iPhoneの減速、市場の低成長と暗いニュースが多いスマートフォン市場だが、今後どうなるのか。Appleは回復できるのか? iOSとAndroidの二極状態は続くのか? 技術トレンドはなにか? ベンダーのシェア争いはどうなるのか? 調査会社Strategy Analyticsでアジアのスマホ市場に詳しいWoody Oh氏、Rajeev Nair氏の両アナリストに話を聞いた。
スマートフォン市場が生まれて初めて
2016年はマイナス成長となる
――2016年はスマートフォン市場にとってどのような年になるのでしょうか?
Oh氏 2016年Q1は、2015年同期と比較して3%減少しました。2009年から世界のスマートフォン市場を追跡していますが、前年同期比でマイナス成長になったのは2016年Q1が初めてです。
Appleのスランプ、中国市場の低調など不確定要素が影響しており、4月の予測では、2016年の世界のスマートフォン出荷台数は15億台としています。Strategy Analyticsでは年に数回の予測を出しますが、次は14億8000万台程度に下方修正することになると予想しています。出荷台数の成長率も、現在の予測は5〜7%ですが、4%ぐらいまで下がるかもしれません。
Q2も同様にマイナス1%からプラス1%程度だと予想しています。その後、2017年は2016年よりも高くなると予想しています。
ベンダー別では、中国ベンダーが優勢です。現在、トップ1と2のSamsungとApple。6位のLG、それ以外は(上位を占めるのは)中国ベンダーで、世界のスマートフォン市場を台数と売り上げの両方で独占しています。
――マイナス成長を招いた要因は?
Oh氏 Appleの勢いが減速していることです。中国、米国、日本など大きな市場がどこも苦戦していること、端末に大きな特徴がなくなったこと、ソフトウェアのアップデートが安定しており、買い替えサイクルが長くなっていることなどがあります。買い替えサイクルは、これまで25~29ヵ月だったのが、32~35ヵ月程度ぐらいまで伸びると見ています。現在この状況についてユーザー調査を行なっているところです。
――Appleが苦戦しているのはなぜでしょうか?
Oh氏 iPhone 6s/iPhone 6s plusの売り上げが芳しくありません。原因の一つが価格で、魅力的なユースケースがないことも足を引っ張りました。
最も重要な理由はフォームファクタです。iPhone 6、iPhone 6sと同じデザインとフォームファクタですが、人々は新しいものを求めています。消費者がデバイスを選ぶときに見るのは、ブランド、価格、デザインの3つです。Appleはブランドでとても強いが、デザインが似ているので“飽き”が出てきています。Appleにとって、フォームファクタの変更は絶対に必要です。
そのような背景もあり、われわれはAppleは液晶に変わってAMOLED(有機EL)を採用すると見ています。AMOLEDは消費電力、フォームファクタデザインにおける柔軟性、高い輝度などの点で液晶よりも優れており、課題だった価格についても下がってきています。
液晶とほぼ同じレベルとなっており、採用の障壁が大きく下がっています。おそらく2017年にAppleはAMOLED採用iPhoneを投入するでしょう。デュアルカメラ、3GB級のメモリーなども可能性があります。
Android、iOSが支配したモバイルOS市場
液晶から有機ELへの移行が今後のトレンド
――OS市場はどうでしょうか? Android、iOSに次ぐ、あるいはそれに代わるOSが市場で確立する可能性はあるのでしょうか?
Oh氏 iOSとAndroidの独占状態であり、シェアは2つをあわせて99%に達しています。この“デュオポリー”状態が、今後3年で大きく変わることはないでしょう。3番目のOSが意味ある市場シェアをとるのはとても難しい状況です。Tizen、Windows、Ubuntuなどがありますが、市場になんらかのインパクトを与えることはないでしょう。なお、Microsoftについて言うなら、苦戦している理由はアプリがないからです。
Nair氏 Windows 10で「Universal Apps」を導入しましたが、私の考えでは、Microsoftはすでに出遅れており、モビリティーに大きなコミットをしていないと思います。Satya Nadella氏がCEOになって以来、Lumia事業を縮小しており、フィーチャーフォン事業をFoxconnの子会社に売却しました。ポートフォリオも5~6台と限定的です。Surfaceブランドでのスマートフォンが出てくるという可能性もありますが、どうなるかわかりません。
Oh氏 Ubuntu、Sailfish、Tizenなど、主要な新規OSはすべて試しました。Ubuntuはすばらしいし、TizenもすばらしいOSです。ですがアプリがない。これが最初の問題です。市場の参入が遅すぎたというのが2つめの問題です。すでに2つのOSが独占している。技術的な機能という点では、Ubuntuは強いし、Tizenも高速です。だが出遅れました。
AndroidとiOSは、バグや問題があるとすぐに修正します。Microsoft、Xiaomiが持つ自社プロプライエタリのUIは問題への対応が遅く、ユーザーはMicrosoftやXiaomiを使うとうんざり感をいだくことがあるようです。SamsungやAppleは市場のニーズにすぐに対応しています。
――今後のスマートフォンのトレンドは?
Oh氏 市場が成熟を迎えており、ベンダーはそれぞれに差別化を図ろうとしています。主として、次のようなトレンドがあると見ています。
まずはディスプレーでAMOLEDの採用が増えるでしょう。Appleのほか、2017年にはOppoなどもAMOLEDを搭載した機種を出すと予想しています。普及率は2019年に液晶を上回るでしょう。
このほか、4Kスマートフォン、デュアルカメラ、指紋認証、モジュールスマートフォンなどもトレンドと見ています。動画や画像が中心になっており、バッテリーとメモリーの重要性も無視できません。これらはVRに向かうトレンドといえます。
モジュール型はコンセプトとしては新しいものではありません。ですが、今年のMWCでLGが発表し、GoogleのProject Araなどもあり、Appleもこのモデルを模索している可能性があります。モジュールスマートフォンの問題として、収益性が難しいという点があります。
――ベンダーの競合はどうでしょうか?
Oh氏 今年はApple、Xiaomi、LG、ソニー、HTCなどにとっては厳しい年になりそうです。Huawei、OPPO、LeEco、Vivoなどの中国ベンダー、インドのMicromaxなどにとっては順調な一年となるでしょう。
Huaweiは明確なナンバー3となりました。Huaweiの問題は、中国市場への依存が強すぎる点です。トップ2社の自国市場への依存率はSamsungは3%(韓国)、Appleは24%(米国)ですが、Huaweiの場合は60%を超えています。Apple、Samsungに対抗するにあたってこの比率は高すぎるといえます。
Nair氏 Micromaxは低価格帯にフォーカスして成長してきましたが、ハードウェアでは差別化が難しく、サービスにフォーカスをシフトしていますここ1〜2年で企業買収を重ねており、買収した技術を組み合わせてサービスを作り、端末にバンドルするという戦略です。