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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第160回

EU圏内で国際ローミングの撤廃を狙うEU、加盟国間の大きな料金差も問題に

2016年09月30日 16時00分更新

文● 末岡洋子 編集● ASCII.jp

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 体操の内村航平選手が五輪出場のために赴いたリオデジャネイロで、「Pokemon Go」をプレイしたところ高額な料金になったと日本のメディアで報じられた。これは国際ローミングが原因だが、単一経済圏を目指す欧州連合(EU)では、この国際ローミングを巡って何年も議論が続いている。”2017年6月に撤廃”という欧州議会が定めるゴールまであと1年を切った

EUのサイト内に掲げられたロードマップから。EU内の国際ローミングについて、2016年4月30日以降は国内での料金に1分あたり0.05ユーロまでの上乗せが可能で、2017年6月15日以降は追加料金無しにすることを目指している

EUでは人の移動や経済では国境を意識しなくなったのに
携帯の契約や料金にはまだ国境がある

 欧州は陸続きで、国境を越えて通学したり、通勤する人は少なくない。筆者の知人の娘さんは大学生。デンマーク・コペンハーゲンにある自宅からスウェーデン・マルメにある大学に1時間かけて通っている。

 彼女はデンマークの通信キャリアを利用しており、スウェーデンでは事実上国際ローミングをすることになる。スウェーデンにいる間はキャンパスやカフェ、いたるところにあるWi-Fiを利用してSnapchatとWhatsAppを使ってデンマークの家族や友達とやりとりする。通話をすることはほとんどないし、キャリアのデータ通信を使うことも少ない。

 EUではかれこれ10年近く、国際ローミング撤廃に向けた議論が進んでいる。彼女のように、キャリアの3G/4Gネットワークの代わりにWi-Fi、SMSの代わりにメッセージアプリを使う人なら、国際ローミングをしてまでやりとりをするのは緊急時のみだろう。

 だが、忙しいビジネスマンや政治家となると通話も多いし、WhatsAppで業務上の連絡をするわけにはいかない。となると、やはり国際ローミングの料金は気になるところだろう。

 EUに加盟することのメリットの一つが関税だ。加盟国間のモノのやりとりにかかる関税を撤廃し、共通の通貨(ユーロ)により経済効果を最大にすることを図っている。もちろん戦いの歴史だった大陸に、平和や安定をもたらすという点でも重要なのだが。

 そんななかEUの政治家たちが目をつけたのが国際ローミングだ。たとえば、ブリュッセルとパリは高速電車で2時間もかからない。感覚的には東京ー名古屋といったところだろうか。ところが電車や車で移動しているうちに国境を越え、国際ローミングでの接続になってしまう。単一経済圏を目指すのであれば、通信の関税のような国際ローミングも撤廃すべきではないか……という考えだ。

国際ローミングは高価
といっても料金は9年前の10%に

 2007年に議論が持ち上がってから、国際ローミングの撤廃に向けてEUとキャリアのせめぎ合いが始まる。EUでは国際ローミングにいくら課金しているのかを示すために、国際ローミングを使った通話後にコストを表示しなければならない。そして、EUが定める上限まで料金を下げなければならない。

 2007年夏の時点では、1分間の通話のローミング料金(EU諸国内)は0.49ユーロだったのが、2008年には0.46ユーロと、2014年まで毎年0.03〜0.06ユーロ下げられた。そして、2016年にはローカルでの料金に0.05ユーロを足した金額となっている。ざっと90%値下げされたことになる。

 着信についても2007年には0.24ユーロだったのが0.0114ユーロに、SMSは2009年から対象となり0.11ユーロだったが現在は0.02ユーロに。キャリア間の料金も上限が導入されており、通話は2007年は0.30ユーロだったのが、現在は0.05ユーロに下がっている。

 実際、ベルギーのキャリアのプリペイドを利用して、パリのフランスで30秒ほど通話すると料金は0.15ユーロだった。固定電話に7分強通話しても2.35ユーロで、SMSは0.12ユーロだ。ローミングが発生しないベルギー国内での通話は1分強で0.36ユーロ。時間帯、相手が固定か携帯か、あとキャリアにもよるが、差をほとんど感じないレベルになってきている。

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