ 1 2 3 4 次へ

人工知能は教育をどう変える? 徹底対談 第2回

品川女子学院 漆校長×人工知能プログラマー 清水亮

人工知能を持ち歩く時代に生き残る仕事っていったいなんだろう?

2016年11月21日 09時00分更新

文● イトー / Tamotsu Ito

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

「実は人間は科学的な発見が得意ではない」から
AIが使いこなせない研究機関は競争力を失う

清水  本書ではドワンゴAI研究所の山川先生とか、PEZY Computingの齋藤社長に最終章に出てもらったんですが、急にここだけはブッ飛んだ内容になっています。

 もっと普通の人向けの話をすると、今年の人工知能学会の全国大会で、ソニーCSLの北野所長が人工知能使ってこういうことやらなきゃいけないんだ、という話をしていました。科学者がいかに科学的発見をするか、それには3つあると。「“セレンディピティ”“幸運な間違い”“科学的直感”。これらはすべて偶然である。だから実は我々は科学的発見が得意ではないんだ」という話をしていて。

 実は世の中には年間150万本の何らかの論文が出ています。この論文に書かれた実験結果なり考察なりというのを、相互に検証することはもはや人類にはできません。それをAIでやるしかない。科学的発見の本質というのを見つける必要があって、実は科学的発見ということだけを考えると「産業革命以前の状態じゃないか」というようなことを言われています。

 この一番下が大事なんですけど、「AIが研究に不可欠なツール」となって、高度な人工知能システムがない研究所は競争力を失う、と。それこそ文明の進化が、本書の冒頭でも東大の松尾先生が「農業革命以来の進化だ」みたいなことをおっしゃってますけど、いま人類は知識を生み出す道具を獲得するというすごい大きな流れの中にいますよ、ということなんですよ。こういう話聞くと、本当!? って感じですか?

「AIが研究に必要不可欠なツールとなる 高度な人工知能システムがない研究所は競争力を失う」すなわち、研究機関においても、人知を超えた試行錯誤、仮設の検証が可能な人工知能の利用は欠かせないものになっていくということだ。

漆 いや、逆にね、ちょっとあまりにこのところの進歩が速いから怖いぐらい。どうなるんだろうって。今の小学校の生徒の65パーセントは親の知らない仕事に就くって、ニューヨーク市立大学のキャシー・デビットソンさんが言ってましたけど、もっともっとそうなっちゃうのかな、とか。

清水 講演が面白いのは、人工知能の研究者が集まった中でこの話してるわけですよ。彼らはもう、2045年までにノーベル賞とるって言ってるんです。人工知能がですよ。

漆 そうすると自動運転の事故の責任は誰なのか?と同じ問題で、ノーベル賞は誰のものになるんでしょうね。

清水 それは玉虫色の感じになるんじゃないですか。とりあえずAIをつくった人の名誉になるとか。本書の中に出てくるエピソードですけど、メトホルミンという50年以上前からあった糖尿病の薬があるんですけど、実は大腸ガンにも効くんじゃないか、ということが最近わかって。

 それが半世紀もわからなかったという話が、ショックだという話なんです。それも結局、偶然に見つかった。こういうのはたくさんあるはずで、最終章を締めくくってもらった齋藤さんに言わせると、人工知能によって、人類はすべての疾病、病気を克服してしまう可能性があると。

日経新聞 Web版が2016/3/6に取り上げた記事。古くからの薬が今になって別の重要な効能を持っている可能性が判明するということは、薬効の発見そのものが相当に運に頼ったものであるということを示している。同じような現象は、材料工学などあらゆる分野に潜んでいる可能性がある。

漆 縦割り組織のお医者さんが横に連絡とれるということでしょ。わたし、更年期で動悸がしますって心臓外科の先生に言ったら、「僕、更年期の心臓、わからない」って言われたことあるんですよ。

