スティーブ・ハリスとオンキヨー共同開発の“ロック・メタル向けヘッドフォン”
アイアン・メイデンファン垂涎のメタル向けヘッドフォン『ED-PH0N3S』の実力とは
2016年01月03日 10時00分更新
ここからは実際に音質をチェックしていくが、“ロック・メタル向けヘッドフォン”と聴いて、読者の皆さんはどんな音が鳴るのを思い浮かべるだろうか。おそらく、ハーモニクスバリバリのギターソロが余計に鋭く聴こえたり、ドラムのツーバス連打が腹に響いてきたりするような、かなり極端な味付けを思い浮かべる方が多いのではないかと思う。筆者もそういう先入観を持ったまま試聴に臨んだが、結論から言うと、このED-PH0N3Sはそうした製品とは対極に位置する、非常にバランスのいい音を出すヘッドフォンだ。
開発に携わったスティーブ・ハリスの「全音域を鳴らすことにこだわった」という言葉通り、ドラムやベースの低音域・ボーカルやギターの中音域・高音域のバランスが高度にまとまっており、音の分離も明瞭で、非常に聴きやすい。ドラムのアタック感などはしっかり出てくるが、耳に痛い音はなく、長時間のリスニングでも疲労はそれほど感じられない。総じてクセのない性質で、メタルに限らずあらゆる楽曲を無難に鳴らしてくれそうな印象を受けた。一言で言うなら、『音楽をしっかり聴かせたい』ヘッドフォンという感じだ。よく言えばシンプル、裏返して言えば尖ったところがないので、ノリや勢いを重視する人にはやや物足りなく思えるかもしれない。
あくまで個人的な感想だが、エンタメ性重視というよりは、音楽制作の現場で使われるモニタリングヘッドフォン寄りの特性が強いように感じた。実際、アイアン・メイデンの最新アルバム『The Book Of Souls』の制作現場では、スティーブ・ハリスがミキシング作業にED-PH0N3Sを使っていたそうだ。プロの音楽制作の現場では、余計な味付けを排除し、原音に忠実な音を出すモニタリング用ヘッドフォンが使われるのが常識である。製品発表会でそんな話が出たときは「思い切ったことするなあ」と思ったが、実際にED-PH0N3Sの音を聴いてみると妙に納得してしまった。
ロック・メタル向けということで、試聴用の楽曲としては、アイアン・メイデンの5作目のアルバム『パワースレイヴ』に加え、スティーヴ・ヴァイのインストアルバム『パッション・アンド・ウォーフェア』を用意した。
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パワースレイヴEMIミュージックジャパン
『パワースレイヴ』は「これぞメタル!」という楽曲が詰め込まれた名盤で、筆者もお気に入りのアルバムである。もう随分聴き込んだと思っていたが、ED-PH0N3Sで聴くと全体の情報量が増えたように感じられ、メロディーやフレーズを新鮮な気分で試聴できた。
必聴はM4の『Flash Of The Blade』。デイヴ・マーレイとエイドリアン・スミスが奏でる重厚なリフはもちろん、他の音に埋もれがちなベースラインも存在感を失なわずに耳に届き、ヘッドフォンのバランスの良さを再確認できる。一方で、極端な味付けがされないという特性上、演奏自体がシンプルな楽曲では全体がフラットに聴こえすぎ、迫力に欠けてしまう印象もあった。トリプルギター編成になり複雑さが増した2000年以降のアルバムなら、よりED-PH0N3Sの実力を発揮できるだろう。
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パッション・アンド・ウォーフェアSony Music Direct
『パッション・アンド・ウォーフェア』は、スティーヴ・ヴァイ独自の感性で作られた様々な曲調の楽曲が収録されているのが特徴。メタル一辺倒という感じではないので、ヘッドフォンの特性に合わない曲もある気がしていたが、実際はどの曲も音の量感のバランスがよく、「この曲にこのヘッドフォンはマッチしていない」と思うような場面はなかった。また、曲によってはサンプリングされた音や人の声が使われており、そうした楽器以外の音もクリアーかつ実体感を持って再現されるため、ヴァイ独特の世界をじゅうぶん堪能できると言っていい。
ヴァイの超絶ギターテクニックは本作の聴きどころのひとつだが、M7『For the Love of God』後半の凄まじい速弾きの音の粒も「あー、こういう演奏してたんだ」と思えるほどしっかり聴き取れるなど、彼のテクニカルかつ感情豊かな演奏を存分に聴きこめるのは嬉しい。加えて、全編を通してシンバルの余韻や細かいアクセントが非常に綺麗に聴こえるのも特筆すべきポイントだ。特にバラード調のM13『Sisters』では、繊細なシンバルワークや伸びのいいクラッシュの響きを楽しめるだろう。
試聴の結果、ED-PH0N3Sはその尖った外見とは裏腹に、綿密にチューニングされた『しっかり聴く』ためのヘッドフォンだという印象を強くした。こうした特徴の実現にあたっては、やはり自身の音楽に強いこだわりを持つスティーブ・ハリスの影響が大きかった気がしてならない。筆者としては音質うんぬんよりも、「ちゃんと俺らの音楽聴いてる? しっかり聴いてくれよ!」というスティーブの強いメッセージが伝わってくるようで、思わず唸ってしまった。
再生周波数帯域がハイレゾ再生に十分ではないとは言え、高価な機器が必要なハイレゾはまだまだマイナー。ハイレゾ環境に特別こだわりのある人でなければ、ED-PH0N3Sはオススメできる製品だ。スティーブ・ハリスが目指す音楽の形を感じ取りたいディープなメイデンファンはもちろん、「もっとしっかりメタルが聴きたい!」というユーザーにもぜひ試してみて欲しい。