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ヒットマンに聞くイノベーションのアイデア

黒ラベルの逆張りで当てた「ホワイトベルグ」

2014年09月08日 16時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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ベルギービールのような柑橘系の風味がある、サッポロビールの新ジャンル「ホワイトベルグ」が面白い。5月の発売開始から8月末までの3ヵ月強で約86万ケース(大びん換算)を売り、販売計画の150万ケースに向けて順調に推移している。昨年1342万ケースを売った「麦とホップ」、7ヵ月で358万ケースを売った「極ZERO」に次ぐ、同社のヒット商品だ。「糖質ゼロ・プリン体0.00」(極ZERO)といった分かりやすい売りがないにも関わらず、クチコミで人気を集めた。開発にあたった新価値開発部の後藤正明氏は「日本のビール市場を変えたい」と意気込む。

today's hitman

今回のヒットマン:サッポロビール 新価値開発部 後藤正明 写真:編集部


――「ホワイトベルグ」がクチコミを中心にヒットしています。

 インターネットで若い方中心に拡散が進んでいます。サッポロビールの中で、ここまでインターネットで話題になった商品は他にないんじゃないかと。


――初めに、ホワイトベルグを開発しようと思った理由を教えてください。

 青くさい話ですが「日本のビール市場を変えたい」という思いがあったんです。

 サッポロに入社したときからビールはワインのような奥深い世界だと思っていました。世界にはいろんな種類のビールがあるのに、日本のメジャーなビールといえばピルスナータイプがほとんど。ビールの世界をもっと広げ、お客さまに楽しんでもらいたい。また最近はクラフトビール(地ビール)ブームもあります。小さなブルワリーで作った多様なビールがあり、ピルスナー以外のビールを楽しもうという機運も高まった。開発のアイデア自体は4年前からありましたが、やりたいことと世の中の空気がマッチしたのが発売のきっかけになりました。


――ホワイトビールはマイナー商品です。あえて隙間をねらったのはなぜですか?

 サッポロビールは昨年から「オンリーワンを積み重ね、ナンバーワンへ」というビジョンを打ち立てていて、ホワイトベルグも「大きな市場でなくても、深く愛される商品を作ろう」という発想から生まれました。近年、ビールの総需要は飽和・縮小傾向にありますが、市場が飽和しているときには市場を細分化し、お客様を明確にした商品づくりが必要です。浅く広くではなく、狭く深く。そして「先駆ける」ということも大事かと。

 そこでピルスナータイプではなく、若年層やビール好きの層に深くささる新商品を、競合に先駆けて開発しようということになったんです。

 調査してみると、海外ビールに対する不満点は大きく分けて2つありました。まずは価格です。普通に500~600円、バーで飲むと1000円以上もしてしまう。人気のベルギーのホワイトビールの味わいを手軽に購入できる新ジャンルで作れば、チャンスがあるのではと考えたんです。先ほどお話した通り、クラフトビールブームも追い風にありました。

 パッケージも、市場にまだない新しいカラーにしたいという思いがありました。開発段階ではゴールドやホワイトも候補案として準備していましたが、最後は現在の色合いであるブルーグリーンに決めました。社内でも賛否両論ありましたが、「日本のビール市場に風穴をあける」という思いを形にした結果です。


――ビジョンはよく分かりますが、「売りづらい」と言われませんか?

 たしかにスーパーによっては扱ってもらえなかったチェーンもあります。ただ、扱っていただいたチェーンでは売れ行きがいいです。一回手にとってもらえると、リピートしてもらえる割合が高い。なぜかといえば、この商品の代わりになるものがないから。乱暴な言い方をすれば、今までの新ジャンルは、似たような香味で代替できる商品があるかもしれない。でもホワイトベルグを気に入ってもらえたら、この味を代替できるものは少なくとも新ジャンルにはありません。


――若者はビール離れしているとも言われますが、実際はそうではなかったんですね。

 報道でそういう言葉を聞きますが、わたしは「ビール離れ」というより「ビール知らず」ではないかという仮説を持っています。私自身、会社に入ってから、先輩たちとビールを飲む機会も増え、いつの間にかビール好きになっていました。最近は、そういった機会が減ってきているんじゃないか。若者はビールに背を向けているのではなく、ビールとの接点がないのが問題で、きっかけがあればこちらを向いてもらえるのではないかと。

 そこで20~30代の味覚・嗜好を調べてみると、40~50代に比べて「飲みやすさ」と「香り」の嗜好が強かったんですね。よくビールで語られるのはコクとキレですが、若者には「爽やかさ」「香り」のニーズが強かった。

 そのため、たとえば2012年に発売した新ジャンルの「北海道PREMIUM」はゴクゴクッと飲んでもらえるような香味ですが、ホワイトベルグはテレビを見ながら、ネットを見ながら「ながら飲み」してもおいしく飲めるような香味に仕上げたんですね。


――柑橘系のスパイスで香りを出しています。開発で悩んだのは?

 ベルギーのホワイトビールで伝統的に使用されるコリアンダーシードとオレンジピールを使うことを決めたのですが、素材の調達が大変でした。複数の調達元にあたってもらいましたが、実際に仕込んでみると産地によって香りがかなり異なるんです。

 いちばん悩ましかったのは、香味のバランスです。200~300名に実際に飲んでいただいて反応をみる調査をするのですが、香りが立ちすぎると「強すぎて飲みづらい」と言われ、逆に弱すぎると「特徴がない」と言われてしまう。それに香りと後味はリンクしていて、香りが強すぎると後味も悪くなってしまうという難しさがありました。ベストな香味に調整するため、何度も試醸し、目標の香味に近づけています。


――「黒ラベル」のような伝統商品の逆張りでヒットしました。今後はどう考えていますか?

 まだ具体的にはお伝えできませんが、「ビールテイストの新しい楽しさを届けたい」というのが目的なので「点」ではなく「面」で訴求できればと。わたしが子供のとき、スーパーでチーズと言えば6Pチーズしかありませんでしたが、いまチーズ売り場に行くと、カマンベールチーズやナチュラルチーズのようにいろんなチーズがありますよね。同じようにビールテイスト商品もいろいろなシーンに合わせて楽しんでもらいたい。今後もお客様に新しい価値を届けられる商品を作り、ビールテイストの楽しさを拡げていきたいと思っています。




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