「メディアの液状化」「ニュースの製造」「世間メディア」 「セレンディピティー」などのキーワードから読み解く
僕らが感じ始めたSNSへの違和感の理由と対処を一旦マトメ
2015年07月01日 10時00分更新
メディアが変われば人間も変わる
もちろん、技術の進歩と共に人間の側も大きく変化していく。
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ご存知、マーシャル・マクルーハンの主著「メディア論」。「メディアはメッセージである」という有名なテーゼに始まり、「人間の身体および感覚の拡張としてのメディア」が、「テレビ」「貨幣」「衣服」「自動車」などさまざまなトピックを例に論じられている |
マーシャル・マクルーハンは「メディア論」の中で「いかなるメディア(つまり、技術)の場合でも、その『メッセージ』は、それが人間の世界に導入するスケール、ペース、パターンの変化に他ならない」と言っている。
つまり、新しいテクノロジーは人間の社会に対しても、個々人の感覚に対しても、新しいスケールやペース、パターンを持ち込むということ。姿形こそ変わらないが、インターネット以前のわれわれとインターネット以降のわれわれは物の感じ方や考え方、行動様式がまったく違う。
だから、インターネットが広く普及し、ソーシャルメディアが誕生して以降、われわれはマスメディアの情報の単なる「受信者」から、日々「ニュース(=情報)の製造」にいそしむ「発信者」になった。
2回目で述べたこのニュース(=情報)の製造も、メディアの液状化と同様、まったく悪いことではないだろう。これまで存在すら意識されなかった声が可視化されるようになったわけだし、そのこと自体、ソーシャルメディアの「社会メディア」性として歓迎すべきことだと思う。
しかし3回目で指摘したように、特定の人物や事象に対するバッシングなど、排他的な「世間メディア」としての側面が過度に肥大化したときは話が別だ。
ここに、もはやマスメディア化しつつあるソーシャルメディアの危険性があるように思う。ラジオがアマチュア無線から公共放送へと成長/変化したように、ソーシャルメディアも黎明期の頃とはまったく異質のものになっているという認識は不可欠だろう。インターネットと「公共性」の問題についても触れなければいけないかもしれない。
総発信者時代に必要となるのは「受信」のスキル
昔は単純な時代で今は複雑な時代だとは決して思わないが、毎日あらゆるメディアによってニュース(=情報)の製造がなされ、ソーシャルメディアの世間メディア性が猛威をふるう昨今、情報といかに付き合っていくかは切実な課題だろう。
発信は今後もますます加速し、情報はどんどん増加していく。感情的な発言や反射的な反応、そして画像や動画まで作り込んだフェイクニュースも減ることはないだろう。
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6月25日朝、東急田園都市線で起こった人身事故の原因が「歩きスマホの女子校生」が「誤ってホームから転落した」ためと、ソーシャルメディアでは一斉に広まった。しかし、その後、マスメディアからの問い合わせに対し東急電鉄は「そのような情報は把握していない」と回答しており、おそらくデマが拡散したのではないかとの見方が強まっている |
じゃあ、情報を遮断すれば問題は解決するのかというと、そう単純なものではないというのが前回、4回目の「セレンディピティー」の話だった。
クリエイティブ系の企業などでよくやる「ブレスト」なども、多分に、「偶然の情報との衝突」を創造行為に生かそうという試みだ。自分の中には自分が思っている以上に多くの情報が沈殿しているから、時には、淀んだ水を掻き回して底に沈んでいる情報を浮上させてやる必要がある。だから、セレンディピティーの可能性を閉ざさない程度に、適度に情報と接する必要がある。
もちろん「発信」にも編集はあるが、それはテクニックの問題だったりリテラシーの問題だったりする。前者は技術論であり、後者は道徳論になってしまう。
むしろ、総発信者時代に必要となるのは受信のスキルだ。そして、その根幹にあるのが編集である。「ウェアラブル」や「ビッグデータ」についてもまだ言及していないし、意外にやることがいっぱいあると感じている。
著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)
編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。現在、「エディターシップの可能性」をテーマにしたリアルメディアの立ち上げを画策中。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。
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