4月26日、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSJ)は、2016年度第一四半期に発表されたサービスの説明会を開催。4月18・19日に開催された「AWS Summit Chicago 2016」で発表された内容を中心に数多くの新サービスや新機能が披露された。
10周年を迎え、ますます拡大するAWSの現状
圧倒的なスピードで新サービスとアップデートをリリースし続けるグローバルクラウドベンダーのAWS。説明会ではAWSJ 技術本部長の岡嵜禎氏と技術本部エンタープライズソリューション部 部長の瀧澤 与一氏の2名が登壇し、AWSの現状や新サービス・新機能について説明した。
10年前の2006年3月14日、Amazon S3から始まったAWSだが、サービス数はすでに70を超え、毎日ほぼ1つ以上の機能をリリースし続けている。アクティブユーザー数は月間100万にのぼり、特にマネージドDBサービスのAmazon RDSは10万以上のアクティブユーザーが利用するもっとも成長率の高いサービスになっているという。
サービス提供も190カ国、12のリージョン、33のアベイラビリティゾーン(AZ)に拡大。これらを利用するための接続ポイント(POP)もグローバルで50以上に上っており、Amazon Cloud Front経由で各リージョンのサービスを利用できるという。最近ではソウルリージョンが立ち上がり、今後はインド、モントリオール、寧夏、オハイオ、イギリスにも新たなリージョンが設置される予定になっている。
AWS Summit Chicago 2016での新サービスやアップデート
続いて岡嵜氏、瀧澤氏は4月18・19日にシカゴで開催されたAWS Summit Chicago 2016で発表された10の新サービスやアップデートについて順々に説明した。
- Amazon EBSには2つのボリュームを追加
- ブロックストレージを提供するAmazon EBS(Elastic Block Storage)では、ビッグデータやETL、ログ処理などの用途に向け、スループットを最適したHDDボリューム「st1」と同様のワークロードでアクセス頻度の低い用途向けのコールドHDDボリューム「sc1」という2つのボリュームタイプが追加された。st1は1GBあたり月額0.054ドル、sc1は1GBあたり月額0.03GBで提供される。SSDに比べてIOPSは低いものの、高いスループットを実現し、価格もSSDに比べて半分くらいで利用できるとのこと。おもにシーケンシャルアクセスの多いワークロードで最適だという。
- S3への転送を高速化する「Amazon S3 Transfer Acceleration」
- Amazon S3 Transfer AccelerationはAWSのエッジロケーションとネットワークプロトコルの最適化を利用し、Amazon S3へのデータ転送を高速化するサービス。ターゲットのエンドポイントを変更するだけで、データ転送を高速化でき、大きなオブジェクトを国をまたいで転送する場合には、50~500%くらい速度向上が期待できるという。
- Amazon Snowballは新たに4リージョンで利用可能に
- 物理アプライアンスを使って大容量データを可搬するAmazon Snowballに関しては、AWS GovCloud(政府系クラウド)、米国西部(北カリフォルニア)、EU(アイルランド)、アジアパシフィック(シドニー)の4つのリージョンで新たに利用可能になった。また、データ容量を50TBから80TBに拡大した新アプライアンスも投入し、一部のリージョンで選べるようになっている。クラウドのマイグレーションやデータセンターの統廃合のほか、災害対策やコンテンツデータを保存する用途にも効果を発揮するという。なお、東京リージョンでの展開は現時点では未定。
- アプリケーション情報を収集する「AWS Application Discovery Service」
- AWS Summit Chicago 2016でプレアナウンスメントとして発表されたAWS Application Discovery Serviceは、クラウド移行前のアプリケーション情報を収集するサービス。オンプレミス環境にホストベースのエージェントを導入することで、インベントリ情報を収集し、アプリケーションの依存関係を自動測定する。これにより、アプリケーションの正常性やパフォーマンスのベースラインを確立し、クラウドへの移行に役立てるという。収集した情報はAPIでアクセス可能なデータ形式で保存され、サードパーティのツールで分析したり、CSVやXMLでエクスポートすることが可能になる。
- Amazon Inspectorがサービス開始
