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日本HP、PCを売るのでなく“定額で利用させる”新サービス

2016年08月22日 08時00分更新

文● 小林 編集●ASCII

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パソコンを企業が購入するのではなく、日本HPから提供されたサービスとして使用権を買い、運用管理含めてアウトソースできるのがHP Device as a Serviceの考え方

パソコンは買わず、管理と運用ふくめて日本HPに任せる

 日本HPは8月19日、PCなどのハードを購入せずに、月額固定の料金で利用できる新サービス“HP Device as a Service”を発表した。同社製のハードであれば、パソコンに限らず、スマートフォンやタブレット、シンクライアント、ワークステーションなどすべてのデバイスが対象となる。

 企業向けのサービス。料金などの条件は、日本HPと顧客との個別商談で決める。導入する機種や台数、利用年数などによって料金に差が出るため、モデルケースも提示されていない。日本HPの説明では、現時点では500台を超えるハードの導入を検討する大企業を対象としており、1000台以上の導入であれば確実にコスト面でのメリットが得られるだろうとのこと。

 契約期間については3~5年の継続を想定し、最低でも2年としている。ただし厳密なものではなく、こちらも日本HPと導入する企業の間で決める。

ソフト同様にハードも「所有から利用」の時代へ

 日本HPがこのサービスの導入を決めた背景には、企業で使用するデバイスが多様化し、その管理や運用のため、企業のIT担当者の負担が高まっているという背景がある。また、直接的な理由ではないとしつつも、Windows 10でOSのアップグレード形態が変化したことも追い風になるとしている。

日本HPの九嶋俊一氏

 「今まではPCとOSがベタベタにくっついていて、デバイスだけで独立した導入/運用計画を立てにくかった面がある。これが過去に比べてやりやすくなり、サービス利用に関するハードルを低くできるタイミングである」(日本HP執行役員 パーソナルシステム事業本部長兼サービス・ソリューション事業本部長の九嶋俊一氏)

 ソフトウェアの世界では「所有から利用」へのシフトが進んでいる。クラウドではなく“SaaS”と呼ばれていた10年ほど前からの流れだ。パッケージやライセンスを購入して“所有”するのではなく、サブスクリプション型のサービスとして“利用”する形態だ。MicrosoftのOfficeやAdobeのCreative Cloudなどがその代表例となる。

 この“所有から利用”という流れをハードの世界でも取り入れていくというのが、コンセプトだ。ハードについては、これまでもリース契約を結び、毎月決まった料金を払って利用することができた。単なるハードの貸与という意味では、HP Device as a Serviceとリース契約の差は少ないように見える。異なるのは、導入から廃棄までのライフサイクルをすべて日本HPにアウトソースできる点や、機種選択の柔軟性が高い点だ。

デバイスを管理するからビジネスを管理するへ

 企業でPCを運用していく際には、導入計画の立案、導入と設置、OSイメージの作成やデータ移行、導入後の保守やヘルプデスク業務、さらには廃棄なども必要となる。HP Device as a Serviceは、これらについて人的サービスも含めてアウトソースできる。

 契約を一本化できるというメリットもある。ハードの調達はリース業者だが、それ以外の保険・保守・運用・資産管理などは別の業者と個別に契約を結ぶ必要がなくなるため、企業のIT管理者の負荷を大きく低減できる。

契約の一本化は管理コストの軽減の大きなポイントとなる

 また、リース契約では、決まった機種を数百台単位で調達といった形態になりがちだが、無難なスペックのマシンをすべての従業員に支給するのではなく、適材適所で柔軟な台数選択、機種選択ができる。エグゼクティブ向けにはハイエンドのモバイルノート、常に最新のスペックが求められる設計部署にはワークステーションを比較的短い入れ替え期間で……といったことも可能だ。

 デスクワークでたくさんのパソコンが必要となる大企業はもちろんだが、POSやサテライトオフィスをつないだ運用など、使用場所が分散して個別に管理者を置けない環境などでも有効なサービスだとしている。

なぜ日本HPが取り組むのか、日本HPだから出せるメリットは何か?