清水 更年期障害の心臓は違うんですか。バチスタ手術できるのに。

漆 冗談かもしれないけど。結局、ハートセンターで検査しても分からなくて、婦人科に行ったらすぐわかりました。

清水 結構タコツボ化していて、人類の知性って大したことないな、という感じじゃないですか。

漆 それが横につながれば、それこそ若いお医者さんとかよりも、見立ても優れているというのがもうできてるんですよね。

清水 そうですね。いわゆる「コネクトーム」とかの話になるんですけど、これはネズミの脳ですね。ネズミの脳がどんなふうにつながっているか、というのも今はわかっていて、人間の脳もあと数十年、十年ちょいぐらいでできるよ、という話が本の中に出てきます。

 そういう話でいうと、人工知能の学習手法の「蒸留」というアイデアを人間に対して適用すれば、人間に何か絵を見せたときの脳の反応を、そのままAIが学習することは十分可能です。つまり、意識を蒸留すれば(ある種の)不老不死ができるんじゃないかとか。

 もちろん、脳の反応パターンだけ見えても困るので、こういう脳の反応のときにその人はどんな顔してるかという(こともわかるようにする)。これなんか、「デジタル遺影」として、墓前に置いておくというサービスがつくれそうですよね。

ネズミの脳の神経回路ネットワークを再現したCG。

高度な人工知能が学習した問題と解答の組み合わせを、よりシンプルな人工知能に再学習させる手法を「蒸留」という。再学習させれば、シンプルな人工知能であっても、高度な人工知能と大差ない結果が出せることが最新の研究で明らかになっている。

 あとは「シンギュラリティ」という話があって。シンギュラリティ(AIの知性が人間を追い越す時期のこと。技術的特異点)が訪れるのって、そんな遠くないですね。本書だと早ければ2025年になってますから、ちょうど今から10年未満ぐらい。今年の入学した人が12歳で入ったとして、22歳、大学卒業するぐらいに、シンギュラリティがきてるって話なんです。

 本当を言うと、僕らには何もアドバイスできないんですね。だって卒業する頃に、人間の脳と同じ能力をもつコンピューターが、頑張って2025年までにつくれるという仮説のもとで動くという話ですからね。しかも今日は割愛しましたけど、人工知能のプログラミングというのは、他のプログラミングに比べて簡単すぎなんですよ。そこにまた恐怖を感じるんですね。

漆 子どもでもできちゃうんですか。

清水 できます。実際、僕も教室で教えたわけですから。10歳の子もやってましたから。一番元気だったのは10歳とか12歳でしたね。怖いものがない。すごい単純な回路を学習しただけでも、すごく喜んでました。昔でいったらベーシックぐらいのプログラムで(最小限で動く本物のAIが)作れちゃう。

 1ページで入るようなプログラミング言語でできちゃうというのが、実は一番僕らが恐怖しなきゃいけないとこかな。ここらでまとめましょうか。どうですか、少しは伝わりました?

漆 あんまり(笑)。でも、いろんな要素がわかりました。どういう要素が、今、考えなきゃいけないのかっていうこと。この本もいろんな人が出てきて、いろんな切り口で話すので、こんなに広い範囲に影響があるんだな、というのは改めて思って。そういう様々な視点、切り口が手に入った感じがしますね。

清水 本書のまえがきに書いたんですけど、「どこまでわかってて、どこまでわからないかがよくわかる」というタイトルだってことになってます。よくわかんないことがよくわかると。はっきり言って、僕が聞いてても「どうなってるんだ、この人たちは」という話ばっかりなんですよ。

漆 でも「なるほどー」とか書いてますよね、対談で。

清水 一応「なるほどー」と言わないと、話進まないじゃないですか(笑)。相手の話を聞きながら、どこまで実現するか僕もわからない。久しぶりにとんでもない本を書いてしまったな、という感じなんですけど。なんか刺激になったら、よかったです。

漆 ありがとうございます。品川女子学院の図書室に入れますね。あとでサインしてくださいね。

(対談セッション後の質疑応答では、参加者からの活発な質問が飛び交います。漆先生、清水さんはどう回答したか?第3回に続きます。)

Image from Amazon.co.jp
よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ

前へ 1 2 3 4 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