
文字盤もストラップも表面の見えるところはすべてが電子ペーパーの腕時計
昨今、世の中ではスマホの子機として、いろいろ便利な情報表示装置としても機能する一連の“スマートウォッチ”が出揃った。
一方、従来のアナログ腕時計の世界では、腕時計のサードウェーブとも呼べる流通改革によるリーズナブルな価格の国産正統派腕時計が市場を賑わせている。
そんなデジタル&アナログの混沌とした腕時計市場に、一見して、スマートウォッチ? とも思える極めて普通の腕時計である「FES Watch」が参入してきた。そもそもFES Watchはソニーブランドの商品として登場するはずだったかもしれない商品だ(実際には、ソニーが運営するクラウドファンディング方式の“First Flight”プロジェクトから生まれた製品)。
しかし、巨大企業の仕組みをそのまま使って発売することになれば、それだけで商品そのものが大きな負担を背負い込むことにもなり、スピード感の喪失によるタイムリーな市場参入が阻害されたり、コスト面でも不利になることが多い。
これはソニーに限らず、大きな企業では多くのメリットがある反面、商品の種類や販売対象によってはさまざまなデメリットが出てくるものである。FES Watchは大企業の組織で企画された商品ではあるが、スピードとコストの改革を旗印にキックスターター的なスタートアップを行なった珍しい商品だ。
最初の購入タイミングを見送った筆者だったが、今年(2015年)の夏頃に年末間際に出荷予定の商品を事前予約で申し込んだ。筆者の注文したFES Watchは、約4ヵ月後の11月21日、予定通りデリバリーされてきた。
ベルトも含めて全面電子ペーパーを採用
最近のテクノロジー系スマートウォッチは、大袈裟なパッケージが特徴ではあるが、配送されてきたFES Watchは価格帯や身の丈に応じたシンプルで華美ではないパッケージに入って来た。
流行のスマートウォッチではないので、同梱物も極めてシンプルだ。パッケージの中にはFES Watch本体と、取説、保証書の3点のみだった。さすがに保証書はソニーの保証システムを利用しているようで、オーナーは「ソニー株式会社」になっていた。
FES Watchの最大でかつ唯一の特徴は、腕時計本体に“キンドルペーパーホワイト”などでおなじみの「電子ペーパー」を採用していることだ。
電子ペーパーを採用した腕時計である先輩格の「Pebble」は、文字盤部分のみの採用であったが、FES Watchは文字盤のみならず、一体型のベルト面にも全面的に電子ペーパーを採用している。
筆者は日々、電子ペーパーを採用しているソニーの「デジタルペーパー」(DPT-S1)を愛用しており(関連記事)、FES Watchにも自然と期待が高まってしまう。
今回ご紹介するFES Watchは、腕時計業界では多少注目されている電子ペーパー技術を採用してはいるが、スマートフォンと連携できる昨今流行のスマートウォッチでもなければ、複雑な機構が興味深い人気のメカニカルウォッチでもない。
腕時計の機能だけを見れば、至極当たり前のクォーツ腕時計であり。その時刻表示系にのみ電子ペーパー技術を採用し、電子ペーパーが文字盤だけではなく連続的にストラップ部分にも拡張的に採用された商品だ。
考え方によれば、腕時計というよりも、電子ペーパー産業全体の技術応用デモンストレーションのような印象を受ける。
中心技術となる“電子ペーパー”を腕時計形状に切り出し、腕への装着性と強度を上げるためにラバーのベースを取り付け、クォーツ基板とバッテリーを取り付けたイメージだ。
多少柔軟性に欠け、リング状に丸まった感じの電子ペーパー基板ゆえ、腕の周囲への装着感は悪くはない。なのでシングルバックル方式で腕への装着、脱着も極めて容易だ。
(次ページに続く、「省電力を突き詰めたがゆえに 何回か無駄に腕を動かさなければならないことも……」

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