今回のスーパーコンピューターの系譜は、VLIW(Very Long Instruction Word:超長命令語)の元祖とも言うべきMultiflow社を取り上げよう。
Multiflow、正確にはMultiflow Computer, Inc.という会社は1984年に米コカチネット州で設立された。同社を設立したのはイエール大学のJoseph A Fisher助教授とその同僚3人である。
もともとVLIWという概念そのものを発明したのがこのFisher助教授である。ちなみに1983年に准教授(Associate professor)となり、1984年のMultiflow設立にあわせて同大学を辞任している。
そのイエール大のコンピュータサイエンスの助教授時代に書き上げた“Very long instruction work architectures and the ELI-512”という論文がVILWという概念を打ち立てたものである。
論文のタイトルに出てくる“ELI-512”というのは、論文の中で「仮想的に」作られたマシンである。ELI-512は512bit長の命令フォーマットで、以下のいずれかを同時に行なえる仕組みになっていた。
- 16のALUオペレーション
- 8つのパイプライン化されたメモリアクセス
- 32のレジスタアクセス
- 条件分岐
ELI-512にある16のALUがフルに動いた場合、“10~30 RISC-level operation per cycle”の性能が出せる、というのが論文での主張である。
ちなみにこの“RISC-level operation”の定義は、1982年にスタンフォード大のHennesy教授が主張した、Stanford MIPSを想定しての話である。要するに初歩的なRISCプロセッサーと比較して、10~30倍の性能が出せるとした。
ELI-512はあくまでも紙の上でしか存在しなかったが、これをもうすこし現実的な形で世の中に出そう、ということで設立されたのがMultiflow Computerだ。
MultiFlowは当初、Apollo Computerという1980年代に有名だったワークステーションメーカーの一部門として設立されたが、翌年にはベンチャーキャピタルからの資金を得て独立している。
このMultiflowにFisher(元)准教授はCEO(最高経営責任者)として参加、その後は同社が資金調達にあわせて外部からCEOを招聘した関係でExective VP(副社長)となり、後にCTO(最高技術責任者)も兼任する。
TRACE /200シリーズ
Multiflowが1987年に発表した製品がTRACE 7/200である。命令フォーマットは32bit Wordで表現され、1つの命令ユニットで同時に4つ(つまり256bit長)を処理できた。
画像の出典は“Very long instruction work architectures and the ELI-512”
各々の命令フォーマットは下の画像で示すように8種類(ただWord 1/5は実質同じなので、7種類とする向きもある)が定義されている。
画像の出典は“Multiflow Technical Summary”

この連載の記事
- 第705回 メモリーに演算ユニットを内蔵した新興企業のEnCharge AI AIプロセッサーの昨今
- 第704回 自動運転に必要な車載チップを開発するフランスのVSORA AIプロセッサーの昨今
- 第703回 音声にターゲットを絞ったSyntiant AIプロセッサーの昨今
- 第702回 計52製品を発表したSapphire Rapidsの内部構造に新情報 インテル CPUロードマップ
- 第701回 性能が8倍に向上したデータセンター向けAPU「Instinct MI300」 AMD CPUロードマップ
- 第700回 インテルが10年先を見据えた最先端の半導体技術を発表 インテル CPUロードマップ
- 第699回 Foveros Directを2023年後半に出荷 インテル CPUロードマップ
- 第698回 ARA-2の開発を進める謎の会社Kinara AIプロセッサーの昨今
- 第697回 CPUとDSPを融合させたChimeraはまさに半導体のキメラだった AIプロセッサーの昨今
- 第696回 第4世代EPYCのGenoaとBergamoの違いはL3の容量 AMD CPUロードマップ
- 第695回 遅延が問題視されるSapphire Rapidsは今どうなっている? インテル CPUロードマップ
- この連載の一覧へ