自国キャリアと契約するより
物価が安い国のSIMの方をローミングで使う方が安い!?
ここまでの内容から、賢い消費者ならお気づきかもしれない。そう、国によっては、自国のキャリアと契約するよりも、物価の安い国のキャリアのSIMを購入して、自国で(国際ローミングで)使い続けた方が安くなる可能性が出てきたのだ。
この際に、よく比較されるのがアイルランドとラトビアで、ラトビアの通信料金はアイルランドの15%程度なのだという。このように旧東欧などの国の安いSIMに多数のユーザーが移行するとなると、地元のキャリアはたまったものではない。
ローミング料金がここまで下がり、撤廃が見えてきた中で、物価が高い国のキャリアはこの動きに危機感を感じている。ただでさえ以前は“おいしい”ビジネスだった国際ローミングの売り上げが、9年前の10%まで圧縮されているのだ。
大詰めを迎えている2017年6月の撤廃に向けた動きでも、このようなキャリアの懸念に対応を図るべきという意見が見られた。9月に提出された案では、連続して30日以上、1年で90日以上国外で利用してはならないなどの”フェアユース(公正な利用)”条件があった。だが、このような制限を設けるのはおかしいとして、再度書き直しとなった。30日間や90日間などの制限は撤廃されるが、キャリアは利用がおかしい場合ユーザーに問い合わせることができるという。そしてその国に住んでいるのではないなどのことがわかれば、サーチャージを課すことができる。
フェアユースに該当する消費者としてはうれしい限りだが、いずれにせよこのような国際ローミング料金の低価格化はキャリアに打撃を与えてきた。キャリアの売上に国際ローミングが占める比率は現在5〜6%まで下がったが、これがさらに下がることになるのだ。これが、間接的であってもEricsson、Nokiaなど欧州の通信機器事業に影響を及ぼしているのも否定できない。つまり、巡り巡ってはEU経済全体に影響を与えかねず、撤廃を手放しで賛成するのはどうかという声は根強い。
ちなみに安価な国際ローミング料金というEUがもたらした「恩恵」は、EU離脱を問うイギリスの国民投票の際、残留派がEUに残ることのメリットとしてあげていたものでもあった。EUから離れることで、イギリスのユーザーはスイス並みに高い料金を払うことになるかもしれない。
筆者紹介──末岡洋子

フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

この連載の記事
-
第342回
スマホ
AR/VRの長すぎる黎明期 「Apple Vision Pro」登場から6ヵ月、2024年Q1は市場はマイナス成長 -
第341回
スマホ
世界で広がる学校でスマホを禁止する動き スマホを使わない時間を子供が持つことに意味がある? -
第340回
スマホ
対米関係悪化後も米国のトップ大学や研究機関に支援を続けるファーウェイの巧みな戦略 -
第339回
スマホ
ビールのハイネケンが“退屈”な折りたたみケータイを提供 Z世代のレトロブームでケータイが人気になる!? -
第338回
スマホ
ファーウェイはクラウドとスマホが好調で大幅利益増と中国国内で復活の状況 -
第337回
スマホ
米司法省、アップルを独禁法違反の疑いで提訴 その中身を整理する -
第336回
スマホ
Nokiaブランドのスマホは今後も出される! バービーとのコラボケータイ、モジュール型などに拡大するHMD -
第335回
スマホ
ファーウェイスマホが中国で好調、次期HarmonyOSではAndroid互換がなくなる!? -
第334回
スマホ
Nokiaのスマホはどうなる!? HMD Globalが自社ブランドのスマホを展開か -
第333回
スマホ
アップルがApp Storeで外部決済サービスを利用可能に ただし手数料は27% -
第332回
スマホ
米国で特許侵害クロ判定で一時は米国で販売停止のApple Watch、修正は認められるか? - この連載の一覧へ