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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第53回

平澤直Pに聞く『ブブキ・ブランキ』とサンジゲンの新たなチャレンジ

甲子園を日本最大の興行たらしめる「物語のルール」をアニメに取り入れる!

2016年03月20日 17時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII.jp

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(C) Quadrangle / BBKBRNK Partners

数々の作品を生んだ甲子園という“物語のルール”
いまアニメがすべきことは世界観とルールの分離

―― 確かに。中心にいるクリエイターが優秀であればあるほど、その頃には他の仕事で忙しくなってしまい待たされる、ということも容易に想像が付きます。

平澤 そこで、キャラクター/ストーリー/世界観/テーマのほかにもう1つ新しい軸をあらかじめ用意しておくということを『ブブキ・ブランキ』では試みました。従来は“世界観”の一部と捉えられていたもの――ドラマ生成志向ルールと僕は呼んでいるんですが――を独立要素として開発できないかと。

 たとえば、“野球”と“甲子園”のセットというドラマ生成志向ルールは、数え切れないほどの物語を生んできました。

―― 確かに(笑) 夏の高校野球はルールが明確ですから、その面を切り取れば監修の必要性はほとんどないですね。

平澤 それはとても魅力的なルールなんです。日本最大の“興行”ですからね。高校生限定・夏・トーナメント式……すごく中毒性が高い。日本人は可能性が開く瞬間、そしてそれが奪われる瞬間も見たいのです。深いところでいえば、夏=敗戦という皆が共通して持っている物語にも沿ったものだからです。

 あのサイレンが象徴するように、戦争、そして試合に敗れるという事実をどう受け入れるか、というドラマがそこにはある。国力が衰退するなか、圧倒的な力に対する負けを受け入れなければならないとき、どう尊厳を保つか、に焦点が当てられた物語がいま人気なのも、そういった背景があると思います。

―― 進撃の巨人がそれですね。

平澤 高校野球でカット打法が問題になったりするのも、“正々堂々と負ける姿”を見せることが求められている“興行”だからですね。

 ドラマ生成志向ルールは、いわばその興行デザインなんですよ。そこがしっかりした面白いものであれば、その上に乗るキャラクターが変わっても面白いものになる。ラブライブ!、ガルパンもキャラは違えど、ドラマの基本は甲子園というルールに則って展開している特殊部活甲子園ものということができそうです。

―― 甲子園ですねえ(笑)

あらかじめ世界観とルールを分離しておくことで、次作を待つファンに素早く作品を送り届けることができる(平澤氏の資料より抜粋)

Fateの聖杯戦争、シュタゲの世界線、まどマギの魔法少女
ゲームクリエイターの作品はルールが明確だ

平澤 いままでは混然一体と語られ、準備されることが多かった“世界観”から“ルール”を明確に分離しておくことが重要だと思っています。

 ゲームクリエイターが作る物語は、“ルール”が強く意識されていて、そのことが続編やスピンアウトが生まれやすい土台になっていると思います。

―― Fateの聖杯戦争、シュタインズ・ゲートの世界線、まどマギの魔法少女などがそうですね。大量に、でもそれぞれが面白く、破綻しないスピンアウトが色々なメディアで展開されています。

平澤 そういったルールを作品のなかにきっちりと埋め込む。『ブブキ・ブランキ』も、キャラクターや舞台が変わっても物語が展開できるようになっています。あとはこのルール自体をいかに楽しんでもらうか、というのがこのあとの話数でのチャレンジですね。

―― ありがとうございました。

『ブブキ・ブランキ』はアニメ制作手法、そして
アニメビジネスそのものに立ち向かう

 今クールのアニメのなかでも『ブブキ・ブランキ』は異彩を放っている。平澤プロデューサーが語ってくれたように、多くのアニメ作品が当たり前のように備える“分かり易さ”とは距離があることがその一因となっていることは間違いないだろう。

 しかし、そこに組み込まれたルール、そして3DCGアニメの限界を突破するクリエイティブには見所が満載だ。クリエイティブ/ビジネス両面でのアニメの進化(しかもそれは話数が進むにつれ深まっていくものだ)を確かめるためにも『ブブキ・ブランキ』は必見のタイトルと言えるだろう。

意外!?『ブブキ・ブランキ』のアニメーターは全員正社員
サンジゲンがスタッフの完全雇用に踏み切った理由とは?

「アニメビジエンス Vol.10」は、『ブブキ・ブランキ』のキャラクターデザイナー、コザキユースケ氏が描く『攻殻機動隊』が表紙

 平澤Pのインタビュー中にもあった通り、現在のアニメーターには“作画/レイアウト/動き”の3技能すべてに通ずるスーパーマンぶりが求められる。しかし3つすべてが基準に達した人材を確保し続けるのは至難の業。また現場では、水準の高いアニメーターに作業が集中、ボトルネックとなってしまい、スケジュールの遅延=予算超過が日常茶飯事となっている。

 そんななか、いち早く3DCGに舵を切ったサンジゲンでは、アニメーターに求められる技能を切り分け、それぞれ別の人間に担当させている。それによって人材確保が比較的容易になるだけでなく、スケジュール遅延の原因となる“なんでもできるスーパーアニメーターへの依存”を回避することにも成功した。

 アニメビジエンス誌の最新号では「ビジネス視点で見るアニメ業界の人材確保の未来」を特集。サンジゲンを率いる松浦裕暁社長をはじめとする業界関係者が、今後のアニメ制作現場に必要な人材・スキルについて語っている。

 販売はキャラアニアマゾン、とらのあなにて。

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