 会見では同社執行役員でパーソナルシステム事業本部長兼サービス・ソリューション事業本部長の九嶋俊一氏が登壇。HP Device as a Serviceが必要となる市場背景となぜHPがこれを実施するかについて説明した。

HP Device as a Serviceの価値

 ひとつは予算管理が容易になること。契約期間を通して費用を平準化できるため、ハード買取のための初期導入コストを計上する必要がない。導入後に展開するサービスを含めて契約期間内は一定の料金での運用ができる。また資産として貸借対照表に計上せずにPCを使用できるため、会計上有利になる面もあるという。

「窓口が一本化することに意味がある。リース、保守、保険会社、サービス事業者などを個別にやっていくと、その調整に相当な時間がかかる。さらにスマートフォンになると、回線契約なども含めて契約は非常に複雑になる。これを簡素化して、責任所在も明確にするというのが狙い。これをデバイスという一番得意な世界でやる」(九嶋氏)

 企業のPCは平均4.8年稼働する。日本HPはPCメーカーであり、数年先のロードマップを踏まえて製品投入を進めている。4年、5年先を見据えた要求仕様を策定できる点も強みだという。

「陳腐化のリスクも減らせる。ノートを4.8年も使っていると故障や不具合が出てきて、業務に支障が出ることもある。一方で、スマホやタブレットは(モデルチェンジのサイクルが早く)2年ほどで新しいものが必要になる。ワークステーションは基本性能が高いが、武器なので、高価でも3年程度で最新スペックに切り替えていくことが必要だ。このライフサイクルの多様化に合った計画を、ITサービスの担当者の手を煩わせずに提案し、より重要な事業に集中できるようにしたい」(九嶋氏)

 同時に日本HPが東京の昭島市に持つ製造拠点を有効活用し、カスタムイメージの作成、管理用のタグ付け、設置や配送などを工場のクオリティーで実施できる点も価値とした。

 運用・保守の段階では、ヘルプデスクや利用状況の管理(どのハードが誰に紐づいているか)などを預けられる。サポートについてはもともと提供しているが、周辺機器などのコールマネージメントなども日本HPが担当する。これにより「企業のIT担当者がより一層本業に集中できるだろう」(九嶋氏)とした。

 使用が終わった機材の廃棄についても、日本HPが担当する。この際、HPは世界市場を対象としたセールスを行っているため、中古のマシンを再整備の上、別の市場で活用するといった選択肢もとれる。これを活用し、「残価設定型の有利な料金設定もできるのではないか」と九嶋氏はコメントした。同時に世界中に支社を持つので、日本に本社を置く企業が利用する際でも、グローバルの支社で同様のサービスを受けられるとする。今回は日本HPとしての発表だが、すでにアジア太平洋地域での展開を決定している。

ハードの提供に特化する

 一方で着手しない面(アウトソーシングを受けない)も明確にした。一つは基本的にクライアントデバイスを対象としており、インフラ管理や提供するデバイスの上で動かすアプリケーションに関してはそれぞれを提供するメーカーに任せる。

ハードの提供に特化する

 導入する企業としてはこのサービスを活用することでどれだけコストを低減できるかが一番気になるところだろう。しかしこの点に関しては具体的な数字は示されなかった。「環境によって異なるので、簡単には言えない。メーカーが通常販売している以上にはならない。保険・保証・ヘルプデスクなどを個別に粗利を取らなくていいので、現実的にはTCOは下がると思う」(九嶋氏)というコメントにとどまった。

 会見では、「こうしたサービスによって、PCが売れない状況を助長するのでは」という記者の質問も出た。これについては「メーカー自身が自分たちの機材を使って提供するものなので、日本HPそのものの売上は減らないと思う。ただし、現在のひとり平均3.6台というのは少し多すぎるので、その最適化が進む可能性はある」(九嶋氏)とした。

 今後企業では、画一化した製品をみんなが使うのではなく、個々人の持つ、様々なデバイスを使い分け、管理するというのが当たり前になると想像される。その導入の負担を下げようというのが今回のHPの施策だ。現状ではある程度の規模のある企業が対象であり、管理費用を含めたトータルコストの平準化と低減がうたわれている。逆に言えば、ハードウェア単体の購入であれば、単純な分割払いとあまり差がないようにも見える。その意味でも、すでに日本HPと取引のある企業との対話を通じて、従来のような所有なのか、新しい活用なのか、よりメリットのある選択を提案していくということにになるのだろう。

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