品川女子学院 漆校長×人工知能プログラマー 清水亮
人工知能を持ち歩く時代に生き残る仕事っていったいなんだろう?
2016年11月21日 09時00分更新
終夜営業飲食店のワンオペ問題をAIが解決する?
清水 仕事が奪われる、みたいな観点でも、本当にみんながやり甲斐がある仕事を奪っているわけではない。たとえば残業の話もそうなんですけど、なんで残業しなきゃいけないかというと、いろんな事情あると思うんですけど、結局のところ、仕事量が多すぎるんですよね、簡単に言えば。多すぎる仕事量をAIがいくばくかでも肩代わりすれば、残業しなくていいはずで、それでも残業しろっていうなら、それはまたちょっと違う話ですよね。
実際飲食とかだと、「ワンオペ」なんかが問題になりましたけど、あれなんか、それこそロボットでいいと思ってるんですよ。だって、コンビニエンスストアって、見方を変えれば巨大な自動販売機じゃないですか、実質的に。同じものを出してくれる自動販売機があったら、別にそこでいいわけじゃないですか。店員がロボットに代わったからといって、コンビニの価値が下がるわけじゃない。
漆 実際セルフレジというのもありますからね。
清水 じゃ、なんでコンビニに店員がいるかといったら、万引きするやつとか、コンビニの前にたむろったりするやつがいるからで、それってシステムによって、近隣の4店舗を巡回するセコムみたいなのがいるとか、巡回する人がいるとかで、ある程度解決できる。
漆 レジ通らないと出られないとかね。
清水 あとそれこそ、画像解析がすごいしっかりしてるから、入った瞬間に3丁目の山田くんってわかっちゃう。しかもIDタグがついてて、持って出た瞬間に万引きしたってわかるから、万引きしたってわかるより早く、親に課金すると。
そうすると怒るのは親ですから「コンビニ行っちゃダメ!」と言われるとかね。入る前にID出さないと入れないとか、いろいろ方法はあって。たとえばですけど、店員がいないコンビニができるとします。そしたらたぶん、店員がいるコンビニよりも明らかに安くなりますよね。
漆 そりゃそうですよね、人件費がね。
清水 そしたらそういうコンビニが、既存のコンビニの隣にできたら、人がいるコンビニは潰れますよね。だからこういうパラダイムシフトというのは、ものすごい勢いで起きていくと思いますよ。料理も一緒で、極端な話でいうと、今、牛丼屋の店員さんと触れ合いを求める人って、あんまりいないですよね。カフェにはいるかもしれないけど。
漆 ネギ抜きで!とか?
清水 それは触れ合いじゃないです(笑)。それは僕がiPhoneのSiriにいかにうまくものを頼むか、という話とあんまり変わらないですから。そういう意味では、ロボットになったらワンオペの問題って消えるし、今よりもっと安くなる。24時間営業のごはん屋さんというのが、一食100円、50円とかになっちゃったら、家でもう誰も料理つくらないですよね。そんなことは、ちょっとずつでも起きていく気がしていて。
誤解を呼ぶ発言かもしれないですけど、コンビニの店員が人生の目標だという人は、そんなにたくさんいないですよね。家業がコンビニエンスストアならともかく、大学を卒業してコンビニエンスストアで一生働きたいと思ってる人は、そんなにいないと思うんですよ。
それはやっぱり、ひとつの考え方として、人生のある時期にタイムチャージで、自分の時間を売ってお金を稼ぐということだと思うんです。あともっと言うと、そもそもなんでお金を稼がないといけないんだっけ? ということなんです。お金を稼がなきゃいけない理由って、とても少ないと思ってて。
なぜ人は「稼がなければいけない」のか?
人工知能はその当たり前の行為の意味を問う
漆 それわかるな。
清水 昔はやらなきゃいけかった。誰かが農作業をやらないと、ごはん食べられないから農作業が始まった。農作業が全自動になっちゃったら……。
漆 ソローが書いた『森の生活』を読んだら、まさにそうで、働くからお腹が空いて、食べなきゃいけなくて、働かなきゃいけないっていう。
清水 悪循環。ごはんを食べられる、もしくはロボットが勝手にお金をつくって、日本政府が適当にベーシックインカムでとりあえず1ヵ月死なずに暮らせるようなお金をくれる、となったら、実は働かなくてもいいという人たちが続出するはず。という意味では、なくならなそうなのは、YouTuberとかじゃないですか。
漆 それが結論!? 今日持って帰るのは(笑)。
清水 来週あたり校長先生の話で、「皆さん、YouTuber目指しましょう」とか言ったら爆笑しますよね。
漆 あまりびっくりしないかも。いつも未来の話をしているから。たとえば、女性の仕事の中で起業家って増えてくると思うんです。それでソーシャルビジネスの概念で文化祭の模擬店を営業したり、企業コラボとかもやってるので。実際、中3で起業した子とかも出てきてるんですね。YouTuberも考えてみます。
清水 正直、YouTuberはいろいろリスクはあると思うんですけど、YouTuberでやっていける人ってめちゃくちゃ頭いいですよ。
漆 それはそう思います。
清水 コンテンツづくりの部分もそうだし、常に人の気を引くとか。意外とそういう能力は、AIには獲得できませんから。キャラクターを立たせていくというのは。AIがわーっとくる前に、YouTuberを維持できるかどうかちょっと保証できないですけど。
漆 今だったら、CMクリエイターの能力だけど、これからはAIが面白いものだけ分析して抽出して受ける作品をAIがつくるという時代がきちゃうかもしれませんね。
清水 CMとかは、個人の才能にそんなに頼らなくてもいい時代というのは必ずやってくる気がしていて。すごいお金かけてつくったCMよりも、おじさんが高い声でまくしたてるテレショップのほうが売れちゃったりするじゃないですか。そこはまだ検討の余地があるかなと思いつつ。
漆 分かれてくるのかもしれませんね。本当に相手が人でなくても、安いならAIがやるので構わないって人もいるし、一方で高くてもいいから本当に人と人との触れ合いがいい、という人もいる。分かれてくるかもしれない。
清水 そうですね。結局は社会でうまくやっていく能力を磨かないといけない。人と人との触れ合いの世界ですから。そこだけはAIには学びようがない。社会がないから、あいつが好きとか、嫌いというのは、まだAIの世界にはとりあえずない。
そんなややこしい感情を、我々もわざわざ入れないでしょうしね。仮にAIつくる側が「好き嫌いの機能、入れようぜ」と言ったら、「俺、嫌われちゃったよ」みたいになる。それ、困るじゃないですか。
漆 わかる。私の言うことだけ聞かない、とかね。親御さんがよく言うんですよね。「なんで先輩の話は聞くのに、私の話は聞かないの」って。
清水 尊敬するとか、そういう感情は人工知能には絶対入れないですね。変な邪教とかにはまったら困るじゃないですか。「やっぱ、人類は滅ぶべきだと思うんだよな。どうすか?お父さん」みたいなこと言われて、「ダメだよ」「でもちょっと、俺、先輩についていきますよ」みたいな、他のAIについていっちゃうやつとか現れたら、ヤバいです。それこそ人類滅亡のほうに行っちゃう。あえてわざわざそんな機能つけないですね。今のとこ、安全にコントロールできる。皆さん、ただちに健康上の心配はないということでご納得いただきたいですけど。
未来の話もちょっとしてみましょうか。
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