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「Hyper-V=Windows」という考え方はもう古い

Linux開発者こそ知っておくべき、サーバ仮想化の「今」

2014年01月15日 14時00分更新

文● 岩上由高/ノークリサーチ シニアアナリスト

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 企業向けのシステム開発や構築に携わるならば、今や仮想化技術、とりわけサーバ仮想化の知識と理解は必須である。だが、この領域は技術進化もユーザーニーズの変化も非常に速い。ここではノークリサーチ シニアアナリストの岩上由高氏による寄稿を通して、仮想化に対する最新のユーザーニーズと技術情報をお届けする。

 「サーバ仮想化」というキーワードに対しては、「サーバ台数削減の手段である」「高価なハイパーバイザが別途必要」という認識が依然として少なくない。実際、中堅/中小企業を顧客とするSIerの方々と話をすると、「ユーザー企業の多くはサーバ数台の環境なので、台数削減のニーズは低い。コスト削減の取り組みなのに新たにハイパーバイザの購入が必要となっては本末転倒で、ユーザー企業に提案しづらい」という声をよく耳にする。

 だが、最近の状況は大きく変わりつつある。システム開発の基盤がLinuxであるかWindowsであるかに関係なく、「ユーザー企業はサーバ仮想化に何を求めているのか?」「サーバ仮想化の実現手段はどこまで進歩したのか?」を理解しておくことは、SIerにとって最重要事項の1つといえるだろう。

 そこで、本稿ではユーザー企業に対するアンケート調査の結果を交えながら、「Linux開発者だからこそ知っておきたいサーバ仮想化の最新事情」を解説していくことにする。

中堅・中小企業においても普及が進むサーバ仮想化

 まずはサーバ仮想化活用の現状について確認しよう。以下のグラフは、年商5億円以上のユーザー企業に対して「導入済みサーバにおけるサーバ仮想化技術の活用状況」(複数回答可)を尋ねた結果を、2012年1月時点と2013年1月時点で比較したものである。

 いずれの年商帯においても、2012年から2013年にかけて「活用中」と「活用を検討している」の割合が大きく増加している。サーバ仮想化は大企業だけでなく、中堅/中小企業においても普及が進んでいるわけだ。

サーバ仮想化の目的は台数削減だけではない

 年商規模が小さくなれば、導入するサーバ台数も少なくなる。だが、先に挙げたグラフが示すように、年商規模の小さなユーザー企業においてもサーバ仮想化の活用意向は高い。そうなると「サーバ仮想化は物理サーバ台数を削減する手段」という捉え方では、この結果を説明することができなくなってしまう。

 その答えとなるのが以下のグラフだ。これは年商5億円以上のユーザー企業に対し、導入済みサーバのうちで重要度の高いものを最大3つまで挙げてもらい、サーバ単位でサーバ仮想化の活用目的を尋ねた結果である。

 回答項目のうち「サーバの運用管理作業を削減する」や「消費電力や設置スペースといった維持コストを削減する」は、サーバ台数の削減と密接に関係している。だが、その一方で「サーバリソースの最適化を図る」「システムの安定稼働を図る」「システムの迅速な導入を図る」など、サーバ台数が少ない場合にも有効な項目も挙げられている。

 1台の物理サーバに1つのシステムを割り当てるかたちの場合、CPUやメモリといったサーバリソースが過剰になることもある。サーバ導入に割ける予算の少ない中堅/中小企業だからこそ、そうした無駄をなくす「最適化」を行って必要最小限の物理サーバをフル活用したいといったニーズが生じるわけだ。またここでの「安定稼働」とは、OSやアプリケーションの安定性だけでなく、ハードウェアや事業も含めた広い観点での安定性を指している。システムを仮想化しておけば、いざという時には別の物理サーバやクラウド環境に移すことができる。これまで敷居が高かったハードウェア障害への備えや事業継続の取り組みが、中堅/中小企業にとっても身近になったと言えるだろう。

 このように、サーバ仮想化はもはや「サーバを数多く導入する大企業が台数削減に用いる手段」だけでなく、「中堅・中小も含めた幅広いユーザー企業が様々なサーバ管理/運用の課題を解決する手段」へと適用の場を広げているのである。

サーバ仮想化における最大の課題は「コスト」

 では、中堅/中小を含む幅広いユーザー企業がサーバ仮想化を活用する際に直面する課題とは何だろうか?以下のグラフは年商5億円以上のユーザー企業に対し、「導入済みサーバにおけるサーバ仮想化技術活用の障壁(複数回答可)」を尋ねた結果のうち、比較的多く挙げられた項目をプロットしたものである。

 いずれの年商帯においても、「サーバ仮想化を実現するために必要な仮想化ソフトウェア(ハイパーバイザ)が高価である」「サーバ仮想化を実現するために必要なストレージ環境が高価である」といった回答が多い。つまり、サーバ仮想化環境を構築するためにかかるコストが大きな課題となっているわけだ。加えて、年商規模が小さくなるにしたがって「サーバ仮想化によって得られる投資対効果が不明確である」の回答割合が高くなっている。IT予算が限られる中堅/中小企業では、相応のメリットが見込めなければ、コストを要するサーバ仮想化には踏み込みづらい。

 すでに述べたとおり、サーバ仮想化は「物理サーバ台数の削減」だけでなく「サーバリソースの最適化」や「システムの安定稼働」など、さまざまなメリットをもたらす。これはユーザー企業のみならず、SIerにとっても大きなメリットだ。土台となるサーバへの投資や管理/運用の負担が軽減されれば、SIerの本業であるシステム構築と運用に多くの予算が割かれるようになる。つまり、サーバ仮想化を普及させることはSIerにとっても重要な取り組みの1つといえる。

 だが、上述したような複数のメリットを訴えたとしても、やはり「ハイパーバイザが高価である」「ストレージ環境が高価である」といった障壁の方が上回ってしまうこともある。言い換えれば、中堅/中小も含めた幅広いユーザー企業にサーバ仮想化を広く普及させていくためには、次のようなポイントをクリアしなければならない。

  • ポイント1:極めて安価または無償のハイパーバイザが提供されること
  • ポイント2:SAN(Storage Area Network)などの高価なストレージ環境を構築しなくても、「サーバリソースの最適化」や「システムの安定稼働」といったサーバ仮想化の幅広いメリットを享受できること

(→次ページ、Linuxが動作し、安心して利用できる無償のハイパーバイザは?)

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