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特集:ホテル・旅館産業に激震 Airbnbの脅威 ― 第3回

自動車、不動産、人材──業界の常識を破壊する「次のAirbnb」は?

2014年12月27日 07時00分更新

盛田 諒(Ryo Morita)/大江戸スタートアップ

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空き部屋を宿泊施設に転用する「Airbnb」が宿泊業界で波紋を呼んでいる。これは対岸の火事ではない。資産・資源を所有させるのではなくサービスとして使用させる「シェアリング・エコノミー」型の経済活動は、不動産・自動車・人材など様々な業界にインパクトを与える可能性がある。市場規模は規制緩和の方向次第だ。

 旅館産業に衝撃を与えたインターネット民泊仲介業、Airbnb。空き部屋を宿泊施設に転用し、外国人観光客を相手に年商500万円を売り上げる一般人もあらわれている

 モノを資産として独占するのではなくサービスとして使わせるという経済活動は「シェアリング・エコノミー」と呼ばれる。マサチューセッツ工科大学スローンビジネススクールの専門誌「MIT Sloan Experts」によれば、同産業は世界で約1100億ドル(約13兆円)規模のポテンシャルがあると見られている

 米国でシェアリング・エコノミーが伸びはじめたのは金融危機があった2008年ごろから。一般人から資金を調達するクラウドファンディングのように、従来どおり市場から資産を調達するのではなく、市場の外側に眠っている資産を有効活用して商売をしようという動きが現れてきた。

 野村リサーチ・アンド・アドバイザリーの西川拓アナリストは、レンタカー業者のように「資産を自分たちで持っている業者は『シェアリング』にあたらない」と話し、個人や中小企業を仲介する業者に成長性があるという。


モノをシェアする自動車シェアリング

 今後、大きな市場になると見込まれているのは自動車、設備、人材、不動産だ。まずクルマ大国の北米であらわれてきたのは自動車だ。

 カーシェアリング大手の「ジップカー」(ZipCar)を始め、米国では自動車系のサービスが次々現れてきた。その中で2010年に始まった「ウーバー」(Uber)は、ハイヤー運転手をスマホのアプリで束ねるサービスだ。

 従来のハイヤー会社と異なり、運転手を資産として抱えることなく、客と運転手(あるいはハイヤー会社そのもの)を仲介する形で手数料収入を得るビジネスモデルだ。Uberは今年6月には約2兆円近くの時価総額をつけるなど、投資家の間で話題になった。

 Uberでは一般人を運転手扱いする「白タク」サービス『uberX』も開発した。だが将来は単なる仲介屋のみならず、インターネットによる配車ノウハウを武器に自動運転技術を使ったビジネスも視野に入れているのではないかと西川氏。「最終的には人を運ぶだけでなく物流企業になるのでは」(西川氏)


資源をシェアするリソースシェアリング

 Uberが狙ったハイヤーを詮ずれば「市場にあるが、稼働していないリソース」だ。動いていない企業の設備を束ね、一般人が使えるサービスにしてしまえばいい。そんな発想の企業が日本国内でもぽつぽつと現れ、市場に影響を与えはじめている。

 「『ラクスル』は、稼働していない印刷会社を束ねて、コストを安くして回すビジネスモデル。お弁当屋さんの『ゴチクル』、クリーニング屋の『ホワイトプラス』などがある。要は、非稼働資産の有効活用だ」(西川氏)

 資源は企業だけにあるわけではない。市場に出回らない人材も基調な資源だ。インターネットに蓄積した人材データベースを活用して新たな雇用を生み出す「クラウドソーシング」が成長している。

 「たとえば家事代行の『エニタイムズ』。ゴリゴリの掃除などではなく、たとえばIKEAの家具を組み立てるのを手伝うといった、資格や技術がなくても出来ることを高齢者向けにやっている」

 全国の女性を集めてモデル事務所のようなビジネスをしている「美人時計」もクラウドソーシングの先駆けだ。クラウドソーシング大手のクラウドワークスが今年、マザーズに上場したことも話題を集めた。最近では、従来コンサル会社に頼んでいた調査を業界関係者に直接依頼できる「ビザスク」も注目されている。


物件をシェアする不動産シェアリング

 また西川氏は、クラウドソーシング型の事業者が伸びる一方、保険のような補償領域が伸びていくのではないかとも予想する。

 「家事代行で掃除をしているとき花びんを落としてしまったとか、従来の保険では適応しづらい部分に向けて新たな保険を作りはじめている」(西川氏)

 最後は不動産、つまりは物件だ。Airbnbは「宿泊」をターゲット市場に選んだが、不動産運用の観点から見ればいくらでも参入の余地がある。

 「『あきっぱ!』は、野球場のように土日には人が入るが平日は空き地になるという場所を貸すという商売。例えば日本を訪れる中国人のマイクロバスが停まれる場所が銀座あたりにはほとんどない。そうした需要があるのではないか。競合の『軒先.com』では駐車場なども扱っている」(西川氏)

 最近プロモーションで伸ばしているのは「スペースマーケット」だ。現在1200件ほどの物件を抱え、2~4割の手数料収入で運営しており、貸し会議室やホテルの宴会場といったイベント市場も視野に入れている。


規制産業が潜在市場、成長はまだまだこれから

 参入業者も増え、活性化してきたシェアリング・エコノミーだが、経済としてはまだ大きな動きが生まれていないと西川氏。要は儲かっていないのだ。

 シェアリング・エコノミー系のベンチャー企業が集まったイベント「シェアカンファレンス」では、意識の壁・事業規模の壁という2点が指摘されていた。資産を貸し出す側の意識を醸成するのに手間と時間がかかる一方、収益のメインが仲介手数料のため大きな金額になるまで時間がかかるというものだ。

 日本では規制の壁が強い。カーシェアリングで「乗り捨て」が実現するまで時間がかかったように、岩盤規制が壁になり、まだIT企業が儲けられるだけの規模が確保できていない。一方、シェアリング・エコノミーも単純に市場を破壊・駆逐するわけではなく、副次的に既存市場にも恩恵を与える側面があるという。

 「例えばベンツに乗ってみて、乗り心地がよかったら実際に買いたいという客がいたとする。それがシェアリングなら簡単にできる。犬を飼ってみたいということなら、ペットシッターとして何日か飼わせてもらうこともできる。そうした体験から新しい経済が生まれる可能性はある」(西川氏)

 低所得者層が「持たざる者」としてコアユーザーになると考えれば、資産を購入してシェアする主体=資産のオーナーは新中流層になる、という見立てもできる。オーナーにとっての使い勝手や値段のバランスで競争が起き、市場が活性化するというシナリオも考えられる。

 成長はこれからのシェアリング・エコノミー業界。どの事業者も様子見という段階だが、規制緩和の動き次第で大きく跳ねる可能性はある。不動産や自動車など巨大産業を動かす要因にもなりうるだろう。

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