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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第23回

英国のEU離脱!?国民投票のスペックを考えてみる

2016年07月12日 17時00分更新

文● 前田知洋

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英国のEU離脱は寝耳に水!?

 いやぁ…、英国のEU(欧州連合)離脱がニュースやマーケットを騒がせています。第一報で急激な円高になったり、日経平均株価が15000円を割り、世界の株式時価総額の300兆円が消えたなどとも報じられました。筆者は投資や信託はそれほどしていませんが、フリーランスという業種でもあり、やっぱり景気動向って気にしないわけにはいきません。

 現状(6月29日執筆時)、日銀が14億7500万ドル(1500億円)を供給するなど、米欧日の中央銀行がスムーズな対応をすれば大きな混乱は起きないと予想されていますが、予断は禁物かもしれません。

もし「税金を無しにするか?」と国民投票したら…

 投開票の前までは「残留派」が優勢だと予想されていました。しかし、蓋を開けてみれば離脱51.89%(残留48.11%)で離脱派が勝利。「欧州連合に残留するか、離脱するか」という複雑な選択を二択で国民に選ばせた英国のキャメロン首相は辞任を表明しました。国民投票はキャメロンの選挙公約でもあり、自身が残留派だったこともあります。

 「国民投票は理性より感情で動く」とも言われています。有権者の意識をあまり低く見積もるつもりはありませんが、例えば日本で「税金を無しにする?」と国民投票が行われたら、税金無し派が勝利する可能性はゼロではないでしょう。

 政治に強い関心がある人なら、「財源はどうするのか?」「安全維持や行政サービスなどが低下する恐れ」などを懸念し、反対票を投じる人も少なくないでしょう。しかし、安保法案を『戦争法』と呼んで国会前で太鼓を叩く人々の映像などを見ると、若干の不安を覚えないわけではありません。

 現実的には「そうなって欲しい」と「そうするべき」との間には大きな谷間があるのは事実だからです。

スイスでの「国民に一律約30万円給付」の国民投票の結末

 つい先日の6月5日、スイスで「全ての住民に無条件で毎月定額を給付する、ベーシックインカム」への国民投票が行われました。働かなくても、お金(見積もりによると月額30万円ほど)がもらえるという、夢のような制度です。資本主義国家として世界初の試みの、そのニュースを聞いたときは「面白そうな社会実験だなぁ」と思ったのを筆者は印象深く覚えています。

 ところが、開票が始まってすぐに、国民の8割近くが反対票を投じていたことが判明。新しい制度が導入されなかったのは心残りですが、ある意味、健全な結果が出たのかもしれません。

 さらに調べてみると、スイスは直接民主制が浸透しており10万人の署名が集まれば国民投票を実施できる制度があることがわかりました。スイスの人口は824万人(2014年、外務省調べ)ですから、国民の約1.2%の署名を集めれば国民投票が実施できます。

 しかもベーシックインカムについての国民投票はかなり独特で、「このベーシックインカムの提案や署名の提出は市民団体が行ったこと」「提案に財源の案はなく、政府に丸投げなこと」「スイス政府はこの提案に反対であること」などがその内容。そりゃあ、多くの国民からは反対されるのもうなずけます。

 スイスの国民投票はよく行われるらしく、2014年に「最低時給を22スイスフラン(約2300円)にする」とか、2016年に「通信会社スイスコムなど、政府系企業を非営利にする」も国民投票にかけられ、上のいずれも反対多数で否決されています。どうやら、常識的な結果が出やすいのは、国民投票が頻繁に行われているからでしょう。

 ベーシックインカムの件では、政府も財源が不足することを指摘していました。さらに、年金受給者は収入が減る人も懸念され、給付額以下の労働者の意欲がなくなるという指摘などがあり、今回のベーシックインカムの副作用が国民に多く知らされていたことも反対派が多かった理由かもしれません。

良い手段でも、慣れないと機能しないことも…

 本当の意味で、英国のEU離脱の(英国にとっての)是非は、まだ誰にもわかりません。しかし、今回の離脱派の勝利が世界経済やEUの将来への影響は大きく、英国にとっては首相の辞任までも招きました。EU離脱を表明する国もさらに現れそうで、慣れない国民投票結果の混乱はしばらく続くことが予想されます。

 現状に不満を感じていると、新しいことや変化が良いものに見えてしまうことがあります。しかし、そこは冷静に熟慮し、土壇場に不慣れなことはしないことが肝心です。仕事で使っているメイン機をいきなり新しいOSにアップデートしてしまうようなもの。それは政治でも仕事でも、コンピュータのOSでも同じかもしれません。

 今回の国民投票の騒動が英国国内での政党間の争いの道具に使われただけではないといいのですが…。

 もし日本で国民投票を行うとしたら、当たり障りのない案件で何度か実施してからの方がその結果に不満や後悔が残らないかもしれません。将来の国民投票に備え、デジタル投票システムを構築するなら今がチャンスかもしれない…、そんなことを思う今日この頃です。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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