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盛田 諒の「アスキー家電部」 第59回

いまどき子育て便利帳

「保活地獄」を生き抜くヒント

2016年11月08日 11時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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 保活とは“気の持ちよう”だと思いたい。保育園に落ちる前から日本死ねと言いたくなってくるが、そこまで頑張る必要もないのではないか。発想を転換すれば少しはラクになるのでは。保活を始めて間もない今はそう思うことにしている。

 いま奥さんのお腹にはあかちゃんがいる。妊娠6ヵ月、来年3月出生予定。わたしとおなじ早生まれの男児だそうだ。よろしく頼むぜベイビー。

 わが家は杉並区在住の共働き世帯。なるべくあかちゃんと24時間一緒にいたいが、生まれて半年で育児休業給付金が平均賃金の67%から50%に減ってしまう問題がある。つまり奥さんの収入が減り、世帯収入が減ってしまう。わたしが石油王ならいいのだが、そもそも石油王であればこんな記事を書いていない。

 というわけで仕事をするには子供を預けられる場所を探さなければならない。しかし保育園の定員は少なすぎるため、入園できない子供も出てくる。これがいわゆる“待機児童”であり、親はどうにかわが子が入園できるようあれこれ頑張ることになる。この活動が就活(就職活動)のように“保活”と呼ばれている。

 ちなみに杉並区の待機児童数は2016年4月時点で136人、2017年4月には560人を超える見込みとなっている。区では保育園の新設を急いでいるという話だが、うちの近所は数ヵ所しか新設の予定がなく、定員数も少なくあまり期待できない。

 保活の目標は「家のそばにある認可保育園に入園すること」だが、これがあきれるほどに難しい。「ポケモンGO」でレベル20までにCP2000超えのカイリューをゲットするくらいには厳しい。結論から言うと、杉並区では早生まれのベイビーを生後6ヵ月で認可保育園に入れることはまず不可能であることがわかった。

 知り合い、ツイッターのフォロワーさん、先輩ママ友たちならびに保健センターなどで仕入れた知識をもとに、このレアモンスター的状況を整理してみたい。

認可保育園の高すぎるハードル

 まず働く親が子供を預けられる場所は「認可保育園とそれ以外」に分かれる。認可保育所というのは国の基準を満たした児童福祉施設。それ以外は東京都のような自治体、あるいは民間法人・個人が運営している施設である。

 認可とそれ以外の大きな違いは環境のよさだ。

 認可保育園は国の基準が厳しいために施設そのものがとっても広く、子供1人あたりの職員も多く、ゆとりがある。逆にたとえば東京都が運営する施設などは土地がそもそも狭いからという理由もあってか、認可に比べてちょっと狭くても、職員の人数が少なくても許されている部分がある。

 なので親としては認可保育園をゴールに設定することになる。

 認可保育園は12月申し込みの翌年4月入園が基本で、中途入園はほぼありえない。3月生まれのベイビーが生後6ヵ月の9月時点で入園するのはまず不可能だ。そうなると生まれた年の12月に認可保育園に申し込み、待機レースを勝ち抜いて1歳入園を狙いたくなるが、難度は高い。「点数制度」があるためだ。

 点数制度とは、

「点数が高い=子供を保育園に預けないと大変なことになる」

 という基準にもとづいたもの。認可保育園はただでさえ定員が少ないために“大変指数”が高い家庭から順番に入園させていく。病院で重症度・緊急度によって診察の順番を決める院内トリアージのような仕組みになっている。なお同点になった場合はより条件の厳しいほうから順番という形である。

 保健センターで点数と合格率の分布を見せてもらったところ、杉並区で入園レースに参加できる基準はおおむね41~42点以上であった。40点未満だと認可保育園はもちろん「それ以外」にあたる「認証保育所」(後述)さえ入りづらい。

 具体的な点数の内訳は「夫婦ともにフルタイムで働いている」で20点×2=40点、加えて「認可保育園以外の施設に半年以上通わせながら仕事がんばってます!」が2点となって合計42点となる。女性が活躍する時代に、1年間たっぷり育休をとれるようにしましょうねという話はどこにいってしまうのか。

 ともかく6ヵ月間「それ以外」に通わせれば認可保育園バトルの参加資格が得られるという話なのだが、この“6ヵ月間”というのもくせものである。

認可保育園“以外”もラクではない

 認可保育園はどの子供を入園させるか決める「利用調整会」という選考会議を開いており、杉並区の場合、4月入園なら1月に会議がある。会議までに6ヵ月は認可保育園以外に通わせなければ点数がつかないことになり、7月から通わせる必要がある。うちのベイビーなら生後4ヵ月で「それ以外」に入らないといけない。

 「それ以外」なら入るのがラクかというとそんなことはない。「それ以外」にも種類があるが分かりやすく「認証保育所」「ベビーホテル」の2つに限る。

 まず「認証保育所」は、東京都(自治体)認証による保育施設だ。前述のように環境は認可保育園に劣っているが、やはり人気があって倍率が高いのですさまじく入りづらい。100~200人が待機状態ということもザラである。

