メールの役割はもはや大きく変わっている
構造計画研究所 中井:メールって「そのうち廃れていく」「届くのが当たり前」「メールがなくてもシステムに影響がない」とか、いろんな誤解があります。いきなり30万通のメールを明日送れると思っている人は多いんですが、メールを大量に送るのはけっこう大変。たとえば、なりすまし対策の送信元認証と言えば日本ではSPFだけ知っていればいいでしょという話ですが、実際はGmailもマイクロソフトもDKIMまで対応しているし、最近はより厳しいDMARCという規格も出ている。まともなIPアドレスかどうか調べるレピュテーションも、そんなものあるんですか?と聞かれますが、ドメインとIPのレピュテーションを高めないと大量に送ることは不可能です。
クラウドワークス大場:大量送信を意識する前は、私もDKIMについてあまり知りませんでした。DNSのSPFレコードも設定したのが3年前だったので、古いRFPをベースにしていた。なかなかSPFもパスできませんでした。
構造計画研究所 中井:そこははまりますよね。今はTXTレコードで登録するのが正しく、SPFというレコードは消した方がいいです。
クラウドワークス大場:SendGridに対応することで、正しいメール送信設定ができるのがよいですよね。
ピースオブケイク今:SendGridは正しい設定がされているか、ガイダンスが出てくるので感動しました。
構造計画研究所 中井:ありがとうございます。でもSendGridはバッドノウハウの固まりと言われることもあるんです。
コーチ・ユナイテッド富田:メールが自分のところだけで完結しないというフラストレーションもあると思います。相手方に届いてなんぼなのに、相手方がいろいろな「方言」を話しているから、届かないという点に納得いかないんじゃないですかね。
構造計画研究所 中井:メールってリレーされていって相手にたどり着くという郵便の仕組みと同じ。でも、いまだに「届くのに30秒かかったんですけど」とか、相手に拒否されているのに間の「SendGridが悪い」と言われるのはつらいですね。メールってわりとレガシーと思われがちじゃないですけど、役目も変わってきている。人と人とのコミュニケーションであればSlackやChatWorkもありますが、サービスや企業から個人への連絡といった場合、メール以外の代替手段がない。
コーチ・ユナイテッド富田:メールがないともはや電話ですね。事務局をやっているので、レッスンの予定や待ち合わせの場所など、届かないとか、落としてはいけないメールばかり。レッスン予定が変わっているのに開封されていない場合など、こちらから電話をかけることもあります。
メールの活用でマーケティングが大きく変わる
構造計画研究所 中井:最後にメール活用の話ですが、米国だと68%のユーザーがコマーシャルメッセージを電話や郵便ではなくメールで受け取るのを好むという調査があります。みなさんトランザクションメールとマーケティングメールの割合はどんな感じですか?
ピースオブケイク今:うちはマーケティングメールが9割です。SendGridになってからAPI経由で送れる量が増えたので、非常に楽になりました。
クラウドワークス大場:うちは両方で、分析も重視しています。最近はトランザクションメールを送る種別を登録案内とか、仕事の通知などでカテゴリ分けして、クリックレートをとるようにしています。SendGridを使って、サービスごとの開封率を別々にとれるようになっています。
コーチ・ユナイテッド富田:それは追加料金なしで使えるんでしょうか(笑)。
クラウドワークス大場:なしで使えます(笑)。マーケティングメールに関しては広報の案内なのか、オススメ案件のようないわゆるマーケティングなのかで分けてますね。メールが仕事の提案に関わるので、サービスのユーザー満足度に直結します。
コーチ・ユナイテッド富田:うちはトランザクション系が9割で、もっとマーケティングメール出してもいいくらいです。
構造計画研究所 中井:面白いです。三者三様で割合が違うんですね。
コーチ・ユナイテッド富田:だから大場さんの話は興味あります。たとえば、レッスンを受けたい人に対して先生になりたい人が多すぎると、面接枠がなかなか設定できず、登録してもらっても面接案内のメールまで何ヶ月も待つことになります。そうなると、そのメール種別に限って、配送に失敗するアドレスが増えてしまうんですよね。メール種別ごとに成功率を把握できそうで面白いなと思いました。
構造計画研究所 中井:トランザクションメールをマーケティングに使うというのは重要です。トランザクションメールの方が圧倒的に開封率高いので、そこにマーケティング要素を入れるんです。絶対に見たい情報を下に持ってきて、上に広告を突っ込むと効果高いです。
コーチ・ユナイテッド富田:最近、両者を比べましたが、確かにトランザクションメールの方が開封率3倍くらい高いですね。
dots.杉山:うちはマーケティングが多いのですが、トランザクションメールも重要。会員登録ができないと死活問題になるので、半々に持ってきたいです。
構造計画研究所 中井:日本の大企業だとメルマガ担当者が毎回同じフォーマットで送り続けるというのが多いですが、マーケティング意識を持ってメールを送ると大化けするという例もあるんですよね。みなさんには、ぜひそこらへんもチャレンジしてもらいたいです。
今回の座談会では、「レガシーでありながら、必要不可欠なメール」という技術に、エンジニアがどのように立ち向かえばよいかが浮き彫りになった。インターネット黎明期に設計され、時代錯誤な仕様を抱えつつ、メールはいまだにキラーアプリケーションとして君臨する。コミュニケーション手段が大きく変わりつつある中、メールの自身やクラウドやAPIといった技術も大きく進化しており、正しく使えば本来の役割以上の効果を得られるのもまた事実だ。