【後編】『楽園追放』プロデューサー野口光一氏インタビュー
アニメ『楽園追放』は"社会の壁"を壊してヒットを勝ち取った
2015年02月08日 15時00分更新
「プロデューサーって何をする仕事?」
VFXを担当した作品のプロデューサーに聞きに行くと……
―― 先ほど、「ベストだと思う形でやると壁も増える」とのことでしたが、楽園追放でプロデューサーを務めたときには、どんな壁が立ちはだかって、それをどう突破してきましたか。
野口 楽園追放では、作り手だったときとは別の困難がありました。
作り手としてものを作っているときは、乗り越える壁は自分に関することだけなんですけれども、プロデューサーの仕事で生じる壁は、四方八方至るところに、いろんな会社も巻き込んで、幾重にも発生するんです。
プロデューサーは映画を作って終わりじゃなくて、作った映画を売らなきゃいけない。勝つ必要があるので、プレッシャーが全然違います。そもそも僕はプロデューサーってどんな仕事?というところから始まりましたからね。
―― そこからですか。
野口 普通はアシスタントプロデューサーから始めて30代でプロデューサーになるのに、僕はクリエイター出身で、40代で急になってしまいましたから。
でもよかったのは、VFXの仕事に関わっていたおかげで、いろいろな会社のプロデューサーに会えたんですね。それで「宣伝はどうすればいいんですか?」とか、1つ1つ聞きに行って教えてもらったんです。
最初の頃、プロデューサーって何をする人ですかと聞いたらこう答えてくださった方がいました。
「プロデューサーはお店のオーナーで、料理を作るコックが監督で、ソムリエや料理をサーブをするのがアニメーター。責任は全部オーナーにあるから、どんな方向性の作品を作るかはオーナーが考えなくてはいけない。もちろん経営も。だからオーナーが方向性を誤らせてお店を潰してはいけないよ」と。
納得できるような……でもよく分からないとか思いましたね。ただ、全責任があるということは、トラブルが起きたら仲裁し、お金がないと言われたらどうにか工面して、最終的にはその借りたお金を何億円も返さなきゃいけない。
スケジュールを守りながら、どこにリソースを割いてどこを切り詰めるか、全部自分でやらなきゃいけないんだなと。すべてが初めての事ばかりでした……。
業界最大手ならではの懐の深さでゴーサインは出たが……
“大人向けアニメのノウハウ”を求めて、会社の垣根を越える
―― 未経験にもかかわらず映画1本任せてくれた東映アニメーションさんも、相当太っ腹ですね。
野口 そうですね。東映アニメーションには、大作とは別に小規模で実験できるBライン的なものが存在するのですが、楽園追放は(規模的に)そちらに該当していたということもあります。
老舗なのでノウハウはすごく貯まっていますし、リソースもふんだんにあります。だから大きな仕事も来る。とてもありがたい環境です。
一方で楽園追放をヒットさせるには、いろんな障壁を突破する必要がありました。
まず、東映アニメーションはファミリー層向けのアニメが中心だったので「大人向けアニメ」についてはノウハウがあまりなかったんです。
大人のアニメファンを狙って、確実に興味を持ってもらえるような作品作りや宣伝のかけ方。それはCGクリエイター出身の僕にはわからないし、会社にもあまり経験者がいないという状態でした。
―― その状態から、どうされたんですか。ヒットさせるポイントはどこにありましたか?
野口 まず、座組みを作るところからですね。楽園追放の企画が立ち上がったときに、一緒にやってもらう(座組みになる)会社は、大人向けアニメが得意なところにお願いしたいと思いました。
いろいろ検討し何社かにアプローチした結果、アニメ制作はグラフィニカさん、劇場宣伝・配給はティ・ジョイさん、そしてパッケージ宣伝・BD販売はアニプレックスさんになりました。
当然ですが、社内や関連会社はどうするか?となりました。
―― と、言いますと……?
(次ページでは、「根回しとは、あらゆる人に相談して知恵を拝借する行為」)
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