NECは、工業製品や部品の表面に自然発生する微細な紋様をもとに個体を識別し、真贋判定が可能な「物体指紋認証技術」を強化。同技術を、米大手ベビー用品メーカー「Ergobaby」(エルゴベビー)ブランドの抱っこひもの日本国内向け流通品に採用し、偽造品対策に乗り出す。
現時点では、情報・メディアプロセッシング研究所が担当しているが、今後、ブランド品をはじめとする製品、部品などに同技術を展開。様々な業界における偽造品対策活動や、企業の効率的な偽造品対策を支援する考えで、事業化の拡大においては、研究所から事業を切り離して、事業部門が担当することになりそうだ。
NECは、歴史的に高い認証技術を持っている。1960年には文字認識技術の研究を開始。1969年には郵便番号の自動読み取り区分機を開発。1989年には宛て名自動読み取り技術を開発した実績を持つ。また、1969年から研究を開始した指紋技術では、1982年から警察庁で自動指紋認証システムを稼働。1989年には顔認証技術の研究を開発し、2002年からNeoFaceとして商品化。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは年間パスポートの本人確認システムでも活用されている。
同社では、これらの各種認証技術の実績と、技術・ノウハウを活用し、2011年3月にはメロンの紋様が異なることを識別し、個体ごとの違いを判別する技術を発表。さらに、人や植物、農産物だけでなく、工業製品をはじめとする製品・部品でも識別できる技術を「物体指紋認証技術」として研究を開始。実用化に向けた取り組みを行なってきた。
NECでは、同じ金型を使用して作られた部品でも、製品固有の紋様があることに着目。2014年11月に発表した物体指紋認証技術では、人間の目では判別が困難な製品固有の紋様をスマートフォンなどの汎用カメラで撮影し、事前に登録した紋様の画像とデータを照合。これにより、製品の真贋を瞬時・高精度に識別できた。
今回の機能強化では、従来の金属の真贋判定に加えて、プラスチック樹脂や塗装、皮革といった表面が多様な材質で構成される商品の認識に対応。体の表面における光沢の強度や模様の濃淡の有無など、様々な対象物の材質、表面特性の違いに合わせて、識別性の高い特徴を抽出して認識する技術を開発した。
一般的なカメラでは、鮮明な画像として撮影できなかった金属以外の物体指紋に対しても、安定した認証が行なえるようになったほか、認証を行なう場所による環境の違いに対しても、より安定した認識が可能な特徴照合アルゴリズムを開発。特殊なカメラなどを使用することがないため、実用時におけるコスト削減につなげられるという。
「製造時に自然発生する微細な表面のおうとつをデータベースに登録しておけば、現物をスマホで撮影することで、本物の個体であるかどうかを確認できる。新たな技術によって、金属・プラスチック・繊維・塗装などにも適応できるため、多様な製品に応用できる」(NEC 情報・メディアプロセッシング研究所・宮野博義部長)という。
同社では、1万本のボルトを検証した結果、そのすべてを識別。「エラー率は1億分の1以下になると想定している」(同)という。
ブランド品のバッグや財布、ベルトなどでの応用も可能だ。ただし、使用後の劣化についても対応できるかどうかといった点での検証は今後必要。まずは、新品、あるいは使用日数が少ない製品や部品における真贋判定に活用する。