 また認可保育園と同じように4月入園が基本で、年度途中に入るのは難しい。なのでたとえば4月時点で子供を通わせずとも入園手続き“だけ”済ませてしまって「在籍料」として安くないお月謝を払い続けるという意味のわからないやり方も通用している。結局カネを積んだやつの勝ちなのかよと思わされてしまう。

 一方の「ベビーホテル」は民間企業が運営する保育施設。認証保育所に比べればまだ入りやすいが、年齢(月齢)ごとに部屋が分かれておらず、1つの部屋に0歳児からすべての子供が集められているという特徴がある。0歳児は寝てばかりなのでそれほど気にならないが、月齢が上がると気になってくるかもしれない。

 またベビーホテルを含めたいわゆる「都の指導監督基準を満たす保育施設」は、民間・個人経営のため本当に環境がピンキリ。お月謝、保育士の人数、施設の衛生状態などがまちまちで、施設をよく見なければ選ぶのが難しい。

 まとめると、共働き世帯が3月生まれのベイビーを認可保育園に入園させたいと考えたら、生後4ヵ月で「ベビーホテル」(運が良ければ「認証保育所」)などに入れる。半年間しっかり点数を稼いだら12月に認可保育園に申し込み、運良く合格できたら翌年4月入園、というのが理想的なスケジュールとなる。

 流れはとてもせわしない。これを夫婦フルタイム共働きでやってのけようというのは相当な難技といえる。タスク管理のシルク・ド・ソレイユである。

 これだけやったところで認可保育園に入れるかどうかは最終的に審査次第というのも不安要素になるのだが、もっとも厄介なのは情報が絶望的に不足していることだ。カイリューを作ろうにもまずミニリュウがどこにいるかわからないのである。

情報は足で集めなければならない

 子供を保育園に入れたいならまず自治体の公式サイトを見ろ、といわれるのだが、ページを見ても入園までの流れを解説したガイダンスがない。認可保育園の空き情報をまとめたPDFは上がっているが、ファイルを開いても「定員0」という数字が並んでいるだけで、どうすればいいのか途方に暮れてしまうことになる。

 もちろん家庭それぞれなので凡例が出しづらいという事情もあるとは思うが、いつどうやって何を進めればよいという情報がなければ普通は固まる。

 施設選びも大変だ。ひとくちに「認可」「認証」「ベビーホテル」と言っても施設の性格は千差万別。まずは通えそうな施設のアタリをつけたあとでどんな施設なのか調べないといけないのだが、この情報がうまくまとまっていない。

 たとえば杉並区が提供している保育施設検索マップは便利なのだがベビーホテルのような認可外保育施設情報が入ってこない。フォロワーさんから教えてもらった「東京23区保育園マップ」(東京都福祉保健局の情報を元に有志が作成)などを併用し、通えそうな施設の情報をリストアップすることになる。

 リストアップした施設情報から見学を頼もうにも、施設によって見学時期や申し込み時期はばらばら。公式サイトに載せている情報が古かったりすることもある。公式サイトを持っていない施設もあり、電話で問い合わせなければわからない場面は多い。施設側も忙しいので電話をかけるとき申し訳ない気分になる。

 当然ながら保育施設は日曜休みが基本なので見学はだいたい平日になり、仕事は半休をとって見学に行くのがデフォルト(基本仕様)となる。

 また認証保育所やベビーホテルは「相談は産後に限る」「見学はお断り」というところも多い。認可保育園の“すべりどめ”として扱われ、相談が増えてしまうと日常業務に支障が出てしまって大変という事情かと思うが、困る。

 補助金まわりも厄介だ。「補助金は保育料を払って3ヵ月後に振り込みになるので3ヵ月分の保育料は前もって準備しておく必要がある」「ベビーホテルは認可保育園の申し込みをしていなければ自治体からの補助金が出ない」といった細かいルールがあるのだが、これも実際に自分で聞きにいく必要がある。

「認可保育園だけがすべてじゃない」と考える

 さんざん書いてきたが保活は地獄だ。

 これでよく女性が活躍する社会がどうこう言えるよとあきれるが、地獄を生き抜くヒントとしては「なるようになると考えること」ではないかと思う。

 認可保育園で入園がとくに厳しいのは0~1歳児だ。なら2歳の春に入れればよいと考え、そこまで預けられるベビーホテルを含む認可外保育施設の厳選に力を入れ、1歳時点では認証保育所に入れることを目標とする方法があるはずだ。

 認可外保育施設は途中で移っても問題ないのでいやだと思ったら別の施設に移ればいい。また認可外保育施設とひとくちに言ってもひどいところばかりでは当然なく、いい施設に出会えればここに入れてよかったという話になるかもしれない。

 お金の面では、杉並区は認可外保育施設に子供を入れるとき納税額に応じて補助金を出している。施設によるが負担はわりあい少なくて済むかもしれない。

 いきなりカイリューが難しいのなら、比較的ゲットしやすいイーブイを高CPのシャワーズに進化させてひとまずの主力にすればよいではないかというわけである。レベルが上がってきたらあらためてミニリュウを狩りにいけばいいのだ。

 出産予定日までまだ6ヵ月もあるというのにこんな状況である。迷ったときは子供にとっての幸せが何なのかを考えて進んでいきたい。


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書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味のカジメン。来年パパに進化する予定です。Facebookでおたより募集中

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