- re:Invent 2015で事前発表されたコンプライアンス対応診断サービスのAmazon Inspectorも正式発表された。Amazon Inspectorではベストプラクティスに基づき、Amazon EC2にデプロイしたアプリケーションの脆弱性やルールからの逸脱を検証。セキュリティレベルに応じて詳細リストを作成し、アプリケーションのセキュリティとコンプラインスを改善する。対象OSはAmazon Linux(2015.03以降)、Ubuntu(14.04 LTS以降)、Red Hat Enterprise Linux(7.2以降)、CentOS(7.2以降)、Windows Server 2008 R2/2012となっている。
- Amazon Kinesisエージェントを用意
- ストレーミングデータの処理を提供するAmazon KinesisがAmazon Elasticsearch Serviceとの連携するようになった。また、新たにKinesisエージェントが用意され、Kinesisで利用するJSONデータへの移行を容易にする書式設定機能が追加された。
- Amazon CognitoにUser Poolsを追加
- モバイルデバイスとWebサイトとの連携を容易にするAmazon Cognitoには「User Pools」がPublic Betaとして提供される。User Poolsでは、バックエンドコードやインフラ管理なしに、モバイルやWebアプリに認証やユーザー管理、データ同期などを追加できる。サインアップやサインイン、メールや電話番号での確認、多要素認証などの機能も用意されている。
- Amazon Device Farmでインタラクティブなテストが可能
- モバイルデバイスの動作テストをリモートから行なえるAWS Device Farmでは、AWS Management Consoleを経由した、インタラクティブなテストが可能になった。
- AWS CodePipeineとCodeCommitが連携
- アプリケーションのデリバリサービスであるCodePipelineが、ソース管理を行なうCodeCommitと連携するようになった。CodeCommitをソースプロバイダーとして利用できるようになり、CodePipelineのソースステージで、CodeCommitのリポジトリやブランチを選択可能になる。
- 指定したメンテナンス時間に更新をかけられるAWS Elastic Beanstalk
- アプリケーションのデプロイを実現するAWS Elastic Beanstalkでは、指定したメンテナンス時間帯に最新バージョンに自動更新(マイナーバージョンアップとパッチ)する機能が搭載。immutableデプロイメントのメカニズムを採用することで、ヘルスチェック中に問題を検知しても、自動的に既存のインスタンス群にトラフィックを向け直すことができる。サポートされるプラットフォーム(Java、PHP、Ruby、Node.js、Python、.NET、Go、Docker」の最新バージョンも定期的にリリースされる。
既存サービスも着実に機能強化された2016年第一四半期
説明会では2016年の第一四半期に発表されたサービスも駆け足で紹介された。2月にはクロスプラットフォームの3Dゲームエンジン「Amazon Lumberyard」がスタート。国内関連では1月にRun Commandが東京リージョンでサポートされたほか、3月にクラウドへのデータ移行を促進する「AWS Data Migration Service」がいよいよ利用可能になっている。
印象的だったのは、AWS自体が認証局となり、SSL証明書の運用をサービスとして提供する「AWS Certificate Manager」。SSL証明書の購入やアップロード、更新が自動化されるため、AWSの各種サービスで利用するSSL証明書の管理が容易になる。対象リソースはELB(Elastic Load Balanceing)とCloudFrontディストリビューションで、現在はバージニアリージョンでのみ提供されている。
また、Active Directoryとも連携できるAmazon WorkMailが一般利用可能になったほか、RDS for SQL ServerがWindows認証をサポートし、Windows環境との親和性が高まったのも注目すべき点。その他、AWS IoTのWebSocket対応やLambdaファンクションからVPC内リソースへのアクセス、ZeppelinやPresto、Sqoop、Mahout、Hcatalogなど新アプリケーションが利用可能になったAmazon EMR 4.4.0のリリースなど、既存のサービスも着実に強化されている。
一方、一部のリージョンでは新規アカウントを作成する際のAmazon EC2のリソースID/予約IDがデフォルトで17文字化され、ユーザーに影響が出るという。現時点では経過措置として従来の8文字に戻すことも可能だが、4月中には他のリージョンにも17文字化が適用される予定となっている。