最新の戦略を披露したT-mobile
今度は自社株付与のロイヤリティープログラム
主にT-Mobileの資料を見ながらまとめてきました。日本のキャリアでも行なわれている施策もありますが、T-Mobileのプレスリリースでは割と明確に、なぜその施策を実行に移すのかが示されています。
たとえばUn-carrier 3.5のタブレット向けデータ200MB無償化であれば、「90%近くのタブレットが料金を気にして、Wi-Fi接続でしか使われていない」というデータを示しています。
また、海外ローミング無償化では、「年間5500万人の米国人が国外に旅行しており、本国にいるときと同じようにケータイを使うと、そのコストは1日1000ドル以上になる。そのため40%の人々がデータローミングをオフにしている」と説明します。
T-Mobileは、月額プランでは新興キャリアだという立場から、これまでのユーザーにとっての不利益を一つずつつぶしていく戦略を取ってきました。ケータイ業界の自省をそのまま戦略にしてきたのです。
また、Wi-Fi Callingやルーター配布、ビデオ無償化は、新興ゆえのネットワーク的な体力の弱さを補う施策でもありました。しかし、2016年6月6日に発表したUn-carrier 11.0は、その姿勢からすこし変化が見られました。
最新の戦略である「Stock Up」は、文字どおりに株がもらえる仕組みです。T-Mobileユーザーが友達を誘って、新たにユーザーになったり、他社から乗り換えてきたら、1人あたり1株のT-Mobile USの公開株がもらえるという仕組みです。
これについても、キャッシュバックは利用制限が付いていて面倒だし、金額を増やさなければユーザーにとって不評となる、という悪循環を挙げ、これに変わる施策として提案しています。
6月6日の朝の同社の株価や約43ドル。もちろん公開株なので、株価の上下があり、1年後も同じ価値が保たれているとは限りません。ただ、ここには一種のゲーミングが潜んでいます。
つまり、みんなが頑張ってT-Mobileユーザーを集めれば集めるほど、収益性が上がり、株価も上がって、すでに得ているインセンティブが膨らんでいくという仕組みなわけです。
通信は確かにサービスですが、ユーザー同士は限られた資源を分け合うコミュニティでもあります。少数のユーザーがネットワークを占有することは、他のユーザーの不利益になるため、1日の通信制限などを設けています。
ただ、普段使っていると、こうしたユーザー間の連帯性を感じる機会はありません。通信速度が速いかどうかは、ついつい通信会社の投資力だけの問題に見えてしまうからです。
その点で、自社株付与は、ユーザーがT-Mobileについてもっとよく知ってくれる機会を与えるし、ユーザーをより直接的な会社のステークホルダーとして抱え込んで、協力者にしてしまおう、というアイディアにもなります。
実は、Un-carrier 11.0には、毎週火曜日に無料でピザやドリンクがもらえるクーポン配布、旅行などが当たる抽選を実施する「T-Mobile Tuesday」や、米国の航空路線でのWi-Fi無償化なども含まれていますが、自社株付与はインパクトが大きかったように思いました。
今後、どれくらいの株が配られるのか、会計上のインパクトはどうなのか、もう少し見ていきたいところです。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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