角川アスキー総合研究所は長野県の“信州アントレプレナー育成事業”の委託を受け、佐久平総合技術高校と飯田OIDE長姫高校の2校の生徒に向けて、将来のキャリア選択を広める創業体験プログラムを実施。起業家を講師に招き、出張授業とワークショップで、地域資源や魅力を発見し、さらに地域の課題を見つけて、新たなビジネスを考案。高校生に向けて、新世代のリーダー育成のためのイベントを開催した。
2016年7月22日にはDay1“起業家講演・ワークショップ”を、9月2日の予定でDay2として生徒による事業プランの発表が行なわれる。講師は京都のヘルスケアIoTベンチャー企業ハカルスの藤原健真代表取締役CEO。今回は7月22日のDay1の模様をお伝えしよう。
勘違いでアメリカに行ってみて人生が変わった話
京都を拠点とするヘルスケア・テクノロジーベンチャー株式会社ハカルスの藤原健真代表取締役CEOは、滋賀県の農業高校で育ったが、当時流行っていた海外ドラマの舞台の地である憧れカリフォルニア州立大学へ進学。実際のカリフォルニアはドラマの中の架空の世界とは違ったが、そこで衝撃的な大学の授業の数々や一流の学生たちに出会うことが人生に変化をもたらした。
当時アメリカは1995年から2000年にかけてyahoo!やGoogleが生まれるなど、ITブームの真っ盛りで、一流の学生たちは大学4年生になっても就職活動はせず、自らの事業プランを持って、投資家へプレゼンへ行くというのが一番クールであった。そんな中、自分自身はソニーへの就職を控えており、周りの学生から見ると大手企業に勤めることは「ダサい」と言われる状況であった。
ただ当時の学生仲間とは3年後に合流しようと決めており、ソニーに入社した後も時間を見つけては、会社という組織がどのように機能しているのか、他部署を見て回りなるべく多くの情報収集に努めたという。そして何の確信もなかったが約束どおり、3年後にソニーを退職し、その後ベンチャーを2社立ち上げEXITを成し遂げた。
地域の課題解決をしたければ起業する方が早い
「長野県は進学や就職した20代30代がUターンで戻る例が多いと先生や行政の方からも聞いたが、その時に地域の課題を解決したいと思う方は起業する方が早い」と藤原氏は語る。どういう人が起業家になれるかというと、「問題意識を持っている」こと。そして、「問題を解決する技術やサービスを持っている」ことの2点を兼ね備えている人材だ。
○○が問題と口先だけでいうのは評論家だが、その問題に対して並々ならぬ情熱を持っており、解決のために行動している人が起業家になれるのだそうだ。
さらに起業家とサラリーマンを分ける明確な行動指針が示された。それが「一生遊んで暮らせるお金があってもその仕事をやりますか?」という質問である。
もちろんこの質問にYESと答えられる人が起業家である。
藤原氏の場合は、40歳を過ぎたころから健康診断の結果が気になるようになり、健康管理に問題意識を持っていた。他にも同じ課題を抱えた人がいて、藤原氏自身は問題を解決できる技術を持っている、だから起業ができたという流れである。
一般的に、「問題意識は持っているが、ビジネスにしていくにはどうしたらいいかがわからない」という質問がある。そういうときは問題意識に対して「その会社のお客様が誰なのか、差別化できる技術は何か、どんな課題を解決しているのか」を一行の文章にしてみるとわかりやすい。この一連の流れを一行で説明することを“シリコンバレー流一行プレゼン”と藤原氏は説明。
そう講演を閉め、後半のワークショップへと続いた。
ワークショップ:商品企画
後半ワークショップは商品企画会議をチームで行なった。前半のシリコンバレー流一行プレゼンに当てはめて、ひとりの生徒の事例を出し“シールをはがした時にべたつくことを解消したい”という課題を解決するための“シールはがし”という事業を即興でのプレゼンに組み立てて答えるなど、生徒の柔軟性やユーモアに他の生徒たちも盛り上がりを見せた。
生徒は4~5人のチームに分かれワークショップがスタート。自分たちが今困っていることや身近な事柄に焦点を当て、こんなものがあったらいいなというアイディアを付箋で書き出していく。チームで1つを選んだアイディアは、それぞれ「街中に屋根を付けて日差しを避けられるもの」、「ドライアイの人向けの目薬」、「どこでもドア」、「身体を一瞬でパッと乾かせるもの」、「水に溶けやすいプロテイン」、「携帯電話を太陽光で充電させる充電器」などが挙げられた。
一行プレゼンを完成させよう
後半は、アイディアを事業化させる取り組みだ。シリコンバレー流一行プレゼンに当てはめつつ、各チームがアイデアを事業化するための一行プレゼンを作成した。会社名や、顧客、差別化要素、どんな課題を解決するのか、それぞれのチームで考えをまとめるのに悩むシーンもあったが、全チームが時間ギリギリですべての要素を整えてきた。最終発表は以下のような形にまとまっていった。
チーム1
私たちはNaturalという会社で、子供女性向けの快適な空間を開発しており、独自の柱のない屋根を開発して、自然からの害を解決します。
チーム2
私たちは潤(うるおい)という会社で、デスクワークの人向けの目薬をかいはつしており、独自の速効性&持続性を活用して、目の疲れを解決します。
チーム3
私たちはWindという会社で、全世代向けの風を利用して水を乾かす独自の送風機を活用して、風呂上がりの時間を短縮します。
チーム4
私たちは、プロティ~ン~健康第一~株式会社で、体を鍛えた人向けの水に早く溶けるプロテインを開発しており、独自の加水分解作用を活用して、プロテインが水に溶けにくい問題を解決します。
チーム5
私たちの会社は株式会社どこでもGOという会社で、小さい子ども~お年寄り向けにどこでもドアを開発しており、独自の工場で大量生産を活用することで、短時間での移動を可能にします。
チーム6
私たちはSunsという会社で10代~60代向けスマホ画面の内部にソーラーパネルを内蔵しスマホの中で電気を発電します。夜は充電器、昼はソーラーパネルとして活用することで、充電切れをなくします。
藤原氏は「起業家というのは、こういうことを毎日やっている人のことを指します」とまとめたうえで、生徒自身に向けて拍手で会を締めくくった。最後に次回へ向けた宿題が発表されたが、こちらは今回発表した事業プランを元に、生徒たちは夏休み期間を使いフィールド検証やフィードバックを得てその結果を次回発表するというものだ。いったい生徒たちはどのような成果を得てくるのだろうか。
ハカルス 藤原健真代表取締役CEO
京都を拠点とするヘルスケア・テクノロジーベンチャー「株式会社ハカルス」の代表取締役CEO。株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントにてエンジニアとしてゲーム機PlayStationの開発に従事した後、数社のテクノロジーベンチャー企業を共同創業。2回のエグジット経験を持つ。1社目はCTOとして日本国内の上場企業への売却、2社目はCEOとして米国企業への売却。2010年から拠点を京都に移し、現地での活動を通じて京都が持つモノ作りと大学知財の強みを再発見する。1976年生まれ、滋賀県出身、京都在住。カリフォルニア州立大学コンピューター科学学部卒業。
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