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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第54回

本編も特典もスマホやタブレットで――Viewcast開始の背景をアニプレックス高橋ゆま氏に聞く

「もう金塊を付けるしかない」ほどのアニメBD特典合戦に革命

2016年07月25日 18時10分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII.jp

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スマホで「イベントのパブリックビューイング」も可能に

―― ユーザーから見ると、従来のようにBDによるクオリティーの高い映像、様々な物理的特典、イベント参加などの楽しみに、デジタルならではの企画が加わって、パッケージ購入の動機が増えたと言えますね。作品に紐付く様々な体験の起点となるイメージを持ちました。これまでパッケージは数量限定版、BOX、廉価版といったバリエーションを備えてきたわけですが、その構成が変わるということはありますか?

楽曲のストリーミング&ダウンロードも。膨大な楽曲から数曲を選択ダウンロードできる権利、といった特典も配布できる。こうなるとアイドル作品のViewcast化が俄然楽しみに

高橋 パッケージのバリエーションについては今のところ、Viewcastによって大きく変化するということは想定していませんが、仕様や形態によってデジタル特典を変えられる、という様なことも可能性はあるかもしれません。

 たとえばイベントも、リアルイベントの参加抽選以外にも、アプリ上で購入者全員が視聴できるデジタル上でのイベントを、仕様や形態毎に開催(配信)するといったことも可能になるかもしれません。

 いずれにせよこれまで話してきたようなことは、Viewcast誕生以前はできなかったことです。あるいはやろうとするとコストが掛かりすぎて、ビジネスの俎上に乗せられませんでした。

―― その環境が整った、ということですね。

Viewcastもう1つのメリットは「やっとお客さんの顔が見えたこと」

高橋 あと、視聴サービスViewcastは言うなれば“架け橋”なんです。今までは、作品を買ってくれている個人まではわからなかった。

―― ネット通販の場合も、そこはアマゾンのようなプラットフォーマーが握っています。

高橋 他の小売り店さんに商品を卸した場合も同じですね。それ自体には何の問題もないのですが、商品ベースでみたときに、Viewcastによって僕らは初めてお客さんと直につながることができました。そして様々なコンテンツを提供できるようになったわけです。誰も損をしない形で。

―― これまでもグッズ直販サイト「アニプレックス+」では、会員制度はあったものの、Viewcastによって映像と顧客とを紐付かせることができるようになったということですね。ちなみにアクティブ率(=Viewcastを有効にした率)はどのくらいでしょうか?

高橋 ありがたいことにすごく高いです。『ここさけ。』では、オリコンの実売数ベースで使用率20%を超えています。応募者全員プレゼント、イベント無料招待のような取り組みでも20%いかないことも多いので、非常に高いといえます。

―― 全員プレゼントでも20%以下なこともあるんですね。たしかに封を切らなければ応募もできませんか……。

高橋 進んで利用いただけているということで、非常に手応えを感じています。この数字は毎日少しずつ積み上がっていますので。

―― パッケージは通常、発売日にドーンと売れてその後はなだらかに減少していきますが、その動きとも異なっているということですね。

高橋 映像が面白いのは“ファンになるタイミング”が人それぞれということですね。放送時、放送後、パッケージ発売時、あるいは放送から1年の区切りをきっかけに、という具合に。実際、発売から少し経ってからのバックオーダーも毎日5本、10本という単位でちょこちょこ掛かります。

 そう考えていくと、“架け橋であること”“商品企画にイノベーションを起こすものであること”もそうなんですが、“発売後にお客さんのことを考える・宣伝の仕方を考える”ようになったのがViewcastがもたらしてくれた自分の中での変化ですね。

 ゲームではネットワークを経由してのDLCのような取り組みがありました。でも映像ではそれがなかった。誰が買っているのかもわからなかった。でも、こうやって少しずつ映像を“観て”いることが直接的にわかれば、たとえば「累計●人突破したから(=今後もビジネスになるだけのファンがいることがわかったから)コンテンツを追加しよう」といった施策の打ち方も可能になったということなんです。

―― 累計視聴者数が新しい展開を検討する際の根拠・判断材料になるということですね。

高橋 その通りです。

サービス名に、社名やジャンル名を入れなかった理由
「Viewcastは全方位外交です」

―― 現在のところViewcast対応タイトルは『心が叫びたがってるんだ。』のみですが(取材当時)、今後の展開は? たとえば過去の作品について期待する向きもあると思うのですが。

高橋 やり方が見つけられれば面白いと思いますし、ニーズがあるのも認識しています。ただ、シリアルコードをどう提供するのか? というのは課題としてありますね。パッケージを送ってくれたらシリアルコードを付けて送り返すとか――お客さんにも負担を掛けてしまうかな……。まずはこれから発売する=シリアルコードを封入できるタイトルからというイメージですね。

―― 今後、対応タイトル数に目標があったりはしますか?

高橋 まずは年度中に5~10タイトルにはしていきたいと思います。お陰様で好評いただいていますので、社内でもポジティブな議論ができています。第2弾『暦物語』に続いて、第3弾はミュージッククリップ集の『LiSA MUSiC ViDEO CLiPS 2011-2015』です。MV集はBONUS DISCにライブ映像が収録されていて、Viewcast向きだと思います。

「サービス名に“アニメ”と入れていないのは、音楽など他ジャンルにも違和感なく対応したいという狙いからです」

―― アニプレックス以外の他社タイトルが採用することも可能だったりするのでしょうか?

高橋 ぜんぜん可能です。ですからサービス名に「アニプレックス」って入れなかったんです(笑) もちろん、コストや個人情報をどう管理するかという検討は必要ですが、可能か不可能かと問われれば可能です。アプリとシリアルコードと個人情報に紐付くIDが揃えばOKですから。

 各メーカーさんがそれでビデオパッケージがより売れるようになって、お客さんもよろんでくれたらそれでいいんじゃないかなって。Viewcastは全方位外交ですので、よろしくお願いします(笑)

 パッケージが売れて困る人なんていないはずなので。

 5年前のインタビュー記事を読み返したというゆま氏。「お客さんに楽しんでもらう、よろんでもらう、という価値観が変わっていないことを確認できてうれしかった」と話す。そんな彼が宣伝マンとしての方法論を突き詰めた先に、“視聴サービス”の企画を始めたのは、本人は「何を言っているか良くわからないかもしれませんが」と笑うが、音楽が辿った経緯などを振り返っても、とても意義深いことだと思う。

 これからさらに5年後のアニメ映像、そしてゆま氏が次に何を目指すのか、今から次のインタビューが楽しみだ。

著者紹介:まつもとあつし

 ITベンチャー・出版社・広告代理店、アニメ事業会社などを経て、現在フリージャーナリスト/コンテンツビジネスアナリスト。コンテンツビジネスでの経験を活かしながら、デジタルテクノロジーやアニメをはじめとするポップカルチャーコンテンツのトレンドや社会との関係をビジネスの視点からわかりやすく解き明かす。ASCII.jp・ITmedia・毎日新聞経済プレミアなどに寄稿、連載。
 著書に『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)、『スマートデバイスが生む商機』(インプレス)、「アニメビジエンス」(ジェンコ/メインライター)、『知的生産の技術とセンス』(マイナビ/@mehoriとの共著)など多数。また取材・執筆と並行して東京大学大学院情報学環社会情報学コース(後期博士課程)でデジタルコンテンツ・プラットフォームやメディアに関する研究を進めている。法政大学社会学部兼任講師・デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士(プロデューサーコース)。公式サイト http://atsushi-matsumoto.jp/

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