外のモノサシを知る近道は、地場に他の地域とつながったコミュニティを育てること
では、外のモノサシをどのように知り、どのように取り入れていけばいいのだろうか。具体策はそれぞれのビジネス領域により違うが、地方でITに取り組む人に向けて小島さんが示す答えは、コミュニティや勉強会への参加だ。
「コミュニティとは、元々は地域に根ざした共同体でした。現在ではネットなどを通じて、目的・理念を共有する人の集まりになっています。変化が大きいとき、コミュニティは非常に役立ちます」(小島さん)
小島さんのイメージでは現在あるべきコミュニティの姿は、幕末の志士たちに重なるという。世界が大きく変わろうというときに、地域を越えて脱藩して集まった志士たち。彼らは、新しい世界では自分の藩だけのモノサシでは生きていけないと考え、外のモノサシを求めて藩を後にしたのだと、小島さんは言う。
クラウドにより世界が大きく変わっていく今、自分たちのモノサシだけで生きていくのは難しい。AWSだけでも2015年に700以上のエンハンスが行なわれ、2016年はそれを大きく上回る速度で進化を続けている。これは、社内や仕事を通じて学べる範囲を超えており、学んで行くには実際に触っている人同士で情報交換するのがもっとも効果的だ。
「今日も、書籍では得られない情報をたくさん得られたのではないでしょうか。しかも書籍とは違い、興味があれば質問することもできます。最近はメディアもコミュニティの力に気づき始め、こういうメディアが出てきました」(小島さん)
そう言って小島さんが紹介したのは、まさにこのサイト。JAWS-UG on ASCIIだ。前述したような世界の変化はメディアにとっても死活問題だと小島さんは指摘する。
「10年前なら、ベンダーが新しい商品のリリースを決定してメディアに対して説明会を行ないます。それが記事になる頃に商品が発表されます。今はそんなことはしません。AWSの中にいる人間でさえ、あれこれ今日出るの?といった具合で、お客さんにしっかり伝えるので精一杯。メディアの方にかまわなくなっていきます」(小島さん)
しかも、ユーザーが競い合うかのように、新機能についてすぐにブログに書く。しかもメディアの人とは違い、実際に触っている人が書いているので、メディアの人間よりも理解が深い。小島さんは自身の趣味であるバイクを例に挙げ、「免許を持っていない人がバイク雑誌の記事を書いているようなもの」と評した。
これはまったくもって耳の痛い話だ。筆者もまったくコードを書けない訳ではないが、日本語で記事を書くことに比べれば何百分の一かという程度の頻度とスキルしかない。サーバー構築も、自宅サーバーを組み替えるたびに仮想化プラットフォームを変えて運用感の違いを確認する程度だ。その程度の技術知識で、現役エンジニアの書くブログに内容の深さで勝てる道理はない。
「コンテンツ力で勝てないことに気づき、いち早く観念したメディアがアスキーさん。メディアだけが持つ力、編集や発信能力だけで勝負しますと。だからコミュニティが持つコンテンツをこっちに寄越しなさいと」(小島さん)
寄越しなさいというような上から目線ではなく、お邪魔してエンジニアのみなさんの熱意をおすそ分けいただいているつもりなのだけど、みなさんの取り組みを報じることでコンテンツを得ているというのは小島さんの言う通り。そして小島さんは、JAWS-UG on ASCIIは成功例と言い、成功の理由を「人より速くやったから」だと述べた。
「二番煎じや三番煎じは難しいんですよ。コンテンツがアスキーに流れるようになっちゃってますから」(小島さん)
この話は、本当にその通りであればいいなと思いながら聞いた。コミュニティのみなさんの持つコンテンツを活かして記事にさせていただけるから、JAWS-UG on ASCIIは成り立っている。2番手が現れたとしても、ぜひJAWS-UG on ASCIIを贔屓に願いたいところです(懇願)。