今年のWWDCの内容を、みなさんはどう見ただろうか?
「ハードウェアの発表がなくてつまらない」
「派手な新機能がなくてつまらない」
そんな風に思ったかもしれない。
だが、そう考えるのはちょっと早計だ。今回のWWDCは「デベロッパーズカンファレンスです」と大文字で書いたようなメッセージになっており、視点を切り替えてみると、なかなかに面白い内容なのだ。ここでは4つほどポイントに絞り、その価値を筆者の目線で考えてみたいと思う。
【1】主役はiOS
まず今年のWWDCで「おお、なるほど」と思ったのは、「完全にiOSが主役」になった、ということだ。ご存知のように、アップルはiPhoneの利益によって成り立っている会社になっている。だからiOSが軸に来るのは当然……ではあるのだが、やはり我々の中には、「そもそも"OS X"から派生したのがiOSであり、ある種のサブセット」のように感じてしまう部分がある。
それはもはや正しくない。ネットワークを介したリアルタイムコミュニケーションを軸としたOSとしては、iOSはすでに"OS X"とは違う存在になっている。機能の実装についても、まずはiOSからスタートし、やがて"OS X"にというのがここ数年の流れだった。そのハイライトが、今年行なわれた「Siri」のMacへの搭載である。
今年、Mac用のOSは「macOS」に名前を変えた。同じ会社に「10」がつくOSがふたつもあるのはわかりにくいので、まあ当然のことではある。そして同時に、今回macOSに搭載された目玉の機能の多くが、「iOS機器との連携」で実現されていた。Apple WatchをつけているとmacOSでのログインパスワードをパスできる「Auto Unlock」にしても、機器の壁を超えて「ペースト」できるようになる「Universal Clipboard」にしても、ウェブの決済をiPhoneのApple Payで行なえる機能にしてもそうだ。
キーボードを多用し、これまでのクリエイティビティ系アプリケーションを多用する(ソフト開発はまさにそうだ)場合、Macが有用であることに変わりはない。だが、常に身につけているのはiOS機器(派生であるApple Watchも含め)であり、個人のアイデンティティはそちらにある。進化の母体としてでなく、「ツール」としてのメンテナンスフェーズに入っている……というと、ちょっと大胆すぎるだろうか。
【2】「他社連携」の窓口拡大
今回の発表事項では、アップルが開発したソフトウェアをデベロッパーが活用する幅が広がった点が目立つ。
特に重要なのは、Siriをサードパーティが活用できるようになったこと、そして、改良された「iMessage」に対し、サードパーティのプラグインや「ステッカー」を提供できるようになったことだ。
Siriをサードパーティアプリケーションから使えるようになれば、好きなメッセンジャーで音声入力が使えるようになるだけでなく、声で操作できるようになる。例えばピザ注文アプリならば、アプリ+サービス+Siriで、音声によってピザを注文したりできるわけだ。しかもSiriが入り口なので、アプリを立ち上げることはない。これは別の言い方すれば、「音声をiOSのグローバルUIのひとつにする」ということであり、非常に大きなチャレンジだ。その窓口にサードパーティアプリも並べるのならば、ビジネスチャンスは大きい。
LINEのスタンプが大きなお金を生んでいるように、iMassageのステッカーも大きなビジネスになるだろう。そして、メッセージの中に決済やスケジューリング、ゲームなどを埋め込むことも可能になるため、そこに大きなチャンスを感じる人々もいるはずだ。
アップルがこうした部分に「穴」を開けるのは注目すべきことであり、3つ目の視点につながる部分でもある。