世界初のGPUを使ったアクセラレーター
「CS301」
FUZION 1が製品化されることはなかったが、ここでPixelFusion自身は戦略を転換することにしたらしい。同社は社名を2002年にClearSppedに変更。いきなりSIMDベースのプロセッサーを製造するビジネスに転換する。SC2003(Supercomputing Conference 2003)において、CS301というアクセラレーターを公開する。
CS301は内部構造をだいぶ変更した。引き続きPE(Processing Element)が複数同時に動く仕組みは変わらないが、プロセス微細化の足枷になっていたeDRAMを排除、構造もすっきりさせ、アクセラレーターに不要なものを取り去った。
PEそのものも強化されるとともに、FPUやMACユニットを追加することで浮動小数点演算性能を大幅に強化した。
このあたりはFUZION 1は「プログラム次第でどんなフォーマットでも対応できる」形だったが、アクセラレーター用途であればIEEE754フォーマットが一番便利なので、これにハードウェアを合わせた形だ。
もっとも8~32bitの固定小数点演算フォーマットなどもサポートされているあたりは、かならずしもHPC向けだけでビジネスが成立するか不安だったので、他の用途も探していた気配がうかがえる。
消費電力は最悪でも3Wと低めで、200MHz駆動で最大25.6GFLOPS(ただし単精度)という演算性能は、同時期の競合製品と比較して十分高速だった。
この時ClearSpeedはいくつかのプロセッサーとの比較を行なっているが、例えばPowerPC 7410とFFTを行なった場合のスコアが下の画像だ。
ちなみに当時といえばまだインテルならPentium 4が現役の時代だったが、こちらは3GHz駆動で12GFLOPSであり、性能/消費電力比で言うとPentium 4は0.1GFLOPS/Wに対して、CS301は8.5GFLOPS/Wと大幅に性能が高いことをアピールしていた。
このCS301はPCの拡張カード以外にCard Busのフォーマットまで考えていたらしい。
当初は開発環境と開発ボード、サンプルチップ類を2003年第4四半期に提供という話だったのだが、実際にはこのタイミングではチップが出荷できなかったようで、同社自身もCS301の次の製品であるCSX600に注力するようになる。
理由は明確には述べられていないが、1つはもう少し高い性能が要求されたこと、もう1つはやはり倍精度浮動小数点演算が求められたらしい。
→次のページヘ続く (CS301の後継「CSX600」)
この連載の記事
-
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