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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第26回

なぜクルマほしいのか、水口哲也が話す欲求を量子化する世界

2016年06月21日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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Wantsの量子化によってクリエイティブの民主化が起きる

高橋 Wantsの話をもう少し掘り下げたいのですが、1年ほど前でしょうか、水口さんが関わられた量子力学を応用したマーケティングシステムが「WIRED」に紹介されているのを読みました。

水口氏が関わった「Scanamind」を用いた「ポスト・クールジャパン」の分析(2015年4月9日付「WIRED」記事)。日本人が考えるクールジャパンと外国人が考えるクールジャパンには少なからぬ隔たりがあることが判明したという

水口 そうそう、「Scanamind」というマーケティングツールがあってね。さっきも少し話しましたけど、Wantsの解明には「量子化」というプロセスが必要不可欠なんです。とにかく物事や人の心理を徹底的にばらばらにして粒状にして、個々のエレメントの流れやその経路をつぶさに観察していくと、これまでとはまったく違うものが見えて来ます。

2014年12月15日付の「WIRED」の記事「量子力学を応用した、未来のマーケティングシステム『Scanamind』(スキャナマインド)」。開発者である鈴木一彦氏へのインタビュー形式で量子マーケティングのコンセプトや原理が解説されている

高橋 Scanamindで解析したデータは非常にグラフィカルに表示されるんですよね?

水口 量子化された言葉や意識を3次元空間にマッピングするんだけど、そうすると数千人から収集したデータの集合的な傾向を立体視できるようになります。それをある角度から眺めて見ると要素と要素のあいだに、ブラックホールのようにぽっかり空いているエリアがあったりして、そこになんらかのWantsへの手掛かりがあるわけです。

高橋 言語化も意識化もされていないから、それを満たす対象も見つかっていないWantsですね?

水口 それをこれまではクリエイティブ・ディレクターと呼ばれる人たちが長年の経験から導き出した曖昧な直感でやっていたわけじゃないですか? でも、ScanamindによってWantsへの手掛かりが可視化されると、クリエイティブの現場が一挙に民主化されますよね。大勢のスタッフがみんなで同じテーマを共有して分析できるようになる。仮に一人の人間が考えるにしても、従来よりもっと高いところまでいけるようになると思います。

高橋 クリエイティブの量子化と民主化というのはとてもおもしろいテーマですね。

水口 こうしたことができるようになったのも、その背景にはインターネットの存在が大きく関わっていると思いますよね。ソーシャルメディアなどによって、一人一人の個人というものがいかにアクティブな存在であるかということがわかった。

 それによってWantsの分解能が格段に向上したという事実は見逃せないでしょう。マスメディア全盛の時代は視聴者や読者やユーザーの傾向を分析するにしても限界があったわけで、量子化もできなければ民主化もできなかった……というね。

高橋 Scanamindもやはりソーシャルメディアを基軸とした複数のテクノロジーの融合という気がしますね。今回冒頭で話に出た“個別に進化してきた技術の融合”ということでいえば、それこそグーテンベルクの活版印刷なんかも当時の最新技術を編集的に寄せ集めたものでした。プリントの際に紙に圧をかける仕組みのおおもとはワイン製造のためのブドウの圧縮機ですし、そこに活字の鋳造技術、インクや紙の製造技術の向上などが一気に統合された。

 そしてここから近代へといたる情報革命が始まるわけで、同時に、当時の人々の中に眠っていた知識へのWantsが呼び覚まされたわけですよね。VRがほかのテクノロジーと融合した果てにどんな革命が起きるのか、本当に楽しみです。ありがとうございました。


水口 哲也(みずぐち てつや)

 レゾネア代表/米国法人 enhance games, inc. CEO/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design) 特任教授。
 ヴィデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続けている。2001年、「Rez」を発表。その後、音楽の演奏感をもったパズルゲーム「ルミネス」(2004)、 Kinectを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Child of Eden」(2010)、Rez のVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)など、独創性の高いゲーム作品を制作し続けている。 2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、Ars Electronicaインタラクティヴアート部門名誉賞などを受賞。2006年には全米プロデューサー協会(PGA)とHollywood Reporter誌が合同で選ぶ 「Digital 50」(世界のデジタル・イノヴェイター50人)の1人に選出される。2007年文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査主査、2009年日本賞審査員、2010年芸術選奨選考審査員などを歴任。


著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)

 編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。「エディターシップの可能性」を探求するミーティングメディア「Editors’ Lounge」主宰。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。

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