そろそろスーパーコンピューターの系譜もネタが尽きてきた。もともとスパコンの市場そのものが大きく広がったのはつい最近の話である。
やや古いデータだが、2014年11月のHPCWireの記事によれば、2012年におけるスパコンの市場規模は110億ドルであったが、1996年には40億ドル弱でしかないとしている。
画像の出典は“The Strange, Shifting Shape of the Supercomputing Market”
もっと古い話では、1990年には11.8億ドル程度の市場規模だったそうである。ちなみにその1990年におけるUSのPC市場規模は243億ドル、全世界では713億ドルなので、スパコン市場の規模の程度がご理解いただけよう。
これが大きく伸びたのは2004年以降であるが、ここしばらくの間紹介してきた多くのシステムはまだ市場規模が10億ドル未満の時代の話である。
つまり非常に小さいパイを奪い合っていたわけだ。この頃は、まだ独自のアーキテクチャーを搭載した専用マシンが許される雰囲気が残されていた。
ただ市場が大きくなるにつれ、性能あたりのコストや、性能あたりの消費電力が重要視されるようになってきたり、性能に拡張性が求められるようになってきた結果、専用のプロセッサーによる専用システムから汎用のプロセッサーを組み合わせたクラスターに市場が移行していったのは、これまでも示した通りである。
結果、1995~1996年あたりからベンチャー企業は急速に姿を消してゆく。まだ細かいところではいくつか独自のアーキテクチャーのシステムを作った、もしくは作ろうとした会社は残っているが、それを全部カバーする必要もないだろうと判断した。そこで、これから数回は、過去の記事の補足をお届けしたい。
Convex社初の超並列システム
「Exemplar SPP」
まず初回は、Convexのその後である。ConvexはC4/XA-4シリーズをリリースするものの、売り上げは乏しかった。ただこれと並行してSPP-1600という超並列シリーズを手がけていたのは連載335回でも触れた通り。今回はそのSPP-1600の元になったExemplar SPPの話である。
Exemplar SPPは、Convexとしては初めての超並列システムである。下の画像は8プロセッサー構成のケースであるが、実際には最大128プロセッサー(つまりHypernodeが16個)までの構成をサポートする。
画像の出典は“Shared Memory vs. Message Passing: the COMOPS Benchmark Experiment”
ちなみに最小構成は4プロセッサーとなっており、この場合は1つの5x5 Crossbarに付く4つのAgentには、それぞれ1つのプロセッサーが接続される形態になると思われる。
Exemplar SPPに利用されるプロセッサーには、HPのPA-RISCが採用された。Exemplar SPPは何モデルかあり、最初に発売されたSPP 1000は100MHzのPA-7100、続いて投入されたSPP 1200/1600はPA-7200、最後に投入されたSPP 2000はPA-8000が採用されている。

この連載の記事
- 第711回 Teslaの自動運転に欠かせない車載AI「FSD」 AIプロセッサーの昨今
- 第710回 Rialto BridgeとLancaster Soundが開発中止へ インテル CPUロードマップ
- 第709回 電気自動車のTeslaが手掛ける自動運転用システムDojo AIプロセッサーの昨今
- 第708回 Doomの自動プレイが可能になったNDP200 AIプロセッサーの昨今
- 第707回 Xeon W-3400/W-2400シリーズはワークステーション市場を奪い返せるか? インテル CPUロードマップ
- 第706回 なぜかRISC-Vに傾倒するTenstorrent AIプロセッサーの昨今
- 第705回 メモリーに演算ユニットを内蔵した新興企業のEnCharge AI AIプロセッサーの昨今
- 第704回 自動運転に必要な車載チップを開発するフランスのVSORA AIプロセッサーの昨今
- 第703回 音声にターゲットを絞ったSyntiant AIプロセッサーの昨今
- 第702回 計52製品を発表したSapphire Rapidsの内部構造に新情報 インテル CPUロードマップ
- 第701回 性能が8倍に向上したデータセンター向けAPU「Instinct MI300」 AMD CPUロードマップ
- この連載の一覧へ