資生堂は、日本マイクロソフトの協力の下、オンライン会議に表示される顔に自動でメークや顔色補正を行う「TeleBeauty」を開発した。
昨今、働き方の多様化とともに、場所や時間にとらわれないテレワークが広がっている。女性の利用者も増えているが、その際の課題となるのが、オンライン会議に映るとき、メークや背景はどうするかという悩みだそうだ。
資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室長の片岡まり氏によると、「当社の調査でも、いつも緊張するという声が多かった。例えば、在宅勤務時にスマホからオンライン会議に参加していたら、向こうでは大きなモニターを使っていたらしく、そうとは知らずに結構なサイズでノーメークの顔を映していたり、海外の会議だと時差があるので、早朝・深夜に身なりを整えるが大変だったり。PCのカメラも下からのアングルなので首やあごが太く見えたり、肌色もきれいに映らなかったりして、たとえ化粧をしていても、きれいに映らないことも。そのため、“こんにちは”の冒頭5秒が終わると、カメラをそっと切ってしまう人もいる」という。
Face to Faceになればコミュニケーションの量も質も増えるはずなのに、こんな自分の顔をPCで見たくない、こんな顔は人に見せたくないと、逆に自己否定につながってしまうことがあるそうだ。
オンライン会議時に自動でメークを施す
そこでマイクロソフトとタッグを組んで開発したのが「TeleBeauty」。専用アプリのカメラ機能で顔を写し、「ナチュラル」「フェミニン」「クール」「トレンド」のメーキャップパターンを選択。すると、「Skype for Business」を使用する際にカメラに顔を映すだけで、画面上の顔に自動でメークを施してくれる。カメラの前で動いても化粧がずれないように追従させる技術は特に苦心したという。
自信を持ってオンライン会議に臨むためには、“自分らしい印象”で画面に映ること。そのためには「血色感の再現」「美しい肌の再現「肌色のコントロール」が重要。例えば、背景色や照明に肌色が左右されないよう、ヘア・メーキャップアーティストともに「きれいな肌色」を定義し、その範囲内に収まるよう制御するなど工夫を凝らした。
それ以外にも顔色の補正や、顔以外の部分をぼかす機能を搭載。背景をぼかせるので、在宅勤務時に生活感を隠すことが可能という。また、アプリのGUIも化粧の楽しさを感じる色使いにするなど、デザインにもこだわった。
同じようにメークシミュレーションが可能なアプリはほかにもあるそうだが、その機能をオンライン会議というかたちで通信に乗せたのは「当社で把握している限り、世界初」(片岡氏)とのこと。
化粧品は売れなくなってしまわないか?
ただ1つ疑問となるのが、この技術を提供することで、実際の化粧品自体が売れなくなってしまわないのか。資生堂は、むしろ逆に好影響を予測している。
「TeleBeautyによって、デジタル上で自分の美しさを再確認すれば、実際にこの顔になりたいと、メーキャップへの興味関心そのものが高まる。また、似合うメーキャップパターンを発見することで、新しい色や美容法へのチャレンジにもつながり、実際の化粧品購買へプラスの影響になると考えている」(同氏)。
男性にとってもありがたい機能かもしれない。「顔色の補正で健康的な肌色になるので、男性にとってもメリットはある」(同氏)。さらに、薄毛の人が簡単に“増毛”できるかもしれない。TeleBeautyにその機能を搭載する予定は現状ないそうだが、ほかのメークシミュレータには存在する機能らしく、技術的には不可能ではない。
とはいえ、あまりに現実と乖離しても今度は実際に会いにくくなってしまうので、あくまでも「過剰にキレイにするのではなく、自分らしい顔に映る」ところに重点を置いているとのことだ。
現状はβ版。9月~11月の期間、マイクロソフトの女性社員100名の試験運用を実施する。そのフィードバックを反映させるほか、サポートするテレビ会議の拡充を図る予定。ただし、試験運用後の具体的な展開は現時点では未定とのこと。