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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第103回

シリコンバレーを魅了するチームラボの未来のアート

2016年02月17日 12時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII.jp

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PACE Menlo Parkで開催中の「teamLab Living Digital Space and Future Parks」。シリコンバレーを南北に貫く幹線道路「エルカミノリアル」沿いに、大きく浮かび上がるおなじみのロゴです

 バレンタインデーだった2月14日、お花見をしてきました。米西海岸ではもう桜も散り際でポカポカと暖かく、絶好のお花見日和だったのです。

 日本では、公園の広場や土手など、ちょっと座って花見ができそうな場所に桜が植わっていますが、筆者の住む地域の周辺では、街路樹としてサクラ系の木が植えられているため、なかなか道端にござを引いて、というわけにはいきません。これも文化の違いといったところでしょうか。

 ちょうど穏やかな陽気を楽しんでいる最中ではありますが、もう一つ、真反対の季節の話題。ちょうど、2月13日は、マーベリックスで、サーフィンコンテストが開催されました。世界中から命知らずのサーファーが集まり、この季節に名物となる巨大な波を乗りこなす、そんなイベントです。

 マーベリックス(Mavericks)は、AppleがOS Xのバージョン名にしたことでも知られていますが、サンフランシスコから30~40分ほどクルマで走ったところにある、太平洋沿いのポイントで、都市名で言うとハーフムーンベイが最寄りです。

 マーベリックスのコンテスト会場は、高波も危険なため、関係者以外シャットアウトされており、地元の人はレストランやバーで観られるライブ映像で、コンテストの行方を見守っていました。冒頭の写真は、近くにある岬から見下ろした波の様子。観ているだけでも、恐怖でしかありませんでした。

チームラボのエキシビション

 2月6日に、シリコンバレーの都市であるメンロパークで始まったのが、日本のチームラボによるデジタルアートの展覧会。「Living Digital Space and Future Parks」と題して、数々の作品の展示がスタートしました。筆者も早速観てきました。

 チームラボは、2000年に猪子寿之氏らが設立したシステム開発企業で、東大発ベンチャーとしても知られていました。2000年代後半から、メディアアートを中心としたものづくりの活動で国際的な実績を残すようになり、デジタルサイネージや、テレビの生放送で展開するインタラクティブゲームなどでもユニークで印象的な作品を残してきました。

 そんなチームラボが、アメリカの、シリコンバレーで展覧会を開催しているのです。会場となるのはPACE ART+TECHNOLOGY。ニューヨークを中心に、ロンドン、北京、香港に拠点を持つ名門ギャラリーの、シリコンバレー拠点での開催です。

 まず出迎えてくれる作品は、点描を空間上に施して炎の彫刻を作った「Light Sculpture of Frames」。中心は白く、外側は赤く、歩脳が立体的に揺らめき、人が近づくとその部分に大きな炎が現れる仕組み。同じパターンをリピート再生しているわけではなく、プログラムで常に異なるパターンを作り出しているそうです。

Light Sculpture of Frames

 チームラボの作品から感じることは、デジタルが、アートの美しさを拡張しているという点。有機的なものをただ人が描くのではなく、プログラムに描かせることで、いつも違うパターンに出会うことができ、また時間や人の感知に反応する面白さを作り出すことに成功しているのです。そのためには、花や波を深く理解し、これをデジタルに置き換えていく作業が必要だと思いました。

 言うなれば、「感性によるアナ・デジ変換」。様々な専門性を持つ集団であるチームラボならではの表現が生み出されていました。

シリコンバレーのギャラリー事情

 今回の展示では美しい4Kディスプレイや4Kプロジェクターも用いられており、高精細ゆえの不思議な立体感がある、アルゴリズムで描かれた生物や水の流れ、波を楽しむ事ができます。自宅の4KテレビにはApple TVがつながっていますが、たとえばApple TVアプリとして購入して、北斎の波のパターンを表示させ続けたい、とすら思ってしまいます。

 作品をアプリ化した場合、数万円では安すぎるのかもしれませんが、爆発的に広まる可能性を考えると、面白い勝負かもしれません。少なくとも、Apple TV向けApp Storeでトップセールスを独占できるのではないかと思います。

 チームラボを迎えて展覧会を開いたギャラリーPACE。シリコンバレーにPACEが拠点を作った理由は、シリコンバレーのギャラリー不足に着目したためでした。ビリオネアがひしめくこの地域に、意外なことに、ある程度の規模のギャラリーが存在していなかったのです。米国のアート業界における損失になるとして、元々はTeslaの1号店だったスペースをギャラリーにしました。

 広々としたスペースには、空間に入って楽しむアートも充実していました。60分で四季を巡る、花が咲き乱れる空間を作り出す作品「Flowers and People, Cannot be Controlled but Live Together - A Whole Year per Hour」。こちらもプログラムで生成された花の一生を、花の香り付きで楽しむ事ができます。自分が立っている足下に花があふれてくる演出は、植物との共生を感じさせる特別な気持ちを作り出してくれました。

Flowers and People, Cannot be Controlled but Live Together - A Whole Year per Hour

 また、光の彫刻の空間に入れる「Crystal Universe」は、手元のスマートフォンでさまざまな星を空間に放り込むことができ、センサーによって自分の近くに集まってくる星々には、銀河の星の美しさを観ているような気分になります。ちょうど、スターウォーズを一気見した直後だった、ということもありまして。

Crystal Universe

 こうした作品は、シリコンバレーのテクノロジー企業に勤めているトップクラスの人々やその奥様、お子さんに大好評だといいます。GoogleやFacebookのように、オフィスをクリエイティブな空間に変えていきたい企業としては、オフィス内に常設したいと考えるのも自然な事でしょう。

 こうしたデジタルアートは、名画のように恒久的に価値が上がり続ける種類のものではないかもしれません。しかし、同じテクノロジーに従事している企業のトップは、社員に対して、あるいは自分に対して、チームラボの作品から「テクノロジーの可能性の象徴」を見出しているのかもしれません。

Black Wave

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