キャリアにとっては悪い話なのか?
もっとも、これがキャリアにとって悪い話かというと、実は必ずしもそうでもないと思う。端末は顧客を惹きつけるという点では有効だが、キャリアの多くは端末を販売することで収益を上げていないからだ。ショップのスタッフ、それに設定などユーザーの端末関連にまつわる面倒な手間に相当なコストがかかっている(その割には、世界的に見て、ショップスタッフの端末に関する知識に顧客が満足しているかというと必ずしもそうでもない。ここはフィーチャーフォン時代から変わらない課題だ)。
人気端末であるiPhoneでは料金プランを魅力的にしてユーザーの乗り換えを防ぐ必要があり、iPhoneは顧客を惹きつける魅力的な製品だが、難しい製品でもあるのだ。
Appleの動きに対し、キャリアも負けていない。T-Mobile USAはAppleよりも安い月額20ドルからスタート、期間は18ヵ月で1年後のコストは240ドルとなる(そもそもAppleのiPhone Upgrade Programのようなリース的なアップグレードプログラムは、2013年より”UnCarrier”として脱キャリア宣言をするT-Mobile USAが「Jump! On Demand」として提供してきたものだ)。
このほかにも、Verizon、AT&Tなど主要キャリアはどこもおなじようなアップグレードプログラムを発表している。ただ、価格競争がエスカレートしてしまった場合、それがキャリアにとって都合がよいことかどうかはわからない。世界的にみて、キャリアは自社のビジネスの中核を見つめ直す時に差し掛かっている気がする。
余波がほかのメーカーに及ぶ可能性は?
ではSamsungなどのほかのメーカーが同様のプログラムを展開する可能性はあるのだろうか? このプログラムは直営店が各所にあり(アメリカには約300店舗もある)、しっかりとした説明とケアができるスタッフがいるからこそのプログラムといえ、ほかのメーカーが展開するのはなかなか簡単なことではないように見える。ここはやはり、手持ちの資産をきちんと生かすというAppleの戦略の好例のように見える。
このように、今回の発表では端末メーカーとしてのAppleというよりも、ビジネスの巧みさを実感した。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